29話
「お前ら素麺が食べたいかー!!!」
「食べたーい!!」
その日、食堂に知多学園の生徒が集まっていた。
食堂にふだん並べられているテーブルは全て片付けられており、代わりにその広大なスペースには流し素麺を行うための竹樋が並べられていた。
四峰祭に向けて強化合宿に参加してる生徒は勿論のこと、強化合宿に参加しなくとも夏休みに部活で学園に登校していた生徒達ももれなく参加していた。
理由はアルフレッド発案、生徒会主催の流し素麺を行う為である。
強化合宿も残すところ残り僅かとなり、他の部活動の顧問、部長達。食堂の関係者達と予定を詰めて流し素麺大会がここに開催される運びになったのであった。
「本当に食べたいかー!!」
「そうでもなーい!!」
幸信の呼びかけに食堂に集まった生徒たちも快く返していく。
基本的に知多学園はノリの良い生徒達が集まっているのである。
「それじゃ解散!!」
幸信の言葉に生徒たちはそれぞれずっこけた様な対応を見せた。
「はい。皆さんの団結力が再確認できた素晴らしい生徒会長演説でしたー。改めましてー購買部、並びに生徒会主催流しソーメン開始しまーす。ハネさーん! お願いしまーす!」
生徒達の前で開始の演説を行う幸信を司会進行として見ていた香織は、キレもいいし、これ以上続けるとダレるから。と、強引に会を進行させた。
声をかけられた食堂のチーフ、ハネさんは素麺を流す為に台に乗り──
「はいよー」
素麺を流し始めた。
生徒会主催の流し素麺大会が始まったことで、この為に腹を空かせていた生徒達は流れてくる素麺を我先に掴もうと箸を伸ばし始めた。
「本当に私も来て良かったの? 合宿に参加してないんだけど……」
「良いのよ。一応ちゃんと許可も取ったし。第一、合宿に参加してない人の方が多いわよ。聞いたら生徒なら誰でもどうぞ、ってスタンスみたいね」
不安げにアキラに話しかけたのは制服に身を包んだ白鷺遥だ。
前日唐突に誘われた時には行くかどうか、ちょっとばかり悩んだが、折角誘われたのなら行かないのは悪いと、参加を決意したのだ。
「取り敢えず、私は良いから参戦してきたらどうかしら?」
「アキラは行かないの?」
「お腹空いてないからね。気にしないで楽しんできて」
「……分かった。じゃあ行ってくるね?」
「ええ。あっ、でも手加減した方がいいわね。遥より後の人が食べられなくなるから」
「アキラ? あなたは食が細いから分からないかもしれないけど、食事はいつだって全力で楽しむものなのよ? それがこれから食べる食材、そして、料理という形にしてくれた全て人への礼儀であり、感謝にな──」
「分かった! 分かったから! 早く、早く行って」
本気の口調にアキラは思わず一步後ずさる。
白鷺遥、彼女はアキラのまだ短い人生において一番の健啖家であった。
具体的に言うと、アキラの学園での昼飯はコッペパンとイチゴ牛乳であるが、遥は五段の重箱を基本とし、日により購買で購入した惣菜パンが追加される。
そんな、異次元の胃袋を持つ者は今始まったばかりの流し素麺へと向かって行った。
(本気だ……遥の後ろの人の分、残ってますように)
やる気満々の彼女を見て、遥を呼んだのは失敗であったかもしれないと、今更ながらアキラはちょっと後悔した。
「初めまして、だな」
見送ってから数分だろうか、流れる素麺と格闘する遥を見ながらお茶を飲むアキラに突然声が掛けられた。
「……アルフレッドさん」
声の方に視線を移すと立っていたのは、肩にかかるまで伸ばした金髪を持つ長身の男子生徒。
知多学園序列三位『雷帝』アルフレッド・ヨハン・フリッシュであった。
「知っていたか。嬉しいな」
「私達の世代で貴方達を知らないのはモグリか初心者位ですよ」
貴方達とは、今の三年生世代に存在する三人の強者達の事である。
無冠の帝王、オーストリア出身
『雷帝』アルフレッド・ヨハン・フリッシュ
ヨーロッパ覇者、ドイツ出身。
『暴君』カール・シェリング
そして、四峰祭優勝者。出身地不明。
『魔導皇』モケーネ・ベンベベ
「そうか。だが、それを言うならお前もそうだろう。俺達以上の存在感だ」
そこに、アキラを加えた四人が今年の四峰祭優勝者の有力候補であった。
「……それで、わざわざ話しかけに来て、何か用でもありましたか?」
訝しげな視線を向けるアキラに、アルフレッドは苦笑いしながら言葉を返す。
「そう言うな。同じ学園の仲間だろう? なに、今までマトモに話したことが無かったと思ってな」
「午前中のスケジュールは違う班でしたからね」
「あぁ、本来ならもっと早く声をカケようとも思っていたのだがな。お前の周りにはダイタイ誰かしら居たからな」
「それは、アルフレッドさんも同じでしょう」
「確かに、こっちもユキノブとかがダイタイ居たな。だがそれはお前に話しかける気があったの話だろう」
「……それもそうですね。アルフレッドさんは流し素麺、行かないんですか?」
「ああ。言葉はだいぶ覚えたが、ハシはまだ苦手でね。貰ってきた」
そう言って、手に持っていた平皿をアキラに見せる。
素麺にミートソースが掛けられた料理が盛り付けられていた。
「……言い出したのはアルフレッドさんだとお聞きしましたけど」
「そうなんだが、まさかほんとに採用されるとは思わなかった。正直ユキノブのバカさをナメていたな」
言いながら笑うアルフレッドの表情は言葉こそ悪いが言葉通りの意味は感じられなかった。おそらく普段からお互い言い合っているのかもしれない。その言葉で幸信とアルフレッドの信頼関係のようなものが感じられた。
気がした。
「しかし、お前の友人も凄いな。エレナやローザに負けてないぞ」
アルフレッドの視線を追って流し素麺が行われてる方向に目を負けると、遥が三年の先輩、エレナ・クルスやローザ・ステイトンと激闘を繰り広げていた。
そこより後ろ三人の後ろ誰も立っていない。
3人により素麺が完全に取りきられ後ろに一切れたりとも流れてこないからだ。
アキラはローザに対して、堂々とフォークを使うのはどうなんだ、と思ったがその言葉を飲み込むことにした。
「……伝えておきます」
「そこまではしなくてもいい」
「そうですか、それで、本題はなんです?」
「いや、なに、最初に言った通り話きただけだ」
「はぁ、そうですか……」
「お前との戦いは楽しみにしていた。恐らく、教員連中が最後のシメとして試合スケジュールを設定したんだろうが、お陰でダイブ待たされた」
「そうですね……」
「お前は……そうではなさそうだな。まぁ、お前から見れば俺も他の奴らもイッショだろうからな」
「謙遜も過ぎると良くないと思います」
「いやいや、俺は少なくとも四峰の中でもトップクラスだ、だが、お前の前ではそんなの関係ないだろう」
「……私は相手と同じ魔法を使うので、相手の強さは意識してますよ。できる手段が変わってきますから」
「なるほど。確かに。それはそうだな」
「そんなことより、私にはお構いなく。先に食べた方が良いのでは?」
「かまわないか?」
「どうぞ」
「では、エンリョなく」
「イタダキマス」と小さく一言礼をしたあと、アルフレッドはミートソース掛け素麺をフォークに絡ませ始めた。
あけましておめでとうございます。
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