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3話

 タブレットが受信したメールを確認してアキラはもう一度席に着いた。


(どうしよう……)


 メールの送信者名の欄には『くすのき 香織かおり』と表示されていた。彼女はアキラの数少ない知り合いであり、彼女に誘われたからこの学園に入学する事を決めたと言う事情がある。

 その事からいずれ向こうから連絡が来るとは思っていたのだが、まさか入学初日からコンタクトがあるとは予想できなかった。

 内容は『生徒会室に至急来られたし。P.S.手紙を見ていないのはお見通しです!』というものだった。

 無視しようかとも思ったが、後から何を言われるのか分かったものではない。アキラは考えた末、諦めて生徒会室に向かうことを決めた。生徒手帳で生徒会室の位置を把握した後、鞄を持ち教室から出て行った。



「あら? こんにちは」


 生徒会室に向かう途中、突如として声を掛ける。声の方を見ると今朝下駄箱で話しかけてきた少女が立っていた。


「……こんにちは」


 なぜ話しかけられたか分からず、どう言葉を返すのがいいのかも分からず鸚鵡返ししたアキラに少女は笑いかける。


「こんな所で何をしているの? この先って何あるんだっけ?」


 質問が多いな。と、やや面倒臭く感じ正直に答えるべきかどうか考えた末に正直に話す事にした。わざわざ嘘を付く必要もないからである。


「生徒会室がこの先にあるのよ。ちょっと呼ばれててね」

「へぇー。生徒会室……何かやったの?」

「どうかしら? 少なくとも私は何もやってないとは思うけど」


 昔からアキラは敵が多かった。自分としては何かをやってるつもりはないが目の敵にされる事が多かった。理由は大方予測できたが、面倒な事に替わりはない。それが嫌でわざわざ地元から離れた高校に入学したのにあまり意味は無かったのだろうか。

 尤も、今回に限れば中学時代の知り合いからの呼び出しなので険悪な事にはならないだろう。早速先輩に目をつけられてその注意という事なら話は別だが、そんな事でわざわざ呼び出しをした人物が自分を呼ぶとも考えづらい。と考えを巡らせた末に一言で切って捨てた。


「まぁ、行けば分かるでしょ」

「それもそうね。……あっ、私もついていって良い?」

「……なんで?」

「うーん。なんとなく?」


 自分のことなのに何故疑問形なのか。とアキラは思ったが口には出さない。


「……まぁ、一人増えるくらい問題ないでしょ」

「じゃ行きましょうか!」


 そう言って意気揚々と先を歩き出した少女に続いて歩くこと数分。


「ねぇ、一つ聞いて良いかしら? 貴女生徒会室の場所分かってる?」

「勿論よ。こっちでしょ?」

「……」


 少女が指差した方角を見て、内心で頭を抱える。なんだったら溜め息もつきたいほどだ。だが、それを表情に出しては少女からの印象も良くないだろう。

 表情を変えずにアキラは訂正に入る。


「残念ながらそっちに生徒会室は無いらしいわ。私が先を歩くからついてきて」

「あら? そうなの? おかしいわねぇ。あると思ったんだけど」


 最早なにも言わずアキラは歩き出した。それに少女も続く、何か後ろで小言を言っているのが聞こえてきたがアキラは無視した。

 そうして歩くこと二十分程だろうか、アキラ達はようやく生徒会室に辿り着いた。

 本来なら十分程で着いていた筈なのだが、後ろを付いてきた少女の謎の迷子行動により余計に時間がかかってしまった。


(まぁ、時間指定がある訳じゃなし別に良いか)


 生徒会室の扉をノックすると、程なくして室内から「どうぞー」と間延びした返事が返ってきた。

 その声を聞いて、アキラは扉を開ける。


「失礼します」

「失礼しまーす」


 生徒会室は入口の正面に恐らく生徒会長用の執務机なのだろうが、生徒が座るには豪華な作りの机が置いてあった。尤も、今はその席の主は不在なようである。

 そして、生徒会長用の机の前に応接用セットが置いてあった。膝の高さの机にそれを挟むように置かれたソファーが二つ。いずれも作りが良さそうである。何故生徒用ここまで高いものを揃えているのかアキラは些か疑問に思ったが、教師も使うことがあるだろうしそれも踏まえて良い物を用意しているのだろう。と。結論付けた。

 生徒会室で待ち構えていた少女は入室したアキラ達を見た瞬間信じられないものを見たといった様子で目を丸めていた。僅かな時間の後、我に返った少女は――


「驚きました。まさかもうお友達をお作りに?」


 なかなか失礼なことを言い放った。


「帰って良いですか?」

「ダメでーす。そんなに怒らないでアキラちゃん。折角良いお茶用意したんだから。今用意するのでそちらに座って待ってて下さいね」


 そうして、示されたソファーに二人は座る。

 対応してくれた女性は部屋の奥の方に消えていった。


 やや沈黙があったあと、少女がおもむろに言葉を投げ掛けた。


「生徒会室凄いわねぇ。中学生の時の生徒会室と全然違うわ」

「私立だしお金があるんでしょ」

「私立ってすごいのねぇ」

「学校の方針にもよるでしょうけどね」

「そういうものなの?」

「だと思うわ」


 少女の質問にアキラは素っ気無く言葉を返していく。あまりに素っ気無いため会話を続ける気がないのではないかと勘繰ってしまいたくなるほどである。


「……そういえば、あなたはあの人とお知り合いなの?」

「えぇ。中学からの知り合いね」


 それを受けて少女は話題を変えようとするが返ってきた答えはやはり素っ気無かった。


「と言っても、通ってる中学校は別々だったんですけどねー」


 二人が話しているとお茶の用意ができたのか、話題となった少女がアキラ達の横に立って会話に入ってきた。


「お待たせしてごめんなさいね。どうぞ」


 少女は粗茶ですが、と言いながらアキラ達の前にお茶を置き、その後にアキラ達が座った反対側の椅子に腰掛けた。


「えーっと、アキラちゃんは必要ないと思うけど、一応自己紹介から始めましょうか。購買部副部長兼生徒会副会長の楠 香織です」


 一通り言い終えた少女は微笑みながらよろしくね。と、自己紹介を終える。


「えっと、生徒会副会長兼購買部副部長ではなくてですか?」

「はい。私はどちらかというと購買部の活動の方に力を入れてるので購買部副部長の方が先です。副会長はなりたくてなったわけじゃないお飾りの役職ですね」

「なりたくないのになれるものなんですか?」

「そうですよ。学園の制度といいますか、伝統といいますか。ええっと……」


 香織は困惑したようにアキラの横に座る少女にお名前は? と話を振る。


「あっ、はい。白鷺しらさぎ はるかです。今年入学です!」

「それは楽しい学園生活に期待がいっぱいですね。遥ちゃんは生徒会長を目指す気がおありですか? アキラちゃんはなる気はないと思いますけど」

「いえ、そういうのは特に目指してないですけど」


 香織の質問に遥は言葉で、アキラは無言でそれぞれ返す。


「そうですか、それは良かったです。残念なお話なんですが普通科のお二人は生徒会長にはなれないんですよ。この学園は実技科の前年度序列最高位の方が会長と副会長の片割れを務めることになっているので。あっ、でもそれ以外の書記や会計などの役職は生徒会長の推薦で選ばれるので、なろうと思えばなれますよ」

「あの、一つ良いですか?」

「どうぞー」

「今私たちのこと普通科と言いましたけどなんで分かったんですか? あと、序列ってなんのですか?」


 香織の話が一区切りついたところで遥は疑問を投げかける。


「襟章のふちの色よ」


 それに横からアキラが答えた。


「ピンポーン。正解でーす。 よく調べてましたね。それぞれ、実技科が赤。技士科が青、普通科が黄色ですね。序列に関しては実技科内で適用されてるランキングです」


 そのアキラの発言に香織が補足説明を続ける。


「……すみません。実技科が何の実技を示してるのかが分からないんですけど」


 その補足を受けて更なる疑問が出てきた遥は新たに質問を投げ掛けた。


「……」

「……」


 その質問を聞いたアキラと香織は固まっていた。

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