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4話

 アキラ達は自分達の持つ情報と遥の持つ情報がどれだけ違うのか確認し、その部分を埋める為に簡潔に遥に教え始めた。


「えーっと、実技科がフィンブルと言われるスポーツ。というか格闘技? をメインで教えていて、技師科はそのフィンブルっていうスポーツで使う道具の修理や調整をメインで教えている。ってことでいいんですよね?」


 遥は、先ほど教わった内容を自分に説明するように二人に確認を求める。


「そうですね、その認識で問題ありません」

「補足するとしたらフィンブルで使用する道具のことを総じてレプリカと呼ぶのよ」


 飲んでいたお茶のカップを口から離してからアキラが律儀に補足する。


「ちなみに、お二方が入られた普通科はフィンブルに関する授業がない分、世間一般の進学校と同じカリキュラムが組まれていますので勉強にはしっかり取組んでくださいねー」

「分かりました。留年は流石にしたくないので頑張ります」

「まぁ、学園としても留年は余りさせたくないので、補習とか追試で大体なんとかしてくれますから余り気負わずに自分のペースで良いと思いますよ」


 香織はお茶を一口啜る。


「あはは……頑張ります。それで、もう一つ確認なんですけどそのフィンブルで使用されているレプリカって言うのは人ごとに性能が違うんですよね?」

「そうですねー。レプリカは種類がたくさん有るので人ごとに戦いかたが違います。火を操る人や水を操る人。怪力を発揮する方などなど。本当に様々ですね。その人ごとに違う戦いの魅せ方が売りと言えますねー。ちなみに、なんで複製品レプリカなんて名前をつけられたのかは私も分かりませーん。アキラちゃんは知ってたりするんじゃないですか?」


 お茶を飲んでいたアキラは急ぐわけでも焦るわけでなくゆっくりとカップをソーサーの上に戻してから話し始めた。


「私も流石にそこまでは分からないですね。レプリカって言われてる位なので元になった何かがあったんだろう。くらいの憶測は有りますけど。答えを知る術がない以上、詮無いことです。私から白鷺さんに敢えて補足をするならレプリカは形状も違うって所かしら。メジャーどころだと剣や盾、鎧、杖、銃や弓なんて一般的な武器防具から、眼鏡や手袋みたいなアクセサリー。面白いところだと椅子なんてものもあったわね」

「あなたも詳しいのねぇ」


 アキラの補足に遥が感心して言葉を投げる。


「もしかしてですけど、お二人が知り合いなのも、そのフィンブルが関係有るんですか?」


 遥のふと思い付いた疑問に──


「ピンポーン。大正解です。こう見えて私たちはその界隈では有名人なんでーす!」


 香織は肯定で返した。


「私たちは元日本代表だったんですよ。中学生の部でしたけど。私が中学三年の時に日本代表の副キャプテンでアキラちゃんがキャプテンでした。去年もキャプテンでしたよね?」

「……そうですね」

「えっ、二年生でキャプテンだったんですか?」

「そうなんですよー。アキラちゃんは史上初の二年生でキャプテンです」

「って言っても、フィンブルは始まって十五、六年の若い競技だから今後同じような人が出てくる可能性は十分あるわ。それに、私は名ばかりのキャプテンだったし」

「でも、二年生から二年連続で日本代表のキャプテンってことは、相当そのフィンブルっていうので強かったのよね?」

「強いなんてものじゃないですよー。アキラちゃんは最強です。公式戦無敗の連勝記録保持者でーす」

「身長高いものねぇ」

「……関係ないでしょ」


 香織の話を聞いた遥はアキラの方を見て謎の評価をした。


「まぁ、身長が高い云々は置いておくとして。アキラちゃんが普通科に入ったのは驚きました。私はてっきり実技科に入ってくれるものとばかり思ってましたから」

「知多学園には誘われましたけど、実技科には誘われなかったので」


 香織の言葉に対するアキラの返答を聞いて遥は首をかしげる。


「なんで実技科に入らなかったの? そんなに強いならわざわざ普通科に入るより良かったんじゃない?」

「……そうね。そうかもしれないわ」

「私もそれは聞きたいですね。私はアキラちゃんには実技科に入ってもらうつもりで知多学園に誘いましたから。だからあなたの口から普通科に入った理由を聞いておきたいわ」


 香織の目がまっすぐアキラを射抜く。

 暫く重い沈黙が流れたあとアキラは意を決したのか話し始める。


「私は負けるのが嫌なんです。なので普通科に入りました」

「それは逃げてるのと一緒なんじゃ?」


 アキラの発言に遥が疑問を投げる。


「いいえ。貴女がそう言えるのは私の今の発言を聞いたからよ。他の人はおおよそほとんどの人が疑問には思っても逃げたとは思わないわ。実績だけはあるもの。勿論中には事情を知らなくても逃げたって思う人もいるでしょうけどね。まぁ、それも時間の問題よ。いずれ私の存在なんて忘れさられるわ」

「アキラちゃん……」

「恐らく、香織さんが今日私を呼んだのは四峰祭に参加して欲しいっていうお誘いだったんでしょうけど、そういうわけなので参加する気はありません。すみませんけど」


 頭を下げるアキラを見て香織は諦めたようにため息を一つ。


「そうですか。そこまで意志が固いのならしょうがないですね。アキラちゃんはアキラちゃんの学校生活を楽しんでくださいね」

「……ありがとうございます」


 香織の言葉を聞いたアキラはお礼の言葉を呟き席を立つ。


「話が終わったから私は行くけど、白鷺さんはどうするの?」


 まだいる? という疑問を投げる。


「いいえ、元々興味本意で着いて来ただけだから、話が終わったのなら出ます。副会長さん。お茶ありがとうございました。とっても美味しかったです」


 遥も一礼してから席を立つ。それを見てアキラは歩き始めた。遥がそれに続き二人は生徒会室から出ていった。


 生徒会室から退出して昇降口に向かっている最中、遥がアキラに質問した。


「ほんとに良かったの? 今日会ったばかりであなたの事情も知らないのにこう言うことを言うのも悪いと思うんだけど、勿体ないと思うのよね」


 恐らく四峰祭に参加しないことについて言っているのだろう。

 漠然としていて何に対して言っているのかアキラには分からないが話の流れからそれしか考えられなかった。


「良いのよ。参加しないために普通科に入ったんだもの。それに……」

「それに?」


 返事を返している最中に歯切れが悪くなったアキラに遥は言葉を促すように相槌を返すが──


「なんでもないわ。って言うか貴女、四峰祭がなにか知ってるの?」

「実は知らないのよね」

「まぁ、ついでだし教えておくわ。四峰祭はバスケで言うところのインターハイとか、ウィンターカップ……野球の方が馴染みが深いか。甲子園みたいなものよ。もっとも、参加するのは四峰の名前の通り四校だけ。埼玉の鳳学園、神奈川の赤目柳学園、福島のセントサンタンデル学園。そして、ここ、東京の知多学園。それぞれ実技科の序列十二位までの四十八名とシード八名。都合五十六人で行うトーナメントの事よ」

「四校なのに全国大会なの?」

「えぇ。全国どころか海外からもそれぞれの学校に腕に自信のある人達が集まってるもの。この学校人数多いでしょう?」

「へぇ。確かに入学式の説明を聞いて多いなぁって思ってけどそういう事情だったのね」

「えぇ。高校までは四峰祭が世界トップレベルの大会なの。それもあって集まってくる人が多いのよ。プロになるとイギリスの大会がトップレベルになるんだけど。なんでそんなことになってるかは私も分からないわ」

「本当に詳しいのね。実はフィンブルって競技好きなんじゃない?」


 茶化したつもりはないのだろう。しかし、その発言にアキラは僅かに眉を吊り上げる。


「……まさか。やってる人間にとっては常識よ」


 アキラは直ぐに表情を戻し遥の疑問に言葉を返す。

 そうして、特に盛り上がるわけでもなく話し合ってるうちに二人は昇降口まで来たようだ。


「今日はありがとう。とっても勉強になったわ」

「そう。それは良かったわ。まぁ、興味があったら一試合くらい見てみるのも良いと思うわ」

「えぇ。そうしてみる。そのときは是非解説お願いできるかしら?」

「……そうね。考えておくわ」


 昇降口で靴を履き替えながら二人は挨拶を交わす。


「それじゃまた明日。今日はおかげさまで楽しかったわ」

「えぇ。さようなら」


 そうして、二人はそれぞれの帰路についた。



 一時間半かけてアパートに帰宅したアキラは私服に着替えたあとソファーに座りながら、物思いに耽ていた。


(あの感じ、香織さんは多分諦めてない。私を四峰祭に参加させるために何か手を打ってくるわね)


 思い出しているのは今日の最後、自分が普通科に入った理由を聞いて納得した香織の言葉。


(確か他の学園で普通科の生徒が四峰祭に参加したケースが有ったわね。……前例があるのは厄介ね。香織さんはそれをうちでも使うはず)


 四峰祭の過去の出場記録を思い出して溜め息を一つ。


(まぁ、いくら考えても仕方ないか……どうせなるようにしかならないわ……)


 考えるのが面倒くさくなったアキラはソファー上で体勢を変えて横になり、スマホを弄り始めた。

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