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16話

 特訓が始まってから一時間弱アキラ達はグラウンド敷地内の端にある芝生の上で休憩を取っていた。


「も、もう駄目……動けない」

「シズク、ヨワヨワ〜」

「逆にローザさんなんでそんな元気なんですか……」

「ローザいつもゲンキデース!」

「体力お化けめ……」

「まぁ、ローザさんの体力自慢は今に始まった事じゃないですしね。雫は良くついて来てるよ。俺は去年あんまりついて行けなかったから優秀だ」

「あ、ありごとうございます」

「ほんとえらい。それにくらべてユキノブは」


 エレナが視線を移すとその先で生徒会長、遠野幸信と鈴谷珠が地面に臥していた。完全に息が上がっている。


「俺は体力無くてもいいんだ」

「……」


 幸信はまだ言葉を返すだけの余裕はあったようだが珠は完全に回復に意識を回していた。休憩が終わるまでは身動き一つ取る気はなさそうである。取れないといったほうが正しそうである。


「ツカガワさんは平気そうね」

「そんなこと無いですよ。結構きついですね」


 アキラは他の面子が芝の上に座り込んだり倒れてる中唯一立ち続けていた。

 グラウンド組はどうやらアキラの他に、生徒会長の遠野幸信、エレナ・クルス、黒井樹、山野雫、ローザ・ステイトン、鈴谷珠がメンバーのようだ。分かってはいたが顔見知りが少ないことにアキラは不安を感じていたが表情には出さない。

 もっとも、スタジアム組だったとしても知り合いは古河邑楽、夜鳥葛、楠香織の三人だけの為知り合いの比率は変わらないのだが。


「これ、ほんとに……必要なのぉ」


 横で倒れている珠が愚痴を零している。体力が底をついて体を動かす理由を探したいのだろう。

 理由さえあれば頑張れる人間なのだろうか。などとアキラが横目に見ながら考えていると。


「毎年の恒例行事だ。去年の先輩達もやってるし今スタジアムで多分筋トレしてる佐和達も明日はやることになる。俺らだけ文句は言えない」


 幸信が珠の言葉に答えていた。先程の受け答えといい今の台詞といい芝の上でうつ伏せになってはいるが体力に余裕があるのではなかろうか。死んだように動かないのにはツッコミどころなのだろうか。


「え。明日は筋トレ!?」

「去年の通りだとキントレかなぁ。サワの話と合わせると外れないと思うよ」

「スタートからシシルイルイ!」

「おー、ローザ難しい言葉知ってるな。偉い偉い。でも俺に話す機会を与えないで」

「ユキノブもヨワヨワ〜」

「ぶヌ!」


 ローザは移動して幸信の背中に座り込んだ。


(死者に鞭打ってる)


 しかし、余裕がないのだろう幸信は何も言わないかった。


「ろ、ローザ降りて! はしたないから!」


 慌ててエレナがローザを幸信の背中から引き剥がす。


「ほら、ユキノブに謝って! トドメさしちゃダメよ」

「うぅー。ゴメンナサイ」

「……」


 幸信は右手を握り親指を立てる事でそれに応えた。


(元気があるのか無いのか判断に迷うわね。というかとどめでは無い、いや、この状況なら合ってるのか……)


「皆さん! 休憩終わりですスタート位置に戻って下さい」


 音羽の言葉に従いアキラ達はスタート地点に移動を開始する。体力に余裕がある者たちは平然とした足取りだが、体力を回復しきってない者はまるでゾンビの様な覚束ない足取りであった。

 走りたくないという無言の抵抗なのだろうか。


「それでは……よーい、始め!」


 しかし、そんなゾンビアタックに屈することなく、あるいは気にも留めず音羽から開始の合図が告げられるのだった。




 走り始めて早数十分、ランニングの最中に不定期に音羽からダッシュの指示が織り交ぜられ、ランニングとダッシュを交互に繰り返し続けたメンバーの体力は尽きかけていた。

 

「……これ、本当に、必要なのか? さっきの珠ちゃん、じゃないけど、さ」


 走っている最中に雫がアキラに話しかけてきた。

 体力が残っているのか、あるいは話すことで気を紛らわせてやり過ごそうとしているのか判断に悩む所だ。


「必要よ」

「ちなみに、何で……?」

「今話して良いのね? 休憩中のほうが良いと思うけど?」

「あぁ、後で聞くわ」

「分かった」




 そうしてランニングとダッシュをあと数度繰り返したアキラ達に再び休憩が訪れた。

 全体的に一回目の休憩の時より疲れた様相である。

 ローザは元気が有り余っていたが。

 そんな各々の様子を見ながら休憩していたアキラのもとに


「で、なんで必要なの」


 雫が息も絶え絶えに歩み寄りながら質問してきた。


「とりあえず座ったら?」

「あぁ、ありがとう」


 横に座り込んだ雫に、アキラは話しかける。


「山野くんはレプリカに込められた魔法の種類分かる?」

「えっ、急になに?」

「レプリカって魔法複数あるでしょう?」

「あ、あぁ。レプリカ固有の能力とレプリカ共通で身体強化、翻訳能力のだいたい三つだよね」

「そうね。レプリカ固有の魔法が一つか二つ。そして全レプリカ共通で身体能力強化と翻訳魔法が有るんだけどね」

「うん。それは授業でも聞いた」

「そう。身体能力強化の魔法は倍率が同じなのは聞いた?」

「同じ? いや、そんな事はないんじゃ」

「勿論、厳密に言えば違うわね。例えば同じレプリカを使っている人同士が戦った場合、勝つのはどっちだと思う?」

「そんなの、より使いこなしてる方だろ」

「どうして?」

「使いこなしてる方がレプリカの能力の威力が高いし、発動が早いから」

「そうね。基本的には山野くんが言った通りより使いこなしてる方が勝つわ。使いこなし方、熟練度と言い換えるけど。熟練度の差やお互いの戦い方とか、他の要素があるから一概には言い切れないけど。で、本題なんだけど、レプリカの熟練度が高いほうがレプリカ共通の身体強化の倍率も上がるのよ。上限が決まってるけどね。山野くんが身体強化の倍率が同じって言葉に違和感を感じたのはそこね。つまり、当たり前だけどレプリカの熟練度が人ごとに違うってことね」

「なるほどね。だけど、それがなんでこのランニングが必要な理由になるのさ?」

「あぁ。話が逸れたわね。シンプルな話よ。身体強化の倍率が同じなら元の身体能力が高いほうが強いでしょうう。それに熟練度が相手より低かったとしても、元々の身体能力が相手より高ければ当然、身体能力で上回れる可能性が出てくるしね」

「把握。それは確かに大事になってくるね」

「えぇ。それに、体力ある方が集中力も伸びるしね。レプリカの発動時間が長くなるわ」

「あぁー。それは何事も共通だ」

「ほんとにね」


 そんな話をしていると休憩の終わりが再び告げられる。恐らく次の走り込みが終わればお昼休憩に入るだろう。それを感じ取っているのか他のメンバーのスタートラインに向かう足取りは先程より軽く見える。

 一部は昼食が入らなさそうな様相ではあったが、それでも長い纏った休憩を取れるのは魅力なのだろう。表情は覇気が見えた。


 そうして、再びアキラ達は音羽の合図のもと走り出した。

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