30話
ミートソース掛け素麺を食べるアルフレッドから視線を外し再び遥の方を見ようと、視線を移す最中である人物がこちらに歩いてきているのをアキラは視線に捉えた。
「……」
「こんにちは」
アキラに話しかけてきたのは、ワイシャツの上から薄手のパーカーを着用している、透き通った色素の抜けた長髪をもつ少女、夜鳥葛だった。
アキラは自分に話しかけられたのか、横で素麺を食べているアルフレッドに声を掛けたのか判断に迷ったが、
その視線から自分に声が掛けられたのだと判断し、挨拶を返す事にした。
「こんにちは」
挨拶が帰ってきたのを確認して葛は言葉を続ける。
「いよいよ、合宿も最終日ですね」
先ずは無難な話題から入るつもりなのだろう。周りに人が居るからかその口調は猫を被っていた。
「そうね。やっとだわ」
だが、アキラはそこに関しては突っ込む事はしない。気持ちがわかるからだ。
「アルフ先輩と一緒にいるのは珍しいですね。次の対戦相手だからですか?」
「ええ。そうらしいわ」
「そうらしい?」
「アルフレッドさんから来たからね。私から話しかけたわけじゃないの」
「なるほど。流石の先輩も塚川さん相手では気を使ってるようですね」
「あぁ。今日を楽しみにしていたからな」
葛の言葉に返したのは素麺を食べていた筈のアルフレッドだった。
ちょうど、素麺を飲み込んだタイミングと被ったのだろう。
「俺達の周りでも話題にはなっていた。俺と塚川、どちらが強いのか。俺も含めてな」
「先輩もそう言うのに興味あったんですね」
「キョウミがないヤツの方がいないと思うが。だが、そうだな。確かに、俺自身のキョウミは他のヤツのそれとは違うだろう」
「そうですか。では先輩の興味はどこなんです?」
「そうだな、俺の興味は過程にある。周りはどちらが勝ったかという結果にしか興味はないだろう?」
「勝敗は誰が見ても分かりやすい結果ですから」
「……そうだな。間違いない」
葛とアルフレッドの会話を間で聞きながらアキラはお茶を飲んでいたが、アルフレッドの最後の発現に思わず視線を移した。
おかしな間が合ったのもそうだし、返した言葉がやけに沈んで居たのも気になった。
「思うところでもあるんですか?」
葛とアルフレッドの会話に入る気の無かったアキラであったが思わず会話に割り込んでしまった。
「そうだな。あるのはある。だが、こればかりは俺が言ったところどうしようもないからな」
結局、どう言うところが気になってるのかは分からないままだ。
まぁ、こういうものは往々にして、本人にとっては重要でも他の人からすれば大した問題ではなかったりする。
おそらく今回もそういう事なのだろうとアキラはお茶を一口啜った。
「で、先輩は、どっちが勝つと思ってますか?」
「それはモチロン、俺だろう」
「すごい自信ですね」
「そういう物だろう。塚川だって自分が勝つと思ってるハズだ」
「そうですね。勝つと思って勝てるならそんな簡単な話はないですけど、勝つと言う思いが無いと勝てませんからね」
「あぁ、よく分かる」
二人のやり取りに葛は何を当たり前の事を言ってるんだと思ったが、口には出さない。
「さて、そろそろエレナかローザが音を上げそうだ。ユキノブはソーメンに夢中で対応できなさそうだ。行ってくる」
アルフレッドの言葉で視線を移すと流し素麺は遥に軍配が上がりそうだった。
知多学園一の体術を誇るエレナと、体術自体はエレナに一歩劣るがスタミナお化けたるローザに、両者がレプリカを使用していないとはいえ、ただ流れてくるソーメンを箸で掴み、汁に潜らせて口に運ぶだけとはいえ、勝ってしまう遥に、アキラは内心で食欲魔神の称号を贈呈した。
「……すみません」
遥に敗北し悔しそうにしている両者に向かって歩き始めたアルフレッドにアキラは謝罪した。
自分が遥を呼ぶことがなければきっと二人は落ち込まなかっただろう。
というか、自分が何故謝るのか、そもそも、三人が違うところで食べれば何も問題は無かったではないか、とか様々な疑問が頭を巡るが、事態が起こってしまった以上、最早アキラにはどうしようもない事であった。
「で、実際どうです? 勝てそうですか?」
アルフレッドが歩いて行った後、葛がアキラに話しかける。どこで誰が会話を聞いているかわからない為か、口調は変わらず猫を被ったままだ。
「勝つだけなら、何も問題ないわね。ちゃんとやるから。上手く行けば問題なく勝てるだろうけど、まぁ、そうはならないでしょうね……全く頭が痛いわ」
「……反則するんですか?」
「最終手段ね」
「あなたの事だからバレるようなヘマはしないんでしょうけど、あなたから見てもアルフ先輩は強いですか?」
「強いわね。『炎龍帝』や『魔導皇』より嫌ね」
「……相当ですね」
「まぁ、なるようになるでしょ……そういえば、貴女は素麺食べないの?」
「大丈夫です。もう満足しました」
「ならいいわ。あー、所で……貴女はどっちに勝って欲しい?」
「おかしい事を聞きますね。あなたは勝つべきです。私が倒すためにその時まで無敗でいて貰わないと」
「ん。……分かったわ」
アキラは短く言葉を返し、その場を離れようとする。
「どこに行くんです?」
「試合の準備に向かうわ。悪いけど遥に伝言よろしくしてもいいかしら?」
「……分かりました。あの大食いの子に伝えておきますよ」
「よろしくね」
アキラは葛に伝言を任せて食堂から出ていった。
流し素麺大会が終わった後、合宿のスケジュールである合宿参加者達による練習試合の、その最終戦である塚川アキラとアルフレッド・ヨハン・フリッシュの試合を見る為にスタジアムに流し素麺に参加していた生徒や教員達が集まっていた。
「遂に来たな」
「そうですね。二人の実力を鑑みれば四峰祭決勝のカード言って差し支えないですからね」
スタジアムの観客席に座った生徒会長、遠野幸信と副会長、毒島佐和が感慨深く話す。
「アルフの迅雷怒涛が塚川に通じるのか」
「塚川さんでも攻略できないのか……」
それは、生徒達が思い浮かべては口に出さなかった疑問。
世代最強と謳われる攻撃技が、世代最強魔法使い『魔王』と謳われる塚川アキラに通用するのか。
それが遂に判明するのだ。
そうでなくても知多学園最強のアルフレッドと魔王、塚川アキラの戦いである。
『迅雷怒涛』を出すのか、出すとしたらそこまでどのような戦いの運びになるのか、興味が尽きることはない。
「そんなに、アキラの対戦相手の方は強いんですか?」
観客席に座った遥は横に座る香織に疑問を投げかける。
「強いですよー。アキラちゃんが来る前はうちの最強はアルフ先輩でしたから」
「でも、序列三位なんですよね? 序列だと香織さんの方が上だと思うんですけど」
「あぁーそれは序列戦の妙と言いますか、私とアルフ先輩は戦ったことないんです。たまたま序列がアルフ先輩より上なだけです。戦ったら私が負けますねー。というか、戦う前に降参しまーす。遠野会長がアルフ先輩より序列上なのは、遠野会長が迅雷怒涛から逃げのびたからですね。アルフ先輩は迅雷怒涛を放ったあと相手が負けてなければ自分から降参しますから」
「降参するんですか?」
「はーい。そのまま戦い続ければ間違いなく勝てると思うんですけどぉ。アルフ先輩なりに拘りがあるんでしょうねー。っと、始まるみたいですね」
香織の言葉で視線をステージに向けると、アキラとアルフレッドが入場してきた所だった。




