15話
アキラ達がグラウンドに着いた後、集合時間ギリギリで雫と邑楽がやってきた。
遠目にわかるその姿は全力で走っていた。恐らく学園の敷地内に建てられている寮に住んでいるという油断が彼らを時間ギリギリまで惰眠を貪らせていたのだろう。
「セーフ!!」
二人して声を上げるその姿は普段からの仲の良さを覗わせた。
「残念ながら……」
「そんな──!?」
「いやいや、そんなアホな」
「ギリギリセーフでーす」
「よっしゃぁぁぁ!!!」
「今のやり取り必要かぁ!?」
「古河君そんなこと言っちゃだーめ。私悲しくなっちゃうなぁー」
「嘘泣きやめーや」
「邑楽、先輩にそんなこと言ったらあとが怖いぞ」
「うーん。それだと私が何かやるみたいで聞こえ悪くありません?」
「まだされたことはないですけどね」
普段からそのようなやり取りをしているのだろうか、息があった茶番を展開する雫達をアキラはただ眺めていた。
そんな三人の茶番の最中に横から女性の声が響いた。
「はいそこ。話してないで皆の所に集まりなさい」
その声に反応した生徒達が声の響いてきた方を見ると、グラウンドに設置された朝礼台の上に女性が立っていた。
シワ一つない紺色のスーツ姿に身を包み、短めに切り揃えられた黒髪、遠目から見ても真面目な雰囲気が伝わってくるその女性は集まった生徒達が目の前に集まったのを確認し拡声器を口元まで持ち上げて言葉を投げる。
「皆さん、ついにこの時期がやってきました。四峰祭にむけて向けての強化特訓です。今更自己紹介の必要はないと思いますが、今年は普通科の生徒が代表入りされているので改めて自己紹介させてもらいます。実技科主任教員の九条 音羽です。今特訓の責任者を努めています」
拡声器を通しているため声が聞こえるがとても穏やかで静かな話し方をする人物であった。
「本特訓は例年通り体力強化を主目的として行われます。午前中を体力強化。午後は基本的にひたすらフィンブルを行ってもらいます。以上です。何か質問のある方」
「ハイ! ハーイ!」
音羽の言葉に一人の女子が手を上げる。ピンクブロンドの長髪をカントリースタイルのツインテールにしたとても活発そうな人物であった。彼女の履いているハーフパンツの色から三年生だと横目に確認したアキラは判断した。
「ローザ。この前も言いましたがこれは特訓です。遠足や修学旅行ではありません。お菓子類の持ち込みは確認した時点で没収です。他にありませんか」
「ブー! サスガに一回言われれば分かりマース!」
一回は言われなきゃわからないのか……。とアキラは驚いたが間違っても表情には出さないし口に出すなど以ての外である。口は災の元なのである。
「ローザタチまだトックンの詳しいスケジュール聞いてないデース!」
「あぁ。そうでしたね。それはこちらの落ち度です。スケジュールについては本日のお昼休みの時間に生徒手帳に配信しますので、そちらを確認してください。他に質問がなければこのまま午前中の活動内容に移りますが、他にありませんか?」
音羽の確認に言葉を返す生徒は居なかった。
「結構。それでは、これより皆さんのレプリカを一度預からせて頂きます。その際、皆さんにグラウンドに残るのかスタジアムに移動してもらうのか、指示を出しますのでそちらの指示に従ってください。預かったレプリカについては午後のスケジュールが始まる前に皆さんにお返しします。以上」
自身の仕事は終わったと言わんばかりに音羽は朝礼台から降りていく。
音羽が折りきったタイミングを見計らって朝礼台の横に並べられた二台の机の前に立っていた男性が声を投げた。
「レプリカはこちらで預かります! 二列になって並んでください!」
その男性教諭の言葉の後、アキラ達は机の前に歩き出した。
僅かな時間の後、アキラの番が回ってきた。
「それでは、こちらでレプリカを一時預からせていただきますね」
机の向こう側に立っていたのは草臥れた男性だった。今にも倒れてしまうのではないかと心配になってしまいそうなほど顔色も悪く、また着ているスーツもクリーニングに出せていないのだろうかよれよれだった。
「……お願いします」
「はい。確かに預からせてもらいますね。塚川さんはグラウンド居残り組ですね」
「分かりました」
男性の言葉を受けてアキラは音羽の説明を聞いていた場所に戻り始める。既にレプリカを預け終わった他の生徒達もそこに集まり始めていた。
今朝施設を案内してくれた珠もグラウンド組のようでこちらに手を振っていた。
小柄な身長も相まって実に可愛らしい姿であった。
「鈴谷さんもグラウンドだったんですね」
「そうなの! またよろしくね」
そんな珠に話しかけたときだった。二人の後ろから声がかけられた。
「あれ、塚川もう珠と仲良くなってたの?」
「黒井さんお久しぶりです。今朝実技棟を案内して頂いたんです」
「なるほど。珠らしいね」
以前アキラと序列戦を行った黒井樹がそこに立っていた。
同学年だけあって馴染みがあるのだろう樹に珠が話しかける。
「樹君、この後なにやるのかわかる?」
「去年と一緒ならランニングとダッシュかな」
「ずっと?」
「休憩はちょっとならあるよ」
樹の言葉に珠は落ち込んだ。あまり運動は得意ではないのだろうか。
「まぁ体力は有るに越したことないから」
「そうかもしれないけどさぁ」
微笑ましい光景であった。
「黒井さんは去年も参加されたんですか?」
「あぁ。去年は俺と神原と香織の三人が参加したんだ。それを鑑みると今年の一年は優秀だね」
「あぁ。それで鈴谷さんやけに落ち着かない様子だったんですね」
「だって、こういうのって初めて参加するんだもん。落ち着かないよぉ。アキラちゃん逆によくそんな落ち着いてられるね?」
「まぁ、なるようにしかなりませんから」
「はぇー。聞いた? 樹君?」
「聞いた聞いた。流石魔王様は達観してらっしゃる」
「私はその呼び名あまり好きじゃありません」
アキラの発言に珠は素直に感心して樹に話題を振ったのだが、そんな珠に対して茶化しに入った樹にアキラは視線をぶつける。
「ごめんごめん。そんな睨むなよ」
「かっこいいのにどうして?」
「魔王って響きはどうかと思います」
「どっちかって言うと男の子向けだよね。でもアキラちゃんは背が高いしかっこいいから似合ってると思うけどなぁ」
「……失礼します」
珠の言葉に思う所があったのか顔を背けたアキラは二人の側から離れていった。
「つ、塚川!? 今更どこ行くんだ?! もう始まるよ!?」
樹がアキラに声をかけるが聞こえてないのか聞こえてないふりをしているのかアキラは更に二人との距離を離していった。
「意外ねぇ……」
「珠、何かわかるの?」
「樹君分からなかったの?」
「……お手上げ」
「アキラちゃんはね、多分……いやなんでもない。やっぱ私も分からないや」
「いや、絶対分かってるでしょ」
恐らく、アキラは褒られ慣れていないのだろう珠の言葉の後に顔を赤くした姿は可愛らしく思えたが樹は見えてないのか気にしてなかったのか気づかなかったようだ。
まぁ、自分の気のせいかもしれないし。と珠は自分の胸の内にこの事をしまっておくことにしたのだった。




