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13話 もう一回見せようか?

「大丈夫だよ」

「なっ――!?」


 正直、かなり驚きはした。

 ゴンベルドンは、本気で俺の喉を貫こうと、刀を突き付けてきた。

 いくら殺伐とした世界だとしても、単に苛立ったという理由で初対面の相手を殺そうとする人なんていないと思っていた。

 だから、そんな行動に出るゴンベルドンを見て、俺は驚いてしまった。


 だが――同時に、確信もしていた。

 ゴンベルドンの攻撃で俺は殺せない。

 その確信どおり、ゴンベルドンの刀は、俺の喉に突き付けられた瞬間に粉々に砕けてしまった。


「バカな……お前、何をした?」

「何もしてないよ。随分脆い剣だな」


 これについても素直にいえば、俺は驚きを隠せなかった。

 まさか自分に突き刺さってきた剣が、逆に壊れてしまうなんて思っていなかったから。


「ふざけるなっ!!」


 そう叫びながら、ゴンベルドンが俺の胸倉をつかんでくる。

 焦っているのだろうか。その顔には余裕がない。

 まるで幼い子供が駄々をこねているように見えてしまう。

 やはり、日本にいた頃とは精神状態がまるで違う――


「お前……ガラ・ドーラをここから遠ざけたくて決死隊なんか作ったんだろ? でも安心しろ。ガラ・ドーラは俺が倒してやった。だから……そうだな、俺に報酬をくれよ」

「あ……? 何言ってんだテメェ?」

「俺が要求する報酬は一つ。シエルを奴隷から解放することだ」

「えっ――ユウ様?」


 ふと、シエルが驚いた声を出す。


「報酬だぁ? ふざけるな! てめぇにそんなもん払う義理はねぇ!! そもそも、こんな上物、誰が渡すかよっ!!」


 激昂するゴンベルドン。

 しかし、彼の握っていた剣が砕けてしまったせいだろうか。

 振り上げられた拳が俺に向かうことはない。動揺しているようだ。


「だ、だめです……だめです、ユウ様っ! 私なんか、どうでも――」

「どうでもよくないっ! シエルはそんな存在じゃない!!」

「っ――!」


 ゴンベルドンの手を振り払い、シエルの方へ振り返る。

 そのまま、シエルの手をとった。

 そう――ここまで来たら、恥ずかしがっている場合じゃない。

 しっかり言葉で伝えないと、俺は一生後悔することになるだろう。


「シエル……お願いだっ! 俺と一緒に来てくれっ!! この世界で俺は――君と一緒にいたいんだっ!!」

「っ――! なっ、なにを――なにをっ!?」


 裏返った声をあげるシエル。

 シエルの顔の周囲に湯気を幻視してしまうほど、彼女の顔には熱がこもっているのが見て取れる。


「このっ……調子にのってるんじゃねええ!!」

「っ――!?」


 ふと、シエルが小さく息をのみこむ。

 その理由が、俺の頬に突き付けられたゴンベルドンの拳にあることに、俺は少しの時間を要した。

 彼のパンチのダメージは、蚊にでもさされたのかと錯覚するほど、全く感知することができなかったからだ。


「……なんだ。その体は見掛け倒しなんだな?」

「貴様っ……」


 ブチッという擬態語が文字になって浮かび上がるぐらい、分かりやすく怒りの感情を露にするゴンベルドン。

 でも、そんな彼の表情を見ても失笑しかわいてこない。


「お前も殴ったんだ。一発ぐらい殴られても文句はいうなよ」

「っ――!? うごっ――!?」


 一発――彼の腹部に拳を入れる。

 すると、ゴンベルドンの体は、風に吹かれた塵のように、あっけなく後ろへ飛んで行ってしまった。

 そのまま屋敷の扉にぶつかり、その中に彼の体が消えていく。

 何かガラスが割れるような音が聞こえてきた。屋敷の中まで飛んで行ったゴンベルドンがどうなっているのか――想像するに難くない、凄まじい衝撃音だ。


「何事だっ!!」


 ……さすがに派手にやりすぎたか。

 警備兵と思われる男達がやってきて、俺達の周囲を取り囲んできた。

 数は十人ほどだろうか。全員武器を所持しているが――負ける気はしない。


「ユウ様……」


 物凄く心配そうに俺のことを見上げてくるシエル。


「ごめんな。せっかく俺のために紹介しようとしてくれたのに。でも、あんな奴にシエルがついていくのは……さすがに我慢できないかな」

「…………」


 シエルは、瞳を潤ませたまま喋らない。

 だがそれも束の間。シエルは蛇腹剣を構え、周囲の警備兵達へ視線を移す。


「私は……私は、ユウ様をっ……!」

「おい、テメェらっ! そいつに手を出すんじゃねぇ!!」


 ふと、屋敷の中からゴンベルドンの声が響く。

 まるで陽炎のようにゆらりと体を揺らしながらゴンベルドンが屋敷の奥から歩いてくる。


「調子にのりやがって……クソガキッ、この俺に無礼をした罪――万死をもってしても償えねぇぞっ!!」

「これは……! いかんっ! 皆、離れろっ!!」


 警備兵達が、目の色を変えて一目散に逃げていく。

 一体何を考えてるのか――そう、彼らを見て呆気に取られていると、屋敷の中から突風が吹いてきた。


「ソウルサモンッ!! きやがれ、ゲディア・バジリスク!!」

「ユウ様っ! あぶないっ!!」

「え――」


 ふと、シエルがいきなり俺に抱き着いてきた。

 そのまま俺を抱きかかえるように扉の横へジャンプし、一緒に地面に倒れ込むシエル。

 その直後、扉の中から異形が飛び出してきた。


「これは……」


 三つ首を持つ蒼の大蛇。

 その牙からしたたる唾液は、禍々しい緑色をしており、こぼれた先の地面は焼き焦げたような跡が刻まれている。


「ユウ様っ! だ、大丈夫ですか……?」


 急いで起き上がり、俺を抱き起すシエル。


「あぁ。助けてくれてありがとう」

「い、いえ……そんな……冷静に考えたら、こんなことしなくてもユウ様なら――」

「はは、そういうことを言ってるんじゃないよ。分かるだろ」

「…………」


 こくりと頷くシエル。

 それだけ分かってくれていれば十分だ。

 服についた土を払い、改めて敵を見る。


「ひゃはははははははっ! どうだ! レベル100の召喚獣は! 凡人がナメた真似すると命を落とすと教えてやるよ!! もっとも、教えたところですぐに死んじまうから意味ねぇけどなぁ!! ひゃっはははははは!!」


 蛇の後ろで高笑いをしているゴンベルドン。

 この化け物を使役しているということか。さすがファンタジー、なかなか胸躍ることをしてくれる。


「土に沈めてやるよっ! やれっ! カースドロック!!」


 ゴンベルドンが腕をあげると、蛇がゆっくりと頭を上げた。

 頭の周囲を包み込むように展開される黄色の魔法陣。

 その魔法陣の中央付近でいくつもの岩が形成されていく。


「死ねえええええええええっ!!」


 腕を払うゴンベルドンの動きに合わせ、蛇が頭をぐるりと回す。

 大量の岩が強風にあおられた雨のように俺の方へ降り注いできた。


 だが、俺は勝利を確信していた。

 この状況を覆す魔法の名前が既に頭に浮かんでいたからだ。


「クリムゾンバースト」


 前に手をかざす。

 凄まじい力の集約を感じた。


「うわああああああっ!?」


 その直後、蛇の足元から巨大な火柱が発生する。

 屋敷よりも高く、俺に降りできた岩をも巻き込み、蛇の体を空高くまで押し上げた。

 警備兵は、悲鳴をあげながら逃げていく。


「……は?」


 火柱によって上空に押し上げられた蛇は、黒焦げになり、光の粒子となって消えていく。

 そんな憐れな召喚獣を見上げながら、ゴンベルドンはぽかんと大口を開けていた。


「な……なんだ……なんだ今のは? 何が起きた?」


 おそるおそるといった感じで、ゴンベルドンが俺に視線を移してくる。

 巨体に似合わない、恐怖に満ちた幼子のような表情。

 すこしおかしくなって、くすりと笑う。


「魔法だよ。もう一回見せようか?」


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