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11話 参りましょう!

 十分程、俺は何も言葉を発することができなかった。

 そして、シエルからも何も言葉を発してこなかった。


 名残惜しさを感じながら歩き続ける。

 目的地までの時間が長くなるように祈りながら。


 すると、街の片割れで血を流しながら倒れ込んでいる獣人族の男が目に入った。


「一般住民に仕えていた奴隷だと思います。おそらく、周辺の魔物討伐に駆り出され怪我を負ったのでしょう」


 俺がその光景に疑問を感じることは、シエルにも分かっていたのだろう。

 シエルに彼のことをきこうと思った瞬間、先回りするようにシエルはそう答えてきた。

 しかし、他の人は、まるでその獣人族の男が目に入っていないかのように淡々と歩いている。


「獣人族に薬草はまわってきません。自然回復を待つ以外方法はありません」

「自然回復って……それでどうこうなる怪我じゃないよな、あれ……」


 息をしているようだが、腕や背中が派手に割かれている。

 ぱっとみただけでも、明らかに重症だ。

 だが、周りの人々は誰も彼に声をかけない。汚物でもみるように、そそくさと避けていくだけだ。 


「はい。だから捨てられたのだと思います……デクシアではよくあることです」


 そう言いながら、ぎゅっと俺の腕にしがみついてくるシエル。

 ――少し、ドキッとしたが、そのシエルの行動の意味ぐらい俺にも分かる。


「ヒール」


 そう俺が呟いた瞬間、横わたる獣人族の男の周りをエメラルドグリーンの光が包み込んだ。

 その数秒後、獣人族の男がむくりと体を起こす。


「あ……あれ? 痛みが……ない?」


 きょろきょろと周囲を見渡す獣人族の男。

 ……ここは目を合わせないでおこう。何事もなく去るのが一番よさそうだ。


 ――しかし、彼は、今後どうするのだろう。


 傷が癒えたとしても、彼が衣食住を確保できたわけではない。

 差別や貧困までは、回復魔法じゃ治せない。

 そんなことを考えていると、シエルが優しく微笑んできた。


「やはり……ユウ様はお優しいですね」

「え?」

「私達にとっては日常の光景なのに。それでも、貴方は胸を痛めてくれている……」

「それはシエルも同じだろ。シエルは……優しいよ」

「そうですか……えへへ、ユウ様にそう言っていただけると、なんか嬉しいですね……」


 シエルの俺の手を繋ぐ力が少し強まる。

 何かを堪えるように唇を結ぶシエル。

 だが、しばらくすると、シエルは脱力したように微笑みながら俺のことを見上げてきた。


「そうそう、これからのことですが――まずはガラ・ドーラのことについて、ゴンベルドン様に報告をしたいと思います。ユウ様の強さがあれば、ギルドへの登録も認めてくださるはずです。そこで職は手に入れられると思います」

「ありがとう。シエルはどうするの?」

「私はゴンベルドン様の奴隷ですから……訓練と試験を受ける日々に戻ります」

「…………」


 分かっていることとはいえ……やはり、その現実が目の前に迫ってくると、胸が締め付けられる。

 シエルと会ってから、まだ数日なのに――ここまで別れが惜しくなるとは。

 それに、シエルの今までの態度から察するに、ゴンベルドンとやらがシエルのことを大事にしているとは思えない。

 ここで別れてしまって本当に良いのだろうか。


 少なくとも、俺が読んできた異世界ファンタジーの物語の主人公達は――



「あ、そろそろですね……あれがゴンベルドン様のお屋敷です」


 シエルに指摘されなくても分かる。

 一般住民が住むようなところから離れた場所にありながら一際目立つ、豪勢な屋敷。

 誰がどう見ても、デクシアで一番立場のある人間が居る場所だ。


「あの、ユウ様。……どうしてもお伝えしたいことが」


 その門に近づこうとする前に、ふとシエルが足を止める。

 ゆっくりと手を離すと、シエルは俺の正面に移動して、改めて頭を下げてきた。


「……本当にありがとうございました。短い間でしたけど……貴方と過ごした時間は、一生の宝です。……どうか、これから貴方が過ごす日々が幸福に満ちたものでありますように。そう……陰ながらお祈りしております」

「シエル……」


 その表情を見て察する。

 シエルは、俺と再会することを考えていない。

 というか――再会できると考えていない。


「……はい。たとえこの先、どんな扱いをされたとしても……私はシエルです。それは絶対、忘れません。ユウ様。本当に……本当に、ありがとう」


 最後のあたりは、涙声になっていた。

 でも、シエルの顔は笑っている。

 今まで見てきた中で、一番の明るさで。



「では、参りましょう! 残り僅かですが――御供させてください、ユウ様っ」




 ――残り僅か。



 本当に?

 本当に、それで……



「……まぁ、まずは会ってみないとな」

「ユウ様? どうされましたか?」


 あの女神は言っていた。

 俺でも特別になれる世界があると。

 どうせ滅びる世界だとか、変なことも言っていたが――それでも、俺はガラ・ドーラを倒せたのだ。


 日本にいた時の俺は、特別なんて程遠い、ただの無能な一人の社会人だった。

 でも、この世界なら。この世界でなら――シエルを追いかける力は、俺にだってあるはずだ。



 そう決意して、俺はシエルに言葉を返す。



「なんでもないよ。行こう、シエル」

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