22話
香織と佐和の試合が終わった後、リングの上に山野雫と夜鳥葛が立っていた。
「まさか総当り戦の初戦が葛とは思わなかったよ」
「そうですね。わたしも雫とは思いませんでした」
「先輩達の誰かだと思ってたんだけどね」
「私もです。結果は同じですけど」
スタジアム中央に設置されたリング上で親しげに交わされる会話。
二人が試合をするのはこれが初めてと言うわけではなかった。
序列戦でこそ当たったことは無かったが実技の授業では何度か戦った事があるのである。
「ま、今回は俺が勝たせてもらう」
「そうですか」
「……?」
ふと、葛の視線が雫から外れた事に疑問を抱きその視線を追うと──
「気になる?」
その視線の先にはアキラがいた。自分達の前にこのステージで戦っていた香織がアキラに話しかけているとこであった。
「実質アキラはうちらの学年のトップだしね。意識しちゃうよね」
「まさか、気になどなっていません」
「あー、そっか。それはごめん」
「構いません。謝る必要もないです」
「そう?」
「はい。さぁ、スタート地点へ」
「おっけ。全力でやろう」
「……」
雫は踵を返しスタート地点に歩いていく。
スタート地点についた雫は無言で腰に巻いたベルトに装着したホルダーから懐中電灯の形をしたレプリカ、クラウ・ソラスを取り出した。
「勿論全力で行きますよ。えぇ。イクシオン02」
雫が構えたのを見て葛もレプリカを出現させる。
それは大きかった。150cm程の円盤。その中央がくり抜かれたそれは俗にチャクラムと呼ばれているものだ。サイズにさえ目を瞑ればだが──
「相変わらず葛ちゃんのレプリカは大きいですねぇ」
「山野君と夜鳥さんの戦績ってどうなってたんだっけ?」
「確か葛さんが一勝多いはずでーす」
「アキラちゃんはどっちが勝つと思う?」
「さぁ、分からないですね」
「あらぁ、アキラちゃんでも分からないことあるですねー」
「煽らないでください。私だって見たことないものは分かりません」
「夜鳥さんのレプリカ?」
「はい。初めて見ました」
「チャップリン社や、キートン・ロイド社のカタログにも載ってないですもんねぇー」
チャップリン社がイギリスに、キートン・ロイド社がアメリカに本社を置くレプリカ製造会社である。
「っと、そろそろ始まるね」
珠の言葉の通りモニターに戦闘開始を告げようとカウントダウンの数字が出現した。
STARTの文字がモニターに現れるのと同時に二人は動き出した。
雫は右向きに一回転しその勢いでレプリカを振り抜く、レプリカたる懐中電灯から伸びた光がその先にあるスタジアムの壁を破壊しながら葛に迫った。
対して葛の取っていた行動も雫と同じだった。その場で一回転してその勢いでレプリカを雫に向かい投擲したのだ。
更に葛は投擲した勢いに任せてスタジアムに飛び込む形で自分に向かい伸びていた光の鞭を躱す。
光の鞭が頭上を通り過ぎたのを感じるや否や葛はそのまま雫に向かい走り出した。
「っなにそれ!?」
迫りくるレプリカを迎え撃とうとして、振り切ったクラウ・ソラスを勢いそのままに下から切り上げた雫の目に飛び込んできたのはイクシオンが変形する光景だった。
上下に開きその内部から三段の鋸状の刃を出現させたイクシオンは投擲された際に掛けられた回転を維持しながらも、更に刃をそれぞれ回転させながら雫に迫った。
それは今まで何度か葛と戦ったことがある雫にとっても初めて見たものだった。
とはいえ、イクシオンの軌道自体に変化はなくクラウ・ソラスから伸びた光の一撃はイクシオンに直撃する。……筈だった
「はぁぁ!?」
(吸収したぁ!?)
クラウ・ソラスから伸びた攻撃はイクシオンの高速回転している刃に吸い込まれるように消えていった。
更に、イクシオンは回転している刃に炎を纏い雫に襲いかかる。
その攻撃を地面に飛び込む形で回避した雫はそのまま一回転してこちらに向かって来ている葛を見据えた。既に開始時にあった距離を半分程に縮めていた葛にクラウ・ソラスを向ける。
「ヌルい」
クラウ・ソラスは懐中電灯から伸びた光を攻撃に変換するレプリカである。その特性から攻撃速度は全レプリカ内でもトップクラスに入るに違いない。
だが、光である以上基本的にその攻撃は直線である。予め攻撃が読めていれば回避するのは容易い。
一歩分横にズレる事で雫の攻撃を避けた葛はそのまま雫に向かい走り続ける。
「変形した!? 葛ちゃんのレプリカにそんな能力あったの!?」
観客席で二人の戦いを見ていた珠は言葉を荒げる。普段大人しい珠にしては珍しい反応である。それほど驚きが多いのだろう。
「確かに驚きました。アキラちゃん知ってました?」
同意の言葉を珠に返しながらもアキラに疑問を投げる香織にアキラは無言で首を横に降る。
「変形機能を有したレプリカなんてカタログには無かったはずなんですけどー」
「山野君の攻撃が消えたのも葛ちゃんの能力だよね?」
「相手の魔法を吸収して炎として放出するみたいですね。まぁ、私や香織さん、鈴谷さんには影響なさそうですね」
「でも、当たったら絶対痛いよ?」
「珠ちゃん、当たったら痛いってことは当たらなければ痛くないってことなんですよぉー」
「できる人とできない人がいるよね?!」
「珠ちゃんもやればできるわよー」
「アキラちゃんはどう思いますー?」
「どっちでもいいです」
「もー、アキラちゃんのいけずー」
アキラの頬を人差し指で小突く香織を横目で見たあと試合の行方に視線を戻した。
試合状況は一方的になっていた。
雫は葛自身から放たれる攻撃を回避する事で一杯だった。
下手に反撃すれば葛のもとに戻ってきている、先程雫の頭上を通り過ぎていったイクシオンを回避しきれない。
この状況を打破しようと隙を見てクラウ・ソラスで攻撃を仕掛けてもレプリカから伸びた光はイクシオンに吸収され葛まで届かない。
「くっ──!!」
背後から飛来してきたイクシオンを横に大きく飛びのき回避する。
「やはり連携が課題か」
回避した雫の後ろから飛来してきたイクシオンを器用に手に取った葛はイクシオンの勢いを殺さずに体を回転させ雫に直接イクシオンを当てに行く。
「──わっ!?」
飛び退いた雫はバランスを崩しながらも更に後退してイクシオンを躱そうとするが、途中足がつっかえ大きく尻もちをつく形で転ぶ──
「これで終わり」
結果的には葛の一撃を躱した雫だったがその視界に入ってきたのは、今まさにイクシオンを振りおろそうとする葛の姿だった。
「ギブ! 降参!」
咄嗟に避ける事も出来ずかと言って攻撃を受け止める事もできない雫にできたのは降参の一手であった。
「……」
「……」
目の前で高速回転する刃を見て雫は息を呑む。
「は、早く引いてくれない? 怖いんだけど」
「……そうですね」
葛の返答と同時に高速回転する刃が動きを止めイクシオン内部に収納されていく。
完全に刃を内部に収納したのを確認したあとイクシオンを待機形態に戻した葛は雫に右手を指し伸ばした。
「私が更に勝ちを広げましたね」
「……今まで隠してたなら四峰祭まで隠しておけばよかったのに」
葛の右手を掴んだ雫は葛の引っ張られる形で立ち上がる。
「色々あるんです」
「そう? ま、いいけど。四峰祭は当たらないことように祈る事にした」
「珍しく消極的ですね。邑楽みたいです」
「あいつは口だけだよ」
「そうですか? よく分かりませんが」
「そうだよ。まぁ、次の試合も頑張ろ」
「はい。頑張りましょう」
そうして、二人はステージから離れていった。
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