23話
雫と葛の試合が終わった後、複数の試合が続き一日のスケジュールが完了した頃に医務室から帰還した雫は男子更衣室に来ていた。
「おー。おかえり。お疲れやったね」
雫を迎えたのは更衣室の真ん中で麻雀卓を囲っていたエセ関西弁でキャラを作っている古河邑楽であった。
「なんで麻雀卓が?」
雫の当然の疑問に答えたのは生徒会長の遠野幸信だった。
「これは先輩達が残していった遺品だ」
「言い方。この更衣室は俺らの上の世代が後輩たちに残したものが多く隠されてる。このマンガもそういったものの一つだな」
それにツッコミを入れつつ補足したのは漫画を読んでいたアルフレット・ヨハン・フリッシュであった。
「生徒会長が率先して麻雀誘うのもどうか思うんだけどね……」
一日のスケジュールが終わり着替えていた男子たちを麻雀に誘った幸信を思い出して樹は苦笑した。
「そういうの取り締まるのは生徒会じゃなくて風紀委員だ。佐和にはバレないように」
毒島佐和。生徒会副会長にして風紀委員長である。
「遠野さんそれだ」
幸信が捨てた牌を見て神原清一郎が手配を倒した。
「おっ、通らないか。引っ掛けられたな」
「神原の性格の悪さ出てるね」
「悪くはない。良くもないが」
お互い諸々の感想を言いながら点数移動や、局の終わりの動きを進めていく一同。
「……慣れた手付きだ」
「一年のコガはともかくユキノブ達は去年先輩にカモられてるからな」
そんな様子を見ながら雫の思わず出た感想に答えたのはアルフレットだった。漫画からは目を離してもいないが。
「アルフさんもカモられたんです?」
「さぁ……どうだったか」
それっきり漫画のページを読み進めるアルフレットを尻目に雫は歩き出し自分のロッカーまで来ると着替え始めた。
「アルフはうちらのマイナスを取り返す側だ。気持ちの悪いマージャンするけど強いな」
「キモチワルイ言うな。ヘタクソ」
「まぁまぁ、喧嘩しないで。あっ、邑楽ツモ待って考えさせて」
「どうぞー」
「そう言えば遠野さん。他の学園の参加者ってわかるか?」
「あぁ、去年の一二年はそのままで出て来るな。聖サンタンデル学園は前回覇者の『魔導皇』に『氷界の女王』、鳳は『不死者』に『灼熱魔人』。赤目柳学園は『擬似太陽』辺りだとさ」
「それ、遠野さんが負けそうなところピックアップしてるのか?」
「不死者は負けないだろうけど。俺が負けるなら今上げたところだ」
「魔導王はアルフ先輩も負けましたよね」
「あぁ……お陰でベスト16を逃した」
「しかも魔導王の最短試合時間だ」
「……ユキノブ、それはいらない情報だ」
「いや、アルフ先輩もだけど、遠野先輩も魔導王に負けたでしょ」
「でも俺は準優勝だから」
「遠野さん。負けたことに変わりはない」
「そこを突かれると弱いんだ」
「魔導王ってどんなレプリカ使用しとるんでしたっけ?」
「ゲーティアって言う72の魔法を使える本のレプリカ」
「えっ? 卑怯くさっ。そんなんずるですやん」
「まぁ、卑怯臭さで言ったらアルフも負けてないし」
「遠野先輩のせいで嫌なこと思い出した」
「俺!? 嫌なことの原因アルフでしょ!?」
「思い出させたのは遠野先輩です!」
言い合っている幸信と樹を見ながら雫はアルフレットに話しかける。
「何かあったんです?」
「……俺からは言えん。イッキから聞け」
アルフレットの言葉を受け樹に視線を向けると樹は苦笑いと一緒に言葉を零す。
「ニヶ月入院さ。お陰で年末年始は病院のベットの上」
それきり、樹は言葉を続ける気配はなかった。
僅かに室内に漂った重い空気を払うように幸信が牌を捨てながら話し始める。
「お前たちが戦う時は入院までは行かないさ。普通に戦ってるだけならな。正直なところ樹は自業自得だ」
「……確かにあの時は自惚れてましたけどね」
「……」
「……」
学園最高防御力を誇ると名高い黒井樹がなぜ入院したのか。雫と邑楽は考える。入院する羽目になったという昨年の十二月、その時すでに樹は当時の三年生すらも抑えて学園最高防御力だという話は聞いたことがある。
そして、フィンブルにおけるケガであればおおよそ、その日のうちに治療を完了させるという現代の医療技術を持ってすれば入院と言うことは考えにくい。
考えた末、ある一つの結論にたどり着く。
「迅雷怒濤……」
呟きでた言葉は同時だった。
アルフレットはレプリカ使いとしては珍しく二つ名を複数持っていた、最も通りが良いのが『雷帝』であるが、その他に『壁破壊』というと言う二つ名も贈られていた。
それはアルフレットがまだ地元オーストリアに居た頃アキラと同じく無敗を誇るレプリカ使い『炎龍帝』を破った事に由来する二つ名であったが、その倒し方も一因する。
フィンブルが行われるスタジアムにはレプリカの攻撃が観客に及ばないように、レプリカの攻撃を通さないように設計された結界が張られているのだがそれを破壊したのである。
史上、アルフレットのみが唯一成し遂げた偉業である。
その無敗の炎龍帝を倒し結界を破壊したその一撃が『迅雷怒濤』と呼ばれる技であった。
だが、雫と邑楽も噂では聞いたことはあったが実際に見た事はなかった。
「おぉ、アルフ有名だな」
「喜んでいいのか?」
「いいんじゃないか?」
「でも、なんで記録残されてないんでっか?」
「邑楽、関西弁下手になってるよ」
「炎龍帝戦は分からないけど、樹戦の映像は生徒会長権限でもみ消した。勿論アルフと樹には許可を取ってる。樹の状態がグロ過ぎた。試合としてとつまらなかったからな。あと、俺の試合は俺が無様すぎたから俺権限で独断で消した」
「いや、炎龍帝戦はネットの奥深くに潜ると見つかるらしい。楠が言ってた」
「へぇー」
「生徒会長権力凄いですね」
「まぁ、俺の試合に関しては個人的に持ってるやつならいるだろうけどな。樹との試合はつまらんしグロいしで誰も持ってないだろう」
「そんな何回もつまんないつまんない言わなくても良くないです!?」
「……堅実だってことだろう。前向きに捉えるといい。イッキ」
「はい。そうします……」
「いやー。アルフさん良いこと言いますわ」
「何事も考え方だと、この漫画に書いてあった」
アルフレット。日本語を漫画で覚えた男である。
「あぁ、そう言えば赤目柳に留学生が来たって聞いたんだった」
「遠野さん、それは悪い話か?」
「個人的には悪い話、アルフは良い話だと捉えるだろうけど」
「で、誰が来たんです?」
「昨年度ヨーロッパ覇者『暴君』カール・シェリング」
「あのカール・シェリングですか?」
雫の口から思わず飛び出た言葉に幸信は頷いた。
「まぁ、話が本当ならだけど」
「あっ、会長それロンですわ」
「うっそー!?」
幸信の絶叫が室内に木霊した。
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