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24話

「塚川今帰り?」


 今まさに昇降口を出ようとしていたアキラに後ろから声が掛かった。

 声が掛かった方に振り向くとそこに立っていたのは山野雫であった。


「えぇ。山野くんも今かしら?」

「そう。塚川はもっと早く帰ってるもんだと思ってたよ」

「まぁ、スケジュールが早く終わったから時間余ってたしね。先輩たちの会話をね」

「混ざったの?」

「や、聞いてただけ。話すほど仲良くないし」


 アキラの言葉に苦笑で雫は返す。


「で、何の用かしら?」

「? なにが?」

「? 用があるから話しかけたんじゃないの?」


 お互いの言葉にお互い首を傾げて言葉を返す。


「いや、用とかは無いけど」

「そう。用がないなら行くわね」


 アキラはそう言って再び昇降口を出ようと歩き出した。

 そんなアキラを雫も追いかける。


「まぁまぁ、そう言わずに」

「……暇なの?」

「実はね」

「見たまんまじゃない……」

「塚川は駅だよね?」

「えぇ。山野くんは寮でしょう? すぐお別れになるわよ?」

「いや、今日は駅前のスーパー行くんだ」

「意外ね。山野くん料理するの?」

「しないよ。コンビニより安いから買い溜めに行くんだよ。お菓子と飲み物の貯蓄切れてね」

「許されてるの?」

「それくらいはね。部屋に冷蔵庫あるし、ワンドアだけど」

「そうなのね」


 二人はそれっきり無言で歩き続ける。


「そう言えば試合前にさ、夜鳥が塚川のこと見てたんだけど、なんかあった?」


 そうして、しばらく歩いていると無言に耐えきれずといった体で雫がアキラに話しかけた。


「さぁ? 私を目の敵にしてる人は多いから、よく分からないわね。まぁ、ネットでよく見る有名税ってやつじゃないかしら」

「そうかな?」

「だと思うけど」

「……」

「……」


 そして再び訪れた無言にやはり耐えきれない雫は改めて違う話題を提供する。


「あー、じゃぁ、あれは? 今年の四峰祭に暴君が参加するって話」

「暴君? ドイツの?」

「そうそう! 赤目柳学園に転入したらしいよ?」

「……そう、カールさんはまだ戦ったことなかったわね」

「そうなの?」

「組み合わせに拠っては戦えてたけどね。私の中一の時の中学選抜で私が大将か、向こうが先鋒だったら戦えてたわね。まぁ、そうはならなかったんだけど」

「やっぱ理不尽なの?」

「フィンブルはね。フィンブル外だと良い人だったような記憶もあるけど。三年前だし流石にちゃんとは覚えてないわね」

「そうなんだ」

「ただ、日本とドイツの選抜ではカールさん戦ってないわよ。私が先鋒で勝ったあと三連敗してカールさんが出てくる前に試合が終わったからね」

「……そうなんだ」

「そうなのよ」

「その当時の選抜メンバー弱かったんだっけ?」

「まぁ弱くは無いけどってところかしらね」

「香織さんも選抜だっけ?」

「そうね。あとは、宮原さんと財前さんとかかしらね」

「聞いたことあるなぁ……」

「副キャプテンの『不死者アンデット宮原みやはら 優希ゆうきさんとキャプテンの『擬似太陽プロミネンス・ノヴァ財前ざいぜん 義則よしのりさん。宮原さんは頭のネジが二本くらい飛んでたし財前さんはレプリカが凄い」

「レプリカが凄い? そんな明らかに凄いレプリカあったっけ?」

「完全受注生産の四百万は下らないっていう代物よ」

「……パエトーン!」

「そう。実物は見たことないけど知ってるって言うレプリカの一つね」

「はいはい。ニュースかなんかで見た記憶ある。……あぁ、その人ね!」 

「そう。レプリカが本体とか散々な言われようだけど。強いのは強いわよ。今年もいいとこ行くんじゃないかしら」

「へぇー。俺はどこまで行けるんだろ」

「行けて準優勝ね」

「……その心は?」

「優勝は私が取るだろうから」

「自信家だなぁ」

「あら、そうでもないわよ。レプリカは感情に作用されるところもあるからね。負けるかも、なんて弱気でいたらレプリカのパフォーマンスに影響するわよ。それに、私が勝つと思ってるのと実際に勝つかどうかは別の話だしね。だから、山野くんも誰と戦うにしても俺が勝つって思っておくと良いわよ」

「なるほどね。参考にさせてもらうよ」

「えぇ。それが良いわ」


 その後も雑談を続け──と言っても話題を提供するのは雫であったが──二人は駅で別れたのだった。



 そうして雫と別れた後、バイトに来たアキラはいつものバリスタ姿に着替えて遥から仕事の引き継ぎを受けていた。


「引き継ぎはそんな感じかな。と言っても今はやることないわ」

「了解。お疲れ様。そ、そう言えば、……は、遙は午後暇な日ってある?」


 店内にお客がいないことをいいことに引き継ぎをしながらホールに出てきたアキラ達はそのまま雑談に入る。


「土日? なんかあったの?」

「や、平日なんだけど」

「平日は予定無いからバイト埋めちゃってるなぁ」

「そ、そうよね。なら良いわ」

「どうしたの?」

「それがね、今やってる合宿の午後にあるフィンブルの試合学園の生徒なら観戦自由って聞いたから見に来ないかなって?」

「なるほど! それは興味深いわ。店長に聞いてみるからアキラの試合の日教えて! 見に行くから!」

「えっ!? 私の試合!?」

「えっ!? 違うの?」

「い、いや、私はこの前試合の解説する約束まだ果たして無かったから、解説をしようかなって」

「あぁ、そっちね。でも折角ならアキラの試合も見たいわ」

「そ、それは恥ずかしいわね」

「もう何回か見てるわよ?」

「そうだけど……」

「解説は四峰祭ほんばんに取っておくわ。それでも良いのよね?」

「……構わないけど。四峰祭来るの?」

「えぇ。折角だし見に行くわ。今からたのしみねぇ」

「そうね。本当に」


 などと話してる最中、店内に鈴の音が鳴り響いた。店の扉が開いたのである。

 アキラ達がそちらの方を見るとワイシャツにプリーツスカートを履いた女子が店内に入ってきたところであった。


「っ!?」


 その少女を見てアキラが僅かに表情を驚愕に染める。

 少女は外が暑かったのかワイシャツの裾を全て出し第二ボタンまで外した首元に右手で持つ団扇で風を送っていた。彼女の一纏めにされたポニーテールの先が風を受けて僅かに揺れている。


「おっちゃーん。アイスコーヒーちょーだいぃ」

「おや、優希ちゃん珍しいね。ブレンドで良いかい?」


 顔なじみなのか店長は入ってきた少女の失礼な物言いに笑いながら返す。


「一番いい豆でお願ぃ」

「はは。分かった分かった」

「サンキュー。テキトーに席座るなぁ」



 店長の言葉を聞いた少女は店内を歩き始めようとして、その先で固まっているアキラと目があった。


「あ"あ"ぁ? 何見てんだぁ?」

「あっ、すみません。失礼しました」


 その少女の一言でアキラは頭を下げその場から離れる。

 遥もその後をついてその場を離れた。


「んん? 待て、待て待て、お前塚川かぁ?」


 呼び止められたアキラは足を止め少女の方に振り返り質問に答える。


「は、はい。塚川です」

「なんでこんなとこにいんだぁ?」

「ば、バイトです」

「バイトだぁ? お前良いとこのお嬢さんだったよなぁ?」

「生活費は自分で稼いでるので」

「ふぅん」

「宮原さんはなんでここに?」


 質問を繰り返す少女にアキラは逆に質問を返した。


「おっちゃん。あぁ、ここの店長はなぁ、私の親戚なんだ。長期休暇の間は顔を見に来んだよ」

「そうだったんですね」

「そんな遠くないしなぁ」

「先輩は鳳でしたもんね」

「おう」

「私は仕事あるので一度裏に戻りますね」

「あぁ。引き止めて悪かったなぁ。バイト頑張りなぁ」


 そうして、アキラは遥を連れてバックヤードに歩き出した。



「あの人どなた?」


 バックヤードに戻った遥はアキラに当然の疑問を投げかける。


「宮原優希。私が中一の時の中学選抜の副キャプテンよ」

「なるほど……アキラにみたいに二つ名とかあるの?」

「あるわよ。『不死者アンデット』とか、『玉砕特攻ミス・ノーブレーキ』とかね」

「それはまた物騒ね」

「えぇ。見ての通り荒々しい人だからね。ま、悪い人じゃないわよ」

「第一印象は怖いけどね」

「……本人の前では言っちゃ駄目よ?」

「えぇ。もちろん」

「取り敢えず、遙はもう帰りなさい。後はやっておくから」

「大丈夫?」


 遥の問いかけにアキラは頷いて返す。

 先程の会話の様子から遥は心配になったがアキラの言葉を信じて帰る事を決めたようで、バックヤードから出ていった。

 扉が閉まったのを見てアキラは呟く。


「流石に宮原さんが来るのは読めないわ」


 だが、結局アキラが言ったように何も問題なくバイト終わったのだった。

 客が居ないのを良い事に優希がアキラを自分の対面に座らせて時間を拘束していた事以外はだが。

 バイトの終わりしな、珈琲代をツケにして出ていった優希がアキラに放った言葉が頭の中に何時までも響いていた。


「塚川がいんとは良いことぉ知ったなぁ。これからはもっとこまめに顔出すからヨロシクなぁ」


 実にいい笑顔であった。アキラがなんと答えたものか分からず黙っているうちに優希は店を後にしていた。


「お店のお代は優希の親が後で払ってくれてるから気にしなくていいからね」

「そうなんですね」


 居心地の良いバイトであったが最悪辞めようかな、などとアキラの頭に一瞬浮かんだのであった。

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