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33話

(おもしろい。雷ならまだ、切れる。とはいえ、それもツカガワ相手なら、通用するのは一度限りだろう)


 否、諦めたわけではない。

 アルフレッドは腰を落としながら鞘に納めた剣を後方に引きながら構えを取る。

 俗に言う、居合抜きの構えである。


(一度通じれば十分だ)


 その構えが確認された瞬間、スタジアム内のスピーカーから音声が放送された。

 それと同時に、アルフレッドの居合いの射線上、アキラの後方にいる観客達が慌てて移動を開始した。


『アルフレッド選手が『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』の構えを取りました。CブロックからFブロックで観戦している方は急いでその場を離れて下さい。繰り返します……』


 アルフレッド戦のみに用意された放送テンプレである。


「出た……」


 観客席で試合を見ていた、黒井樹は過去の苦い記憶を思い出し思わず身震いした。


 アルフレッドの構えたそれは、知多学園、いや昨年度の段階で既に防御力において並ぶ者が居ないと謳われた黒井樹をして耐えられずに数ヶ月間病院生活を送らざるを得なかったアルフレッドの必殺技である。

 フィンブルによる被害が観客に及ばない様に張られた結界を破壊し、結界の強度見直しを行わせた比類無き破壊力を持つ文字通りの一撃必殺である。

 アルフレッドの魔力が高まるのが目に見えて分かる。


「……」


 アキラは無言でアルフレッドに左手の人差し指を向ける。

 人差し指から放たれた一条の雷は、しかし、途中でアルフレッドの体から放たれた雷に阻まれる。

 それを見た、アキラは右手に握る雷剣を振り降りしステージを破壊した。

 舞い上がったステージの破片をアルフレッド目掛けて蹴り飛ばすが、結果は先程と変わらなかった。


(これは確かに魔導皇の最短記録レコードになるわ)


 話には聞いていたし映像でも見たことはあったが、実物を見るとその印象は大きく変わる。

 なんとかならないかと期待していたアキラも目の前の理不尽に冷や汗を垂らした。

 まさか、アキラをして構えを取られた段階で終わりだとは思ってもいなかったのである。

 アルフレッドの体から零れる魔力が自動的に自身に向かってくる攻撃を迎撃して打ち消し、自動で打ち消せない場合は意識的に魔力を上乗せする。

 そうして、必殺の一撃を放てるその時まで魔力を高め続けるのだろう。

 構えを取られたら放たれるまで為す術がない。一種の完成形の一つであるかもしれない。とまでアキラは思う。

 世間的には四峰祭前年度優勝者『魔導皇』に最短記録で負けた事がアルフレッドの評価を落としているのだが、それしか手段がなかったのである。

 普通に戦ったら、下手に長引かせたら勝敗は逆だったであろう。


「しょうがない。……これは、しょうがない、よね。」


 アキラは、おそらく生まれて初めて敗北を認めた。

 息を深く吐き出し、右手の雷剣を消した。そのまま右手を手刀の形に構えて体の後方に回す。


(やはり、そうなるな。そうこなくては)


 それを見てアルフレッドは口角を上げた。

 アルフレッドは興味があった。

 自分の必殺技が本当に一撃必殺なのかどうか。

 アキラのレプリカは相手と同じ魔法を使用できる物だ。そして、アキラ自身も敗北を知らない最強と謳われる存在である。

 だからこそ、アキラに撃ち勝てたのなら自分の必殺技こそが最強だと胸を張って言える。

 アキラが、知多学園に入学すると聞いた時には内心両手を上げて喜んだ。四峰祭ではトーナメントである以上戦えない可能性がある。同じ学園なら対戦を希望すれば確実に戦える。

 だが、フィンブルに関係ない普通科に入学すると聞いた時には目に見えて落ち込んだ。試す機会は失われたと。

 しかし、なんの因果か自分は今戦っている。

 しかも、望み通りに撃ち合いの形まで持ってきた。

 これほどの機会は二度とはあるまい。

 勝てば良し。負けたのなら実力不足とさらなる研鑽を積むだけだ。


 両者似た構えを取り、しかし、その胸中は全く違った。


 方や、自分の実力を試す挑戦者として

 方や、自分の敗北を認めた敗戦者として


 メンタルが勝敗を左右すると言うのなら最早するまでもないだろうが、勝負は決着が着くまではどうなるかわからないものだ。

 最早、両者ともに必殺技の発射体制は整っていた。

 お互いの体に収まりきらない魔力が両者の間で何度も激突して小競り合いを繰り返している。


「──!」

「……!」


 両者共に動いたのは全くの同時。

 鞘内の雷の魔力が電磁気力の役割を果たし引抜かれる剣を押し出し、最速域まで到達した剣は鞘を破壊しながら解き放たれた。

 直前まで溜められていた魔力を余すことなく剣戟に乗せ相手に放つこの一撃こそがアルフレッドの必殺剣。

 振り抜かれた剣閃を辿るように雷の魔力が扇状に広がっていく。

 アルフレッドから遠くなるに連れ魔力範囲は広がり、溜めた魔力が尽きるまで雷の速度をもって侵略し続ける。

 これが、これこそが『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』と呼ばれる誰もが恐れた高速広範囲の一撃必殺。

 放たれたら最後、防ぐ事は敵わず、ただただ逃げる事しか許されない。

 知多学園序列一位、遠野幸信は完全に逃げ切れずに片脚を無くし、

 四峰祭最高防御力を誇る黒井樹ですら耐えきれなかった。

 アキラでは果たしてどうか──


 同様に構えていた右手を振り払い放たれたアキラの『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』も同じ速度で空間を侵略し、両者の中央で激突する。


「──っ!」


 拮抗し、互いに魔力を削り合いながら押し合い続ける。

 このぶつかり合いに負けた方が互いの魔力を全て受けることになるのだと、両者ともに予感していた。

 激突した余波で外に逃げようとする魔力の奔流がスタジアムの端まで届き、結界を揺らし続け、その威力に耐えきれず結界にひびが走る。

 観客達は、その『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』の激突音に、今まさに目の前まで迫りくる目を潰さんばかりの閃光に我先に逃げようとし阿鼻叫喚の地獄絵図を描いていた。


「まぁ、そうなるわね」


 アキラの呟きの後、競り合っていた魔力の奔流がアキラへと襲いかかる。

 アキラの予想通りの展開である。唯一、予想外であったのは競り合いが想定より短かった事くらいか。

 アキラは最後の抵抗に左腕でアルフレッドを指差した。


 ──そうして、アキラは二つの『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』に飲み込まれた。



 結末はフィンブルの歴史に残るだろう。

 『迅雷怒濤ブリッツシュラーク』により、アルフレッドの射線上に存在したスタジアムの結界は破壊され、そのまま勢いで耐久力を大きく下げていた結界は引き摺られる様に全面破壊されたのだ。

 それでも、結界はその役割を全うし、結界から離れていた観客に届くまでに魔力を相殺したのは不幸中の幸いだっただろう。

 知多学園の実技科教員達は今回の戦いの後始末で暫く眠れぬ日々を送る事になるかもしれないが、ここでは些末な事である。

 そんな、教員達も含め、一先ずは自分の身の安全が保証された観客達の関心は唯一つ。


 果たして、どちらが勝ったのか。

 スタジアムに設置されたモニターは全て跡形も無く破壊され確認する術はない。

 戦いを安全圏から観測していた技士科からの発表をただただ待つしかない。

 だが、結果は技士科からの発表を聞くまでも無いであろう。


 アルフレッドは、アキラの最後の意地か押し返された魔力の奔流に体を焼かれていたが、それでもスタジアムに立っている。

 レプリカたる『オートクレール』は根本から折れて剣先がアルフレッドの後方に刺さっていたが、破損率は敗北条件になる70%に乗るかどうかといった所だろう。

 一方、アキラは押し負けた結果押し付けられた魔力の奔流をその身で受け、レプリカは完全に消失していた。

 最後に雷と体を同化させたからだろうか、体はまだ形を残していたが、四肢は焼け爛れ、直視するのもはばかられる無惨な姿でスタジアムに倒れ伏していた。


(なんだ、なんだこの人! 体を雷と同化させたのに! その上から体をやられるなんて、雷と同化させても攻撃する手段を持ってるなんて。凄い、凄い凄いわ!)


 アキラはその状態でも意識を手放して居なかった。

 アルフレッドを内心で称賛しながら立ち上がろうとするが、体が言う事を聞かなかった。

 仮に聞いたとしても、現在の状態では立ち上がることは出来なかっただろうが、結果として地を這う芋虫の様に蠢く事になっている。

 そんなアキラを見たアルフレッドは医務室に運び出そうと歩き出したが、ダメージが大きかったのかその場に両膝を着く。

 両者ともに、見た目上の差はあれど受けたダメージは甚大であった。


「くっ──」

(ここまでのダメージは『炎竜帝ドラゴン』以来か)


 再び立ち上がろうとした時に、スタジアムの結界に守られた事により生き延びることができたいくつかのスピーカーから、音声が流れた。


『ただいまのアルフレッド・ヨハン・フリッシュ選手対塚川アキラ選手の対戦結果を発表します。アルフレッド選手、レプリカ破損率72%。塚川選手、レプリカ破損率100%。ですが、敗北破損率への到達タイミングにより、塚川選手の勝利となります』


 それは、アキラの勝利を告げる音声であった。

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