21話
スタジアム内にある観客席でアキラは香織と毒島佐和の試合を観戦していた。
「……」
試合の内容は一方的であった。攻撃を仕掛けているのは佐和の方であったがその全てが香織に通じていなかった。
香織は回避も防御もしていない。にも関わらず佐和の
攻撃が空振りしているのである。
「お疲れ様ー。隣いい?」
「……どうぞ」
突如横から掛けられた声に反応しそちらを向くと先程フィンブルを行った珠が立っていた。
言葉こそフランクだがやけに緊張した雰囲気を感じ取り一体何の用なのだろうか。と、身構えはするものの面には出さずアキラは同意の言葉を返した。
「今は香織さんと佐和さん戦ってるんだね」
「そうですね」
「状況はどう?」
「香織さん優勢ですね」
「だよねぇー。さすが近接戦無敗を誇る『幽霊』だ」
珠が言った幽霊の二つ名の通り佐和の攻撃は香織を通り抜けていた。
それが香織の戦い方であった。彼女の所有する先端に丸みをおびた剣。所謂処刑剣を模したレプリカ『タルンカッペ』の内包する魔法『透過』は本来、壁や床を通り抜けるという魔法なのだが彼女はそれを応用する事で相手の攻撃をすべて避けるでも防御するでもなく、やり過ごす事で戦いを有利に進めるのである。
更に言えば中遠距離からレプリカに内包された魔法を放出して戦う相手に対しても同じ戦法を取っている。
相手の攻撃を気にせずに近づき隙を見てカウンターの一撃を仕留めるのである。
フィンブルにおいて勝利方法はいくつか考えられるが香織に勝つにはレプリカを破壊する以外にないと言われている。
尤も、昨年度四峰祭において香織の敗北はレプリカの破壊に起因しないものであったが──
閑話休題、毒島佐和は表情には出さないがとても苦しんでいた。前述の攻撃が当たらないのも理由の一つである。
彼女の薙刀を模したレプリカの能力は相手を傷つける際に毒を負わせるという能力であったがそもそもとして攻撃が当たらないのであれば意味がないのである。
必然、香織のレプリカの破壊を目指すしかないのだが、香織はその戦い方から攻撃にレプリカを使用しない為打ち合いにならないのだ。
そのため、無理にレプリカ狙って攻撃を仕掛けなければならないのだが、香織は右手に持ったレプリカを常に引き摺っているため攻撃もかなり無理に狙って放たなくてはならない。
そして、レプリカに無理に攻撃を仕掛ける事を香織が狙っている事も理解している為、攻めあぐねているのである。
「佐和さん大変そう……」
「まぁ、下手を打ったらそこで終了ですからね」
香織の戦い方は中学時代に全日本代表であった昔から変わらない。一撃必殺のカウンター狙いである。
「アキラちゃんは香織さんと戦った事あるの?」
「中学時代に練習試合で一度だけ……あの時は香織さんが途中で降参しましたけどね」
「そうなんだ……昔より強くなってる?」
「どうでしょう? 戦い方は一緒ですからね。ただ、レプリカの扱いは抜群に良くなってます。昔は透過しきれずにダメージを負ってのを見たこともありますけど。今はもう無いでしょうね。本当に使いこなしてる。レプリカの破壊以外では勝てないでしょう」
「……どうやったらあんなに使いこなせるのかなぁ?」
「沢山レプリカを使えばいずれなりますよ」
「みんなそう言うけど……」
「でも事実そうなんですよ。使えば使うほどレプリカ内部の魔力と使用者の魔力が馴染んでレプリカの起動、起動してから魔法発動までの時間、戦闘状態の維持時間が長くなるんです。香織さんは知多学園どころか四峰で見てもトップクラスに使いこなしてますよ。起動して魔法発動まで一瞬ですからね。レプリカを使いこなすという点では私以上に使いこなしてます」
「その話はレプリカの基本的な扱いの話だよね? 能力の強化には繋がってないんじゃないかな? って思うんだけど」
珠の言葉を聞いてアキラは察した。
珠がなぜわざわざ、仲の良い友人の横に行かず試合直後に負けた相手の横に座りに来たのか。
強くなる為に自分を負かした相手に頭を下げに来たのだろう。今は会話の流れで聞いてきてるが、会話の流れができなかったら直接頭を下げて聞いていたに違いない。
自分から強くなろうと努力するその精神をアキラはとても無碍にはできないと、助言程度であれば協力するのは吝かではなかった。それはアキラには持ち得ない精神性だからである。
「……レプリカ内部には魔法を制御する術式が組み込まれてます。最初はレプリカ毎に共通なんですけど……まぁ、そこらへんは興味があったら技師科の人にでも聞いてください。聞きたいのはそこじゃないですもんね?」
「……うん」
「詳しい仕組みは省きますけど今サラッと流した内部術式はレプリカを起動してる間、常に書き換わっています。その人の魔力に合わせてより効率よく魔法を運用できるように。より強い魔法をより早く発現できるように。鈴谷さんは経験ありませんか?
戦ってる最中に相手が強くなったってこと。あれはレプリカ内部の術式が書き換わってるからなんです。そして術式は書き換わる方向性があります。今言った──」
「より効率よく、より強くってところ?」
「はい。あとはレプリカ固有の魔法によっても変わりますが、概ねそこです。どこを重視するかはその人次第。本人の意思をレプリカが受け取ってその望む方向性に術式を書き換えるんです」
「例えば早く魔法を使いたいと思ったらレプリカがその通りに術式を変えてくれるって事でいいの?」
「そうです。そしてそれは無意識に思ってても反映してくれます。鈴谷さんもレプリカ使い始めより変身時間短くなってますよね?」
「でもそれは慣れじゃないの?」
「まあ、ちょっとはあると思いますけど一番は内部術式の書き換わりです。でです。ここまでが前段です」
「う、うん。」
「内部術式の書き換えは無意識を読み取っても行ってくれるんですけどそれだと効率が悪いんですよね。変化量が小さいと言いますか……もっと効率的に大きく書き換える方法があるんですけど分かります?」
「え、無意識だと効率が悪いんだから意識する、とか?」
「はい。より早く魔法を使いたい。もっと魔法の威力を高めたい。もっと魔法に付加価値をつけたい。とかですね。意識して求めた分だけレプリカは答えてくれます。無意識だと固定観念に囚われますしね」
「固定観念?」
「鈴谷さんの例でいくと、熊は額が弱点ですよね」
「うん」
「鈴谷さんはレプリカを使って変身するときに何考えてます?」
「えっ? 固定観念の話は?」
「続きますから、答えてください」
「そ、それなら……うーん。より早く大きい熊に変身することかなぁ」
「熊のイメージは? 種類や大きさ」
「そ、そこまでは考えてないかなぁ」
「つまり、鈴谷さんのヴォーロスは鈴谷さんの知っている熊の弱点を持ったままより大きい羆なにかの種類の熊により早く変身するように術式を書き換えていた事になるわけですね」
「な、なるほど?」
「ここまでは過去の話ですし完全に理解しなくてもいいです。興味があったらまた聞きに来てくれればいつでも話しますし。問題はこの後です。今までの話を踏まえて鈴谷さんが何をするかです」
「くまの弱点を無視して変身できるように意識しながら変身する?」
「それもありますね。あとは写真や動画で熊をよく観察してください。脳内に熊のイメージをより鮮明に浮かび上がらせることで変身時間が短くなりますよ。変身後の動きも今以上にスムーズになるはずです」
「でも、それだと熊の弱点引きずっちゃうかも……」
「そこは引きずらないようにして下さい」
「うー、頑張る」
「はい。私も応援してますね。変身系のレプリカは変身後にどうしても自身の持つ動物のイメージに引き摺られます。身体能力や弱点ですね。身体能力はイメージで大きくするのは簡単なんですけど、弱点は知識としてでも知ってしまうとなかなかそれが拭えないらしいですね。意識してもなかなか消えないって聞いたことがあります。それがフィンブルで変身系レプリカが少ない理由の一つらしいですね。多分今年の四峰祭でも鈴谷さんくらいだと思います。だから変身系レプリカ代表として頑張ってくださいね」
「ぷ、プレッシャー……」
「意識してても弱点はすぐに消えないと思います。でも、意識してレプリカを使えば絶対にレプリカは応えてくれますから気長に行きましょう」
「四峰祭すぐそこまで来てるよ!?」
「大丈夫です。私が優勝するので」
「サラッと凄いこと言った……」
「香織さんに言外に頼まれましたしね」
言いながら試合の方を見ると今まさに勝負が着くところだった。
「うぅ、あれは何回見ても慣れないなぁ」
不思議な光景だった。
香織の伸ばした左腕が佐和の胸に入り込んでいるのである。
香織が何かを囁いたあと佐和が香織の左腕を数度叩いた。降参の合図である。
「香織さんのレプリカ防御とか無視するから凄いよね」
「そうですね」
香織の一撃必殺。レプリカの透過の能力を利用し相手の体内に直接手を入れ心臓を鷲掴む。というものであった。
その一撃の凶悪さは防御力において他の追随を許さない黒井樹ですらも為す術がなく降参を選ぶ程である。
明けましておめでとうございます。
遅くなりましたが今年最初の更新となりました。
今年もよろしくお願いします。




