25話
少女が初めて彼女を知った時に抱いた感覚は憧れと疑問だった。
当時、施設から引き取られた私がその御前仕合を見たのは本当に偶然だった。
引き取られた先の家で割り振られた仕事をこなしている最中に視界に入ったのだ。
年上の魔術師達を相手に苦戦すること無く倒して行く様は幼心に格好良いと美しいと思った。
同時に仕合に勝ってもまるで嬉しそうにしない彼女に何故喜ばないのか不思議に思ったのを強く覚えている。
仕事を忘れて、次々と行われる仕合を見続けて私の仕事を管理している先輩に怒られたのも今では笑い話として、ネタにされている。
その後から、私の一日に魔法の修行の時間が割り振られる用になった。
その仕合を見たから始まったのか、私を引き取った時からその予定だったのか、予定だったとして仕合を見たから予定を繰り上げたのかは興味はない。
魔法の修行は厳しいものだった。
私以外にも施設から引き取られた孤児が数人居たが、今でも当時と変わらぬ密度で修行を続けているのは自分だけだろう。
他の孤児は修行に耐えられず一般人として生活していく事を決めたようだった。
尤も引き取られた家が家だけに世間にイメージされる一般人からは離れているかもしれないが──
そうして、魔法の修行が始まってからニ、三年経った頃だろうか努力の甲斐があり私は御前仕合のメンバーに抜擢され、彼女と戦った。
私を引き取ってくれた宗主様と次期宗主様、そして彼女の家の宗主と次期宗主の前で戦う栄誉を勝ち取ったと喜んでいた私に訪れた現実は非常だった。
たかが二、三年の努力でもともと開いた実力差を埋める事はできなかったようで三十秒も宗主様の前で立っている事は叶わなかった。
その時のつまらなさそうな彼女の目が嫌に印象的だった。
それでも努力を続け、年に一度の御前仕合のメンバーには選出され続けたが彼女との差は埋まらなかった。
──なんで、
それでも努力は続けた。少女の努力は幸いにも報われ次期宗主の呼び声が高い少年の護衛を任せるようになった。
しかし、少女の目的は叶わなかった。
彼女にはどう足掻こうとも敵わない。
疑問が頭を過る。
──なぜ勝てないのか。
──なぜ差が埋まらないのか。
──自分と彼女の何が違うのか。
生まれが違うのが、
育った環境が違うのが、
何が、少女と彼女の差になっているのか。
現実は非情である。いくら考えようとも少女と彼女の差は埋まることはない。
考えている時間すらも差は開く一方である。
少女が中学に上がった頃だろうか、今年こそは彼女に傷を負わせると意気込んだ御前試合に、彼女は現れなかった。
だからだろう。その年の御前試合は数年ぶりに自分たちの家の勝利で終わった。
名目上御前試合の勝敗に意味など無い。
御前試合は年に一度、御三家がそれぞれに前年の研鑽を披露するために古くから慣例的に行われている行事である。
その理由から考えれば勝利になど意味がない。ただ、昨年の努力が表向き讃えられて終わるだけだ。
その裏ではどの家がトップに立つのか熾烈な水面下の争いが行われているのだろうが、いずれ使い捨てられる事になるであろう少女には、何も関係のないことだった。
強化合宿も数日が過ぎた昼下り、アキラは模擬戦の合間を利用し特設スタジアム内に設置された自動販売機まで来ていた。
いつもと同じ物を購入し、取り口に落下したイチゴ牛乳を取り出したところで──
「久し振りだな」
背後から声が掛かった。
「……」
その声に応えるように振り返るとそこには夜鳥葛が立っていた。
「あら、こんにちは。こんな所で声を掛けて良いのかしら? お互い知らないふりをし続けるものだと思っていたけど」
「良くもそんな口がきけるな? お前が気づいてないわけ無いだろう」
葛の言葉にアキラはイチゴ牛乳にストローを刺しながら答える。
「見なくなってニ年の間に随分器用になったのね。人避けの結界なんていつの間に覚えたの?」
アキラの言った通り周辺には人影一つなかった。スタジアムには複数箇所自動販売機設置箇所がある為、たまたま周辺に人がいないという事はあり得る。
ましてや、夏休み中に対象を絞った強化合宿でそもそものスタジアム使用人数から少ないことを鑑みれば周辺に人がいないと言う事態は考えられる。
だが、今回に限ってはそうでは無かった。
周辺に魔法的な処置が施された形跡が残っていた。
眼の前にいる葛が結界を張り、そして、自分はその中に誘い込まれたのだろう。
「お前が御前試合に現れなくなってからも努力を怠った日は無い」
「……でしょうね。その結果があれ?」
「アレ? ……イクシオンの事か?」
「噂には聞いてたけど遂に完成したのね。夜鳥式複合レプリカだっけ?」
「夜鳥家の技術の結晶だ。これならお前にだって傷を負わせら──」
「無理よ。アレは欠陥品だもの」
アキラにしては珍しく発言を遮ってまで行われた否定の言葉に葛は激昂する。
「──っ! 欠陥品だとっ!? 夜鳥家の技術の粋だぞ! それを!」
「言い方が悪かったわね。技術は凄いわ。ただ、レプリカとしては欠陥品よ。使ってる貴方が一番分かってるでしょう?」
「そんなわけない!」
「まぁ、認めないならそれで構わないけどね……」
アキラはイチゴ牛乳を飲みながら葛を見据える。
その視線を受けた葛は思わず一歩後退った。
御前試合で幾度となく向けられ、葛本人は自覚していないが苦手意識を植え付けられた視線であった。
「そんなに言うなら証明できるんだろうな!」
「証明も何も無いと思うけど……まぁ、良いわよ」
「出来なかったら夜鳥家に謝罪させてやるから、謝罪の言葉考えておけよ!」
「分かったわ」
アキラは他にも言いたい事があったがこのまま話しても言いたい事は受け取られ無さそうだったので、肯定だけしてその場を立ち去る事にした。
「そう言えば、この後は今まで通りで良いのよね?」
「当たり前だ。お前なんかと知り合いだと思われたくないからな」
「あら、随分嫌われてるのね。傷つくわ」
「それは良い気味だ」
アキラはその場を離れながら、葛がいつから自分にだけこんなにも乱暴になったのかを思い出そうとしたが、結局、その理由は分からなかった。
久し振りの投稿です。
申し訳はないです。




