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37話

 建物内を簡単に案内されアキラ達がやってきたのは地下室であった。

 エレベーターで降りた先に広がる広大な空間、アキラたちが居るのはその部屋の三分の一程のスペース。

 奥に広がる残りの三分の二程のスペースとは硝子かプラ板か、透明な何かによって遮られていた。

 流石に硝子やプラ板ではないことは遥も理解していた。では何か? と問われると答えられはしないのだが。


「ここは新規レプリカの実験場所なのよ」

「えっ?」


 アキラの言葉に驚く遥。

 それもそうだろう。新規レプリカの実験場所など、一般人がおいそれと来ていい場所ではない。

 企業秘密とかそういう問題はどうなってるの? と遥は内心思ったが口には出さない。

 問題があったなら連れてこないだろうからだ。

 もしかしたら社会見学とかで一般にも公開しているタイミングがあるのかもしれない。


「世間一般で知ってる人はいないから貴重な体験ね」

「……そうなの」

「でも、都市伝説でチャップリン社の地下には実験場があるってまことしやかに言われてるから何処かから情報漏れてるのかもね」

「えぇ……大丈夫なの? それ」

「まぁ、バレたところでってところなんじゃない? そこら辺は私はよく知らないわね」

「……そうなの」


 なんと返したものか遥は迷った末、同意することにした。


「まぁ、このコトを口外するとは思わないけど、一応言わせてもらおう。白鷺くん、このコトはくれぐれも内密にね?」


 横で聞いていたルーティスが遥に釘を刺す。

 その口調的に本気で口封じをしようという意図は感じられない。あくまでも体面上言っているだけのようだ。


「アキラは中学の時、よくここで新作レプリカの調整を手伝ってくれててね」

「あぁ、だから詳しかったの」

「まぁ、そういう事情もあるわね」


 さて、と言いながらアキラは上着を脱ぐ。


「誘っておいて悪いけど、暫く向こうに籠るわね。ルーティス、遥をお願いね」

「? なにかするの?」

「特訓よ。本戦ではアルフレッドさんに負けたくないしね」

「いや、勝ってたじゃない」

「勝負には負けたのよ」


 そう言ってアキラは奥に入って行った。



 中に入ったアキラは目の前に台座に置かれた拳銃を手に取る。

 手に取った銃を見ながら状態を確認する。


(短い期間だったけどこっちの指定通りの性能ね。いい出来だわ)


 銃の性能に満足したアキラは銃を構える。


「いつでも」


 アキラの発言を受けてその区画の奥、壁際から人型の映像が数体出現する。

 独特な音が響いたと同時に人型の映像の頭の部分に穴が空いていた。

 その後、その映像が消えて新しく人形の映像が出現する。


 そうして、何度か同じことを繰り返した後、台座に銃を戻す。


「不満が見えるね」

「設定が甘かったわ」

「そう言うと思って、更にシビアな性能の物も用意しておいた」


 ルーティスの発言と同時に台座が下がっていく。

 と同時に、台座一個分奥で台座が上がってきていた。

 台座は中央から前面がくり抜かれており、そこに小銃が立て掛けられるように収められていた。


(銃身を長くして、その分術式を多く記載したのか。単純だけどその発想はなかった。術式でどうにかしようとするのは私の悪い癖ね)

「ありがとう」


 アキラは小銃を取り出し構え、壁際に現れた人型に向けて引き金を引き始めた。


「さて、白鷺くん。アキラが集中した以上暫くはこのままトレーニングを続けると思うんだが、もう少し見ていくかい? 正直、代り映えはしないから見てて面白いかは保証しかねるよ」

「えーっと……」

「興味があるなら研究所の中を案内しようか? アキラが私に任せたのはそういうことだと思うしね」

「良いんですか?」

「構わないよ。この施設は学生向けの社内見学も定期見的に行っているしね。流石に見られて困る施設は案内できないけどね」


 ルーティスの言葉に、レプリカを使い付けているアキラをちらりと見る。

 確かに、ルーティスの言う通り、人形に向かい引き金を引く事に集中し暫くは終わる気配は無さそうであった。


「それならお言葉に甘えさせて貰います」

「では行こうか」


 ルーティスは踵を返し再び、地上へ向かうエレベーターに向かい、遙も遅れないように続いた。



 地上部に上がった遥はルーティスの説明を受けながら施設を見て回る。

 レプリカの製造に当たり、レプリカ量産に使用する原料の品質検査をする工程から始まり、合格した原料を使用した量産工程、形状の品質検査工程、検査に合格したレプリカに術式を組み込む工程、組み込まれた術式が規格通り機能するか検査する工程、それらを経て梱包工程に進む。

 一通り見て回った遙たちは施設内にあるレストランで休憩を取っていた。


「一通り見て回ったわけだけど、何か質問とかあるかい? 答えられる範囲なら答えるけど」

「えっと……」

「まぁ、些か急ぎ足ではあったし、都度その場で聞いてきてくれたしね。そんなに質問はないかな?」

「一つ良いですか?」

「どうぞ」

「説明の最中、レプリカに術式を組み込むっていう工程があったと思うんですけど、術式っていうのは」

「あぁ、ごめんね。こちらの配慮が足りなかった。術式っていうのは、まぁ、プログラムの事だと思ってもらっていいよ。レプリカの前身を作ってた時の名残でね、今もそう読んでいるんだ。業界用語みたいなものかな」

「レプリカの前身……アキラもこの前その様な事を言ってましたけど、ルーティスさんは知ってるんですか?」

「勿論知ってるとも。とは言え、前身に関しては話すことはできないんだ。ごめんね」

「いえいえ、案内してもらっただけでありがたい事ですから」

「うん。こちらもそう言ってもらえると嬉しいよ」


 そう言って、ルーティスは眼の前に置かれているコーヒーカップを手に取りホットコーヒーを一口啜る。

 それを見て遥も眼の前のグラスを取り、カフェオレを一口飲む。


「あっ、初歩的なことで悪いんですけど良いですか?」

「なにかな?」

「レプリカってなんで魔法使えるんですか?」

「……」


 遙の言葉にルーティスは黙り込んだ。


「難しい質問だね。どう言えばよいか悩ましいね」

「す、すみません」

「いや、謝る必要はないよ。多くの人間がそんなものかと、気にせず流しているの疑問に持つのは良いことだからね」


 ルーティスは口元に右手を当て考え込む。


「アキラからレプリカの説明を受けているかは分からないけど。そうだね、水鉄砲をイメージするのがいいかな」

「水鉄砲ですか?」

「あぁ、レプリカが水鉄砲、魔法が内蔵された水だね。レプリカごとに使える魔法が違うのは、レプリカによって内蔵された水の種類が違うからと考えて欲しい。お湯だったり、色水だったりといった具合にね」

「なるほど、同じレプリカでも人によって魔法が違うってアキラが言ってたことの説明がつかないと思うんですけど」

「それはね、レプリカの術式に最適化というか、成長機能が有るからかな。人によって魔法に求める性能が変わるからね。威力が高い方が良い。連射性能が高い方が良い。長い時間使い続けたい。レプリカは使用者の意思を反映して成長する。結果的に最初は同じ魔法でも違う魔法になるといった感じかな。同じなのは種類だけさ」

「使用者の意思を反映……気持ちとかを感じ取れるんですか?」

「そうだよ。レプリカを購入する時は、専用の機器で相性の良いレプリカを選定する所から始めるんだけど、それはレプリカを使用できるかどうか、だけしゃなくて、レプリカが使用者の意思を受け取りやすいかどうかも見ているんだ。総じて相性って言葉に言い換えてはいるけどね」

「知らなかった、自分で好きなレプリカ買ってるわけじゃないんですね」

「相性度外視で欲しいから買うって人も中にはいるだろうけどね。まぁ、興味があったら今度、レプリカショップにでも行ってみると良いよ。買う買わないは別にしてね」

「考えておきます」

「あぁ、前向きにね」


 そう言って、ルーティスは腕時計を見て時間を確認する。


「見学を始めてから今まで結構時間が経ったし、何か小腹にでも入れないかい? コーヒーだけにしようかと思ったけど保たなかったよ」

「あ、付き合います」

「ありがとう。一人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいからね。助かるよ。では、買いに行こうか」


 そう言ってルーティスと遥は席から立ち上がり、レストランのカウンターに向かった。


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