26話
スタジアムに立ったアキラは内心苦笑していた。
自分を見つめる葛の目が明らかに敵意に満ちていたからである。
(まぁ、良いけど……今に始まった事じゃないし)
フィンブルでは試合前に一言二言言葉を交わすのが暗黙の了解としてあるのだが、それを行わずスタート地点で開始を待つというのは異様な光景であった。
勿論、暗黙の了解というだけであることから、全く見ないと言うわけではなかったが、そのような場合、対戦カードが因縁の関係であることが周知の事実である事を前提とした一種の演出としての意味合いが大きい。
そう言った点でスタジアムの観客席で二人の試合を見守る生徒達は困惑していた。
試合前のアキラたちのやり取りなど知る由もないのだから当然ではあるのだが、そんな観客達の困惑など知りもしないアキラと葛は互いにレプリカを出し臨戦態勢である。スタートの合図が鳴るのを今か今かと待ち構えていた。
スタジアムに設置されたスピーカーからカウントダウンの音声が流れ始める。
(……)
カウントダウンがゼロに近づくにつれ葛が既に動き始めているのをアキラは見逃さなかった。
フィンブルのルール内ではスタートの合図前に攻撃を行う、攻撃体勢に入る事を禁止しているが、迎撃体勢いや、防御体勢に入る為の僅かな挙動に関しては許していた。
細かく言えば、スタート地点から目に見えて移動しないこと。など、あるにはあるが此処では詳細を省かせて貰う。
かなりグレーな所ではあるが葛はそのルールの隙間を縫ってスタートの合図と全く同時に攻撃を仕掛けるつもりなのであろう。
(上手いことやるわね。あの程度ならどうとでも言い訳できる)
そして、カウントダウン中に作った僅かなアドバンテージを利用して葛はスタートのブザーと同時にイクシオン02(ツー)を投擲した。
回転しながら雫と戦闘した時のように変形し、内部から出現させた刃を更に回転させながらアキラに迫った。
(イクシオンが欠陥品だと!? ならどうやって勝つつもりだ! 相手の魔法を見てからじゃなければ魔法を使えないお前のレプリカの方がよっぽど欠陥品だろうが!)
葛の思考も尤もであった。
事実、常に相手のレプリカを見てからでなくては魔法を発動できないアキラのレプリカは常に後手に回る事になるというその欠陥じみた性質からアキラ以外に使用者が居ないほどである。
なにより、相手が魔法を使わなければこちらも使えないという致命的な弱点があった。
イクシオン02の能力は相手の放出した魔力を吸収しその刃の切断力を上昇させる。あるいはその刃から炎を放出させる。と言った能力だがアキラのレプリカとの相性は抜群だった。
アキラが魔法を放出しない限りイクシオンはその魔法を吸収し炎を放出しないだろう。
だが、イクシオン02が魔法を使わない限りアキラは魔法をつかえない。
堂々巡りであった。
迫りくるイクシオン02を前にアキラが出来るのは全てのレプリカに共通する魔法、身体強化だけである。
だが、それで十分だった。
アキラは迫りくるイクシオンに合わせて背面を反らし攻撃を躱す。
「その程度で──っ!?」
葛はアキラの回避行動見てイクシオンの回転軸をズラしながら同時に背後から強襲させようと操作を加えようとしたのと同時だった。
背面を反らした状態で右腕を上げイクシオンの内輪を掴んだのである。
イクシオンの勢いで僅かに後方に下がったアキラは掴んだイクシオンを下げながら体勢を元に戻していく。
「はぁ?」
予想だにしていないことが起きると人間素っ頓狂な声が出るものである。
それも当然だった。あの黒井樹ですらぶつかり合えば打ち負けて遥か後方に弾き飛ばすイクシオンの威力を背面を反らした不完全な体勢で受け止められるなどは露とも思ってはいなかったのだ。
「──」
「……くっ、なんてばか力」
葛はアキラに掴まれたイクシオンを遠隔で操作しなんとかアキラの手元から放そうとするが、アキラの力が強すぎるのか一向に放される気配は無かった。
遠隔操作しながらもアキラと睨み合う葛は顔色を変えてアキラに向かい走り出した。
それと同時に、イクシオンに異変が起こり始めた。
高速回転していた刃が葛の意志とは無関係に徐々に回転数を落としたのだ。
(何か魔王だ! ゴリラじゃねーか!)
その原因はただ一つ。単にアキラの握力によるものだった。
アキラは掴んだイクシオンを力任せに握る事によりフレームを歪ませ物理的に回転を阻害していたのである。
だが、事態はそれだけに留まらなかった。
回転数を落とし始めたイクシオンの刃の回転が完全に止まると同時にアキラの掴んだ箇所からイクシオンの耐久力を超えた握力により、イクシオンのフレームに亀裂が走り始めたのである。
同時にスタジアムのモニターに表示されたイクシオンの耐久値が亀裂の走るのに合わせて百からカウントダウンされていく。
(ま、まずい!)
葛はアキラの魔の手からイクシオンを解き放つ為に殴り掛かるが、アキラはそれは空いた左手で軽くいなす。
それでも諦めずに何度も殴り掛かり、或いは蹴りを放つがどれもアキラには届かなかった。
先程と同じように左手でいなされるか、或いは、今まさに壊れようとしてるイクシオンで防がれる。
「っ!!」
握力による破壊が続けられているイクシオンによる袈裟斬りを躱そうとし、避け損なった葛はその鋸状の刃によって強引に衣服ごと肉体を切り裂かれる。
それでも勝ちを諦めない葛はアキラに向かうが既に遅かった。
イクシオンに際限なく走った亀裂が一周するとイクシオンはついに耐えきれずに崩壊した。
「あ、あぁ……」
崩壊し重力に従い落ちていくイクシオンの欠片を見ながら葛は言葉にならない声を漏らしながら膝から崩れ落ちる。
同時に戦闘終了を告げるブザーが鳴り響いた。
「……」
葛は何も話さなかった。
俯きながら現実を受け入れられないのかもしれない。
アキラはそれをただ見下ろしていた。
「っ! く──」
感情の整理が付かないのだろう俯いていた右腕を振り上げ、力任せに振り下ろそうとした葛をアキラは蹴り飛ばした。
会場内にどよめきが走る。それもそうだろう。既に勝利が決し攻撃の必要がないにも関わらず攻撃したアキラは誰がどう見ても不必要な追い打ちだったからだ。
アキラは蹴り飛ばされステージ上で仰向けに転がる葛に近づき胸ぐらを掴み顔の近くまで持ち上げた。
「……」
胸ぐらを掴みながら持ち上げた事で衣服により首が絞まったのだろうか葛は苦しそうな顔をしているがアキラはそんなことは気にせず葛の耳をを自分の口元に近づける。
「今日の日程終わったら実技棟の屋上に来なさい」
葛の耳元でそれだけ言うとアキラは掴んでいた手を放す。ステージに落ちた葛にはもう気を留めずにアキラはその場を後にした。
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