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28話

 強化合宿の一日のカリキュラムを終えてアキラは実技棟の屋上に来ていた。

 まだ、真夏の時期では午後四時くらいでは日も傾いておらず、グラウンドで部活動に勤しんでいる生徒たちの声が響いてきていた。


(さっきのは良くなかったわね)


 屋上のベンチに腰掛けながら先程の香織とのやり取りを思い出す。

 普段から怒らないように、感情を出さないように気を付けていたのに、一体なぜあの時は我慢が効かなかったのか。

 試合終了後に呼び付けた葛が来るまでの間にアキラは一人、反省を繰り返す。

 元々短気なのは自覚していたしそれが表に出さないように努力して来た。

 人前で怒る事など以ての外である。誰もそれをアキラには求めていないと自覚してからはあまり感情を出さないように努め、それも大分板に付いてきたと思っていた。

 だが、それも甘かった。

 現実はたった一言、香織に敗北の言葉を告げられた位で揺さぶられる程度の自制心しか持ち合わせていなかったのである。

 アキラは内心頭を抱えていた。

 この後、今日はもう会うことはないとして明日以降どんな顔をして会えばいいのか。

 もし、今日話してたのが香織でなければ怒らなかっただろうか。

 香織以外にも同じ様に怒ったとしたら今後の対応はもっと難しかった筈だ。

 幸い、相手が香織だったから周りの人にこの話を言い触らされる事はないはずだが、予断は許されない。

 あの時、話の内容をもっと上手く誤魔化せていればこんな事にはならなかった筈。

 等々、様々な思考が浮かんでは消えていく。

 普段から怒らないようにしてきたからこそ、久々に遭遇した事態の対応が分からないのである。


「……はぁ」


 堪らず出た溜息は誰に知られることも無く消えていく。──筈だった。


「呼び出しておきながら溜息でお出迎えか? こっちが溜息付きたいくらいだ」


 思考を巡らせてるうちにどれほどの時間が経ったのか、気付かないうちに葛がすぐ後ろまで来ていたようだ。

 アキラは香織と話していた時の反省から意識を切り替えてから、後ろに立つ葛に体の向きを直しながら言葉をかける。


「……いつの間に来てたの? 後ろからじゃなくて前から声をかけてほしかったわね。結構、ビックリしたわ」

「よく言う……気づいていたくせに、それで何の用で私を呼んだんだ?」


 アキラの言葉に悪態をつかんばかりの勢いで葛は言葉を返す。

 その態度にアキラは苦笑しながら、自身が座るベンチの横に空いている空きスペースを手でニ三度叩く。


「まぁ、座れば? 立ってるのも辛いでしょ?」

「構わん。このままで良い」

「私が辛いからさ。座ってくれない?」

「いい気味だ。そのまま辛い思いでもしていろ」

「……まぁ、良いけど」


 アキラは諦めて体の体勢を元に戻した。


「一応聞いておくけどなんで呼び出されたかは、分かってるのよね?」

「……あぁ。最後だろ? 確かにあれは軽率だった」


 葛の言う最後とはアキラに蹴られる直前のことである。

 あの時、葛は怒りに任せて魔力を込めた両拳を地面にぶつけようとしていた。

 レプリカが正常であれば何も問題のない行為でアキラも特段何もする気はなかったが、問題はあの時、葛のレプリカがアキラによって破壊されていた点だ。

 普通、人間は両拳を振り下ろしたくらいでコンクリートを破壊できない。にも関わらずあの時の葛はコンクリートを僅かながら破壊する程度には身体強化を施した状態で両拳を振り下ろそうとしていたのだ。

 世間の人間はレプリカによる魔法は認知していてもレプリカの無い魔法の存在は認知していないのだ。

 そんな状態でレプリカによらない魔法の一端を見せたら世間はどう思うか。

 折角短くない年月を掛けて先人達がレプリカによる魔法を世間に浸透させてきたのを無に返す事になる。

 それだけは避けなくてはいけなかった。

 咄嗟の事でアキラとしても暴力に訴えるしかなかった。

 今となってはもっとスマートな方法も思いついたが後の祭りである。


「それだけじゃないけど……まぁ、いいか」

「他にもあるのか?」

「イクシオンだけど、あれを使うのはやめなさい」

「お前が言う欠陥品だからか? 言っておくがあんな戦い方を出来るのはお前くらいだぞ」

「流石に他にもいるでしょう。でもそんなのは今は大した問題じゃない」

「他に何が?」

「分かってるでしょ? それとも自覚してしてないの? その方が重症ね」

「なんの事?」

「イクシオンを使う為に貴方肉体改造受けてるでしょ?」

「? それが何だ? おかげで私は夜鳥家で唯一イクシオンを使えるようになった」

「拾ってくれた家への恩返しは気持ちとして分からなくないけど、直ぐに止めなさい。魔術的な肉体改造だけじゃないでしょ? 薬? 医学の方面かしら。そっちでもイジってるわね? 二年見ない間に貴女の魔力大分汚れてるわよ」

「分かるのか?」

「分からなきゃ言わない。貴女の寿命が縮むだけならまだ良いけど、悲惨な最後を迎えるかもしれないわよ。それでも良いの?」

「構わん。私の命は拾って育ててくれた夜鳥家の物だ」

「……貴女の命でしょ」


 お互い向かい合っていない、今の状況ではお互いがどのような表情をしているのか、見ようが無い。


「貴女の為に言うけど、貴女の命は夜鳥家の物じゃない。貴女の物よ。貴女が死んだところで夜鳥の人間は悲しまないわ」

「だとしても、決めたのだ。私は夜鳥の為に命を捨てると」

「……変える気はないの? 貴女が止めたいなら、言いづらいのなら私から言ってあげるわよ?」

「くどい。もう覚悟してる」

「そう。……なら、良いわ。そうよね。頑固じゃなきゃ私にずっと敵意を持っててくれないものね」


 そんな敵意を向ける相手に何言われたところで意見を変えるわけなど無かったのだ。

 アキラは表には出さず、内心で肩を落とす。


「そうだ。私は、夜鳥家の所属魔術士の誰も叶わなかったお前に一矢報いる事で夜鳥家の恩返しにするのだ」

「バカね。そこは一矢報いるなんて小さいこと言わないで勝つって言い切るのよ」


 アキラは立ち上がり、葛の方に振り返って続ける。


「まぁ、どっちにしろ叶わないけどね」

「言ってろ。今にその顔を歪ませてやる」

「えぇ。待ってる」


 アキラはベンチに置いている鞄を取りながら言葉を投げる。


「まぁ、私が言いたいことは伝わったようだしもう帰るわね」

「さっさと帰れ。こんな事で呼び出して、全く」

「そうね。自分で反省できてたみたいだしいらないお世話だったわね」


 アキラは葛の横を通り過ぎながら屋上の出入り口へ向かう。

 そして、扉のドアノブに手を掛けたところでもう一度、要らないお世話だと自覚しながら葛に声をかける。


「今の話だけど、もし辞める勇気が湧いたら私に言いなさい。必ず、なんとかするから。強くなる方法なんていくらでもあるのよ」

「いらないいらない。さっさと帰れ」

「はいはい。貴方もさっさと帰りなさいね」


 予想していた答えとあまり変わらない答えが返ってきた事に苦笑しながらアキラは屋上から出ていった。

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