2話
教室に辿り着いたアキラは黒板に貼り付けられた座席表に従い自分の席で時間潰していると、他の生徒がちらほらと教室に入り始めた。
周りの様子を横目で伺うとこれから始まる学校生活に期待や不安があるのか実に落ち着かない様子の者や、逆になにも感じていないのか、知らないであろうクラスメートに自ら話しかける者。中学で同じだったのか友人同士で話を作り雑談に興じる者達など実に様々だ。
アキラはどうするべきかと考え、結局様子見をすることに決めた。今後時間はいくらでもある。入学式が始まるまで残り少ない時間に無理に話しかけて悪印象を残すくらいならなにもしない方がましだろうと考えたのだ。
そんなこんなで、周りの人物の様子を見ているうちに担任の教師が教室に入ってきた。
担任の挨拶もそこそこに入学式の会場への移動が始まった。
知多学園は三つの科が存在する。アキラの所属する普通科は体育館。残り二つの科は別会場で入学式が行われる。
厳密に言えば体育館で行われる入学式は別会場で行われている入学式の壇上挨拶をスクリーンに映しているだけである。
学校の学園長をはじめとした学園の上位陣や外部の来客が別会場に集まっている結果、体育館にも教師陣が控えているのだが、やや生徒達は緊張感に欠けている。
別会場の偉い人の話や生徒会長からの歓迎の挨拶。新入生代表者挨拶などを聞くこと三時間くらいだろうか、入学式は問題なく終わり生徒は来た時と同じ様に教室に戻っていった。
教室に戻ったあと、簡単なホームルームを行う。改めて担任教師の自己紹介が始まり、それが終われば各生徒の自己紹介が回ってくる。
自己紹介は男子から始まり、男子が終われば続いて女子が始まるという流れだったのだが、その途中、教室に扉を叩く音が響いた。担任が生徒の自己紹介を一時中断させノックの主に許可の言葉を投げる。
その声のあと、扉が開き大人が教室に顔を覗かせる。その人物と担任の教師が一言二言会話をした後、自己紹介が本格的に中断され、再び生徒達の移動が始まる。担任の後に続き歩いていくと辿り着いた先は購買部であった。
授業で使う教材を受け取る必要があるようだ。そこで各種教材や胸ポケットに入る程度の大きさのタブレットを受け取り教室に戻ってきたあと、再び自己紹介が再開される。
待つこと数人。アキラの番が回ってきた。
「塚川アキラです。出身中学は県外の県立です。趣味や好きなものは特にありません。一年間よろしくお願いします」
短い自己紹介のあと席に座る。無難に乗り切れたと内心ホッとしているが、一仕事終えたと言わんばかりの様子であるアキラは周りの反応に気付いていない。
「え?」
「今ので終わり?」
アキラ渾身の考えうる限り何処にも角がたたない実に無難な自己紹介を聞いた周りの生徒たちからざわざわと声が漏れ、アキラを横目で見たり、後ろをわざわざ振り返り顔を確認するものなど比率にしてクラスの半分くらいがアキラの様子、というよりかは顔を確認しているといった様子だった。
ほんの僅かな時間、アキラが違和感に気付いたと担任の咳払いは同時だった。
「次の人、続けて」
「は、はい!」
担任の言葉に従いアキラの次の生徒が自己紹介を始める。
「……?」
アキラが周りの様子を伺うと目が合った瞬間に目を逸らす者。そもそも、最初から顔を合わせないように顔を向けないようにしている者、なんでざわざわしているのか分からず、騒ぎの元凶であるアキラを見てそのままアキラと目が合ってお互い頭の上にクエスチョンマークを浮かべている者など反応は様々だ。
今一つ腑に落ちないといった様子でアキラは視線を前に戻す。
そうして、全員の自己紹介が終わった後、担任から先ほど教材と共に受け取ったタブレットの説明を受ける。
説明に曰く、このタブレットは生徒手帳として使用するようだ。校則や学園内の地図が記録されているほか、学園の敷地内なら他の生徒にこの端末から連絡を取れるほか、学外から緊急時に学園と連絡を取り合う事も可能であるようだ。
もっとも、連絡なら生徒がそれぞれ持つ携帯機器を使用することが多くもっぱら使用されないらしい。主な使用用途は学園からの連絡事項を受信する事らしい。
そうして、一日の一通りの工程が終わったらしい。担任から解散の言葉が告げられ、生徒が各々教室から出て行く。ある者は一人で、ある者は仲のいい人と、またある者はクラスに残り、他の残った者と話そうとしている。親睦を少しでも深める気なのだろう。
アキラはどうしようかと考る。
まだ話し相手が一人もおらず、また今日はまだ初日という事から大人しく帰ろうと席を立ち上がった時──
「……っ!?」
生徒手帳たるタブレットがメールを受信して振動した。
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