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31話

 ステージに立ったアキラは目の前に立つ男を睨んでいた。表情上はいつもと違いないだろう。傍目から見ればいつものアキラの無表情と違いを把握出来ないはずだ。

 だが、アキラ自身と目の前に立つアルフレッドはその視線をはっきりと把握していた。


「怖い目をしている。もっとリラックスしたらどうだ?」

「……私も初めての状態なので平常心になろうと頑張ってはいるんですけどね」


 初めての状態、緊張ではない。

 それは負ける事への恐怖だ。言葉として理性がそれを認識しているかは別にして、アキラの本能がそれを訴え続けていた。

 自信家の一面があるアキラは言葉として負けるかもなど口には出していても本心からそれを思ってることは基本的にない。

 常に自分が勝つと思っているからだ。

 だが、目の前に立つ男はあの自分より先に不敗神話を築いていた『炎竜帝ドラゴン』を下した強者だ。

 震えるのも訳はなかった。


「そうか、よろしく頼む」

「こちらこそ」


 差し出された手を握り返して答える。

 強く握り返したのは決してわざとではなかった。


「ケンカを売られた。とは思わないでおこう」

「……すみません」


 アルフレッドの言葉で強く握りしめた手を放し、開始位置に戻り始めるアキラ。その背中にアルフレッドの声が投げかけられる。


「確認だが、初手はこちらから。でいいな?」

「どうぞ」


 アキラの答えを聞いたアルフレッドも開始位置に戻り右手を前に構える。


「『オートクレール』招来」


 レプリカの起動の意思に応えアルフレッドのレプリカが顕現した。

 それは樹の持つデュランダルをひと回り小さくしたサイズの片手持ちの西洋剣であった。

 飾り気のない質素な作りである。敵を切る以外に機能は要らないという造り手の意思を感じさせるデザインである。

 その、オートクレールを右手で掴み鞘から抜き出す。

 構えるの同時に鞘を腰の左側にセットするその動きは淀みが無く。何百、何千とその行為を繰り返してきたことがわかる。

 その動きだけでアルフレッドが長年フィンブルを戦い続けてきた強者だと少し齧った者なら気づくだろう。

 アキラやアキラに匹敵する者なら脅威を感じているはずだ。

 事実、アキラは無意識に両手に填めた革手袋を深く填め直していた。

 開始のカウントダウンが始まる。

 両者、そして、観客の気持ちが昂っていく。

 『魔王』と『雷帝』どちらが強いのか?

 知多学園。いや、四峰祭まで視野を広げても屈指の名カードに違いない。

 同じ知多学園に所属しながら今まで戦うことのなかった二人の雌雄が今決するのだから是非も無い。


 そうして、開始の合図が鳴り響いた。


 同時にアキラは全力で後ろへ飛び退いた。

 アキラの立っていた場所にはアルフレッドが既に攻撃を終え、突き出されたレプリカが空を裂いていた。

 開始と同時に彼我の差を一直線に駆け抜けたのだろう雷による焦げ跡が蒸気を発しながら存在感を見せつけていた。


(速い……)


 並のレプリカントなら今の一撃で終わっていた。

 知多学園の最高防御力こそ黒井樹に譲るが、アルフレッドは攻撃力、攻撃範囲、速度において最高を誇っていた。

 飛び退いたアキラが着地する瞬間を狙って再びアルフレッドが攻撃を仕掛ける。


(──っ! 攻撃の始動が見ずらい!)


 ほぼ攻撃を終えたモーションのまま再び動きだすアルフレッドに内心舌打ちをしながら、アキラは攻撃を躱し続ける。

 途中、後退だけでなく左右にも躱し続けるが徐々にタイミング合い始めて来ていた。

 捉えられるのも時間の問題だろう。

 観客席から見ている生徒達もそれを薄々感じていた。

尤も見えているのはアキラが着地した瞬間とアルフレッドが攻撃を終えた瞬間くらいだが、細かく言えばアルフレッドの攻撃の軌跡を表す雷の迸りも見えているのだろうが、それが見えた時には攻撃は終わっているのだから見えていないことに変わりは無かった。

 だが、ただ攻撃を躱し続けるアキラでは無い。

 アルフレッドの攻撃が遂にアキラを捉えたと思われたその瞬間──アキラはスタジアムの観客席に張られた結界の上に着地していた。


「──」


 それを見たアルフレッドがアキラのもとに攻撃するまでの僅かな時間でアキラは両手を合わせてその間から白い光を出現させる。

 当然ながらそれは単なる目眩ましの光ではない。

 それは、アルフレッドの操る雷の魔法を応用して出現させた雷の剣であった。

 アキラはその剣を掴むのと同時に防御姿勢に入った。

 視界の先でアルフレッドの振り下ろしの一撃が自分に襲いかかってくるのを捉えたからだ。


(ここまで来る!? 流石に迷いがないわね!)


 スタジアムのモニターにはステージ外に出た事を表す20の数字が表示されていた。

 フィンブルではステージ外に出た場合、二十秒以内にステージに戻らないと敗北するルールが存在する。

 大抵の場合、レプリカによる魔法の衝突によるステージ外の押し出しにより発生する情況であり、おおよそステージ外に出た競技者は敗北を恐れて、すぐにステージに戻ろうとするが、アキラやアルフレッドは違った。

 二十秒以内に戻らなければ敗北するという事は十九秒までは敗北にならないのである。

 アキラは今まで利用した事はなかったがステージ上では体勢を立て直せないと判断した今利用しない手はなかった。

 問題はアルフレッドが追撃をしてきてたことくらいか。普通はわざわざ追撃しないの事のほうが多いからである。

 アキラも相手がステージ外に逃げた場合わざわざ追いかけるマネはしない。


 受け止めたアルフレッドの刃を弾いたアキラはその勢いを利用してスタジアムに張られた結界の上を走り距離をアルフレッドから距離を取ろうとするが、アルフレッドもすかさず体勢を取り直しアキラを追いかける。


「──っ!?」


 アルフレッドの追撃に合わせて振り返り様にカウンターの横薙ぎを繰り出したアキラは驚愕した。

 アキラの刃がアルフレッドを通過したのだ。

 その直後、驚愕と技後硬直で動けないアキラの左肩をアルフレッドのレプリカが貫いた。


「くっ!──舐めるな!」


 貫かれた刃を抜くために、アキラは目の前のアルフレッドを蹴り飛ばす。


(雷同化の魔法が発動しないタイミングをもう見極めたか!)


 蹴り飛ばされたアルフレッドは着地と同時にアキラに再び向かいだした。


(少しは怯んでほしかったけど)


 アキラは穿たれた左肩を庇うようにアルフレッドの攻撃をいなし左側にアルフレッドを弾き再び走り出した。

 アルフレッドも結界に着地下と同時にレプリカを右手から左手に持ち直してアキラを追いかけ始めた。

 二人は結界の上を走りながら幾度も剣戟を交わし続ける。

 恐らくフィンブルが始まってから始めての光景だった。

 結界の上に着地すると言うのは何度かあったが、結界の上を走りあまつさえその上で戦闘を続行している光景は今後も見ることはこないだろう。

 レプリカを使用した競技とはいえあまりに常識離れした光景に観客たちも言葉を失っている者がほとんどであった。

感想、高評価よろしくおねがいします

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