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5話

(おかしい……)


 アキラが知多学園に入学して早二ヶ月。

 入学式初日に生徒会室で香織と話した後、四峰祭に参加させる為に何かしらのアクションが無かったのもそうだが、何よりも問題は──


(友達が一人もできないなんて……)


 そう。入学式から二ヶ月も経つと言うのに一人も友人と言えるような友人が出来ていなかったのだ。

 アキラが入学前に描いた青写真は、描いただけで終わってしまったようだった。

 それを証拠に時間はお昼休み。知多学園の屋上でアキラは一人で昼食を食べていた。吹き抜けてくる風が心地よい。

 屋上は生徒の落下防止用の柵が四方に張り巡らせている以外に何もなかった。柵が張り巡らせられている以上、生徒に解放されている筈なのだがベンチすら無いのは不思議である。

 もしかしたら過去に事故か何か合ったのだろうか。とアキラは屋上に来た当初は考えていたが、屋上を利用し始めてから一ヶ月も経てばどうでもよくなってきていた。

 手に持つコッペパンを頬張りながらアキラは考える。


(どこで間違えたんだろう……)


 結論から言えばアキラは行動を間違えていた。

 初日の自己紹介から始まりその後に至る行動までおおよそ全ての行動を間違えていたのである。初日の自己紹介で本人は悪い印象を与えたくないために当たり障りのない自己紹介を行ったが、あまりに情報を出さな過ぎた。

 話し方も簡潔にしようと心掛けた結果、周りに素っ気ないイメージを持たれてしまったのである。

 そのため、情報がない他の生徒達は共通の話題が分からなくアキラのもとに話しにいくのが難しくなったのである。

 それでも話しかけようとしてくれた者も中にはいたのだが、アキラは中学までの癖で一言二言で話を終わらせるような返事をしてしまった為に周りから話をするのが嫌なんだ。と思われてしまったのも大きい。

 それに何より、入学式初日に香織が話していた通りアキラのフィンブルでのイメージが大きかった。

 そのイメージのせいでアキラを知っていたものはあまり近づかなく、知らない人もその人達に引き摺られて近寄らないようになってしまったのである。

 おまけに、フィンブルの日本代表のキャプテンと言うところからクラス委員長を押し付けられてしまう始末である。

 そうして、クラス委員長を押し付けられたことで他のクラスメートはアキラに対して、案外面倒ごと引き受けてくれるタイプか? という認識を抱き始め、厄介ごとはアキラに振るというような流れまでできてしまっていた。

 アキラが一度でも断ったりしていれば話は変わったのかもしれないが、頼られるのが嫌いでは無かったのか、断ったことで嫌われるのを避ける為か。彼女は一度も断ることをしなかった。

 そして、すべて解決してきたのである。

 あるいは、自分から人に話しかけに行けば状況は大きく変わったのだろうが、彼女はどうしようもなく受け身だった。

 彼女の名誉のために言うが何度かは話しかけようとはしたのである。できなかっただけで。

 結果として、アキラがクラスメートに話しかけたのはクラス委員長としてクラスメートの提出物を集めるときの声掛けと、ホームルームの進行で意見を聞くときだけであった。

 お陰で彼女のクラスでのポジションは入学からはや二ヶ月、早々に決まってしまった。

 面倒ごとを全て解決してくれる便利な委員長である。


「……」


 ため息の一つもつきたい衝動に駆られるが、そこはグッと飲み込む。周りで誰が見ているかは分からないのである。

 ため息一つで何がどう変わるかは分からないが、得てしてそういう小さな所から状況は悪化していくのである。

 ただでさえ人が寄り付いて来ないのに変な噂がたって更に人が寄り付いてこなくなるのは遠慮願いたかった。


「……」


 モグモグと一人パンを頬張り続けていると、ふと横から声がかかってきた。


「今日はとってもいい天気ね」


 声をかけられた方を見ると、白い長髪が特徴的な少女が立っていた。

 以前見た記憶があったがはたして何処だったろうかと思っていると、向こうは更に言葉を投げ掛けてきた。


「あら? 覚えてない?」

「ごめんなさい。ちょっと思い出せないわ」


 やや困った顔で返答するアキラに少女はこほんと咳払いを一つ。


「なら、改めて自己紹介をしましょうか。あの時私と副会長さんは自己紹介したけど、あなたはしていなかったものね」

「あぁ、あの時の……」


 少女の発言でいつ出会ったのか思い出したアキラは納得したかのようにしみじみ言葉を返す。


「思い出してくれたの? でも覚えてなさそうだからもう一度しておくわね。一年三組所属の白鷺 遥。よろしくね」

「私は二組の塚川 アキラよ」

「うん。これからよろしくね。隣失礼してもいいかしら?」

「……えぇ、どうぞ」


 アキラの了承を得た遥は隣に座る。

 横に座った遥は自分の昼食を用意し始める。左手に持っていた包みを広げると中から出てきたのは四段重ねの重箱であった。


(えっ、多くない? その量を一人で?)


 アキラが僅かに目を見開いて驚いている。


「どうかした?」

「いえ、なんでもないわ」


 まぁ、何事も人それぞれ。自分には多い量だが、彼女にとってはそれが普通の量なのだろうとアキラは納得して自分の食事に戻った。


「あら、あなた昼食、惣菜パン一つなの?」

「イチゴ牛乳もあるわよ」

「だからなによ。それじゃ、お腹は膨れないでしょう? 楽しむ余裕もないじゃない」

「楽しむ? 食事なんて食べて終わりでしょう?」

「――っ!? あなた正気!? いい? 食事を考えることは習慣を考えることなのよ! 食事はそのまま、その人の生活に反映されるのよ!」


 どうやら遥は食事にはうるさい性格のようだった。食いぎみで持論を展開する程度には拘りがあるようだ。

 そんな遥の様子にアキラは──


「そうなの」

「そうなのよ!」


 同意で返すことしかできなかった。

 単純に急に距離を詰められた事に戸惑った事もあるが、なによりもほぼ初対面で、お互いこれから距離感を探っていくような間柄にも関わらず無造作に距離を詰めて展開された熱い持論を、特に持論も何も興味すらない自分が否定するのは憚られたからである。


「……」

「……」


 そこで会話が終了してしまった。やや気まずい空気が二人を覆う。

 この空気をどうにかする術をアキラは持っていなかった。

 どうにかするべきなのか遥の方を横目に見ると、あまり気にしていないようで目の前に広げたお弁当に箸を伸ばしていた。


(まぁ、向こうが気にしてないなら良いか)


 先程の発言の通り実に美味しそうに食事をする遥を尻目に、アキラは手に持ったイチゴ牛乳を啜るのだった。


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