表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/37

18話

 食堂で特訓参加者達が昼食と雑談を楽しんでいる頃、塚川アキラは屋上で一人昼食を摂り終えていた。

 昼食はいつも通りイチゴジャムとマーガリンのコッペパンにイチゴ牛乳である。

 コッペパンを食べ終えたアキラはイチゴ牛乳を飲みながらスマホを弄っていた。


「スマホは校則違反ですね」


 横から掛けられた声に視線を向けると、そこに立っていたのは実技科主任教員、九条音羽がこちらを覗き込んでいた。


「……没収しますか?」

「まさか、普段ならともかく、今は夏休み中ですよ? 私はそこまで仕事熱心じゃ有りませんよ。ただ、他の先生方は没収するかもしれないので注意してくださいね」

「分かりました」

「何を見てたんです?」

「今日は月曜日」

「あぁ、ステップですか。今はスマホで読めるんですか。時代も変わりましまたね」

「九条先生だって教員の中では若手扱いなのでは?」

「まぁ、まだ五年目のペーぺーですからね。隣失礼しても?」

「構いませんけど、他の先生方と昼食取らなくていいんですか?」

「まぁ、職員室にいても仕事するだけですから。息抜きみたいなものですよ。ほんと疲れるんですよ」

「……他の生徒の前でも言ってます?」

「まさか、アキラの前だけですよ」

「なら、良いですけどね」

「今は私達だけなんですから昔みたいに話してもらっても良いんですよ?」


 アキラと九条音羽は昔馴染であった。正確には音羽がアキラの父親の弟子であった為、親交があったのである。


「……そう? 教師と生徒の関係だから気を使ったんだけど」

「もちろん他に人がいるのなら話は変わりますけど、今は二人ですから」

「そう? なら、お言葉に甘えさせて貰おうかな」

「ふふっ。でも、まさかアキラが知多学園に入学してくるとは思いませんでした」

「私も。音羽が学校の先生になったのは聞いてたけどここだって知らなかったわ」

「あれ? 私言いましたよね?」

「……私その時自分の事で一杯一杯で余裕なかったし」

「あぁ。そうか、そうですね」


 アキラの一言に音羽は表情に影を落とすがそれも束の間すぐに話題を変える。暗い雰囲気のままでは良くないと思ったのだろう。


「そういえば、また前みたいに音羽おねーちゃんって呼んでくれても構いませんよ?」

「なっ! 何言ってるの!? 無理無理! 歳考えてよ! 私もう高校生よ!? 今更お姉ちゃんなんて呼べないわよ!」


 突如振られた話題にアキラは動揺して返す。恐らくは高校で彼女を知った人物はおろか中学や小学から知ってる人物でも今の彼女を見たらさぞ驚いたことだろう。


「それもそうですね。では話を変えますか。知多学園はどうです?」


 だが、幼い頃からアキラを知っている彼女は特に驚く様子もなく会話を続ける。


「まぁ。四峰だけあってレベル高いんじゃない?」


 四峰祭に参加する知多学園、鳳学園、赤目柳学園、聖サンタンデル学園の四校をフィンブル関係者は四峰と呼んでいた。


「そう言ってもらえると教師として嬉しいですね。でも聞きたいのはそういうことじゃないです」

「……?」


 音羽の言葉にアキラは首を傾げる。


「どういうこと?」

「学園での生活です。慣れましたか? 友達とか」

「……まぁ、小中学生よりは楽ね。友達は……どうかしらね。よく分からないわね」

「そうですか……アキラは自分で解決するんでしょうけど、困ったことがあったら周りに相談してもいいんですからね? 勿論私はいつでも待ってますよ」

「気持ちだけ受け取っておくわ」


 流されたな。と音羽は思ったが構わず話を続ける。


「まぁ、入学当初から力を発揮しすぎましたね。噂は届いてきてますよ実技科うちの生徒達をかなり伸したそうですね」

「やりたくてやったわけじゃないのよ? 頼まれたら断れないじゃない」

「貴方は普通科なんですからそう言うのは風紀委員にでも任せておけばいいんです。だから折角普通科に入ったのにフィンブルに関わる羽目になるんですよ」

「でも──」

「でももへちまもありません。嫌われたくないとかそう言う理由なんでしょうけど、身も蓋もない言い方をしますが貴方が何をやっても好いてくれる人もいれば貴方が何をやっても嫌う人間がいるんですから、気にするだけ損ですよ」

「そこまで割り切れない」


 拗ねた様に言葉を返すアキラに音羽は苦笑しながら言葉を続ける。


「今すぐにとは言いませんけど貴方はもっと好きにして良いと思いますよ」

「……今更難しいわよ」

「何言ってるんですか。さっきも言いましたけど私だっていまだに若手扱いなんですよ。十六なんてまだまだですよ」

「これでも好きにやってると思うんだけど」

「まだまだですよ。折角実家から開放されたんですから、今までの分を取り戻すくらいじゃないと。何かやりたいこととか無いんですか?」

「やっぱり友達と遊びたいわね。学校帰りに寄り道したり買い食いしたりするのも憧れてるのよね」

「でもその相手はいないと」

「そうよ」


 拗ねながら呟かれたその言葉に音羽は苦笑する。


「作りたくても作れないのよ。友達の作り方って何よぉ……」

「まぁ、こればっかりは教わるものじゃないですしね」

「音羽はいるの?」

「まぁ、それは少なからずいますけど」

「どうやって作ったの?」

「難しい質問ですね。正直なところ気づいたらなってたと言うのが正しいので。明確にこうやったら出来るというのはすぐには返せません。アキラはいませんか? この子は友達かもって思う子。向こうの気持ちは考慮しませんよ? アキラがどう思ってるかです」

「……一人だけ、もしかしたらなれるかもって、思ってる子はいるわ」

「向こうはアキラと話してる時どんな感じです?」

「……」


 考え込む様に黙り込んだアキラに音羽は言葉を優しく投げる。


「今はアキラと話してる時と他の人と話してる時の差は考えなくても良いですよ」

「笑ってることが多いと思う。でも、表情をよく変える子だから」

「なら、大丈夫ですよ。安心してください。きっと向こうもアキラのことを友達だと思ってますよ」

「でも、私に合わせてくれてるだけかも」

「気にしなくていいです。アキラは確かに今まで友人との付き合いはなかったかもしれません」

「そんなはっきり言わなくても……」

「でも、今まで友人を作ろうといろんな人をよく観てきた貴方なら相手が愛想笑いしてるかどうかくらいは分かるでしょう?」

「私の勘違いかも……」

「勘違いしていいんですよ。そういうものです。私が言った友人だって私が勝手に思ってるだけで、向こうは

そう思ってない可能性だってあります」

「えっ?」

「友達になりましょうって言ってなったわけじゃないですから。気づいたら付き合いが続いてるだけです。でも往々にしてそういうものだと思いますよ。友人はなろうとしてできるものじゃなくて、気付いたらなってるものですから」

「……私には難しいわ」

「だから勘違いするんですよ。いや、思い込むの方が言葉としては正しいですかね。この人は私の友人だって。お互い心は読めませんから」

「そういうものなの?」

「私はそう思ってます。まぁ、どこからが友人かって言うのも人によるのが厄介なところではあるんですけど」

「……」


 話が終わりアキラは俯く。

 四、五人位は友達が出来ればいいなと思いながら始まった高校生活だが、音羽の諭す様な励ましの言葉を聞いて意外に簡単だと思った反面自分の当初想定していた難易度より難しいとも思ったからだ。

 音羽の友達という存在に対する考えを聞いて自分が入学当初、いや、それ以前小中学校時代から欲しがっていた友達像が更に分からなくなったのである。


「……そうですね。アキラが友人になれるかもしれないと思っている人に次に会った時は思い切って下の名前を呼んでみましょう。呼び捨てで」

「えっ!?」

「徐々に距離を縮めて友人になるというのもありますが、時には一気に距離を縮めるのも有効ですよ。名前を呼び捨てにするのは目に見えて距離を詰めてますからね。あだ名で呼ぶという手もありますが、アキラにはまだ早いです。」

「な、なるほど?」


 よく分からなかったがそういうものなのだろう。とアキラは納得した。言葉の上では疑問符がついていたが。

 音羽は言わなかったが勿論これは諸刃の剣ある。

 相手によっては引かれる可能性もあるため使用法には十分注意が必要である。

 だが、なかなか人との距離を詰めることが出来ないアキラにはこのようなある種ショック療法じみた方法が必要なのも音羽は感じたので無理に背中を押したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ