14話
夏休みが始まってから早二週間。学生達にとって諸手を上げて喜ばれるこの時期にアキラは憂鬱に浸っていた。
宿題があるからか、否、アキラは夏休みに入って一週間程ですべて終わらせていた。面倒くさいことは最初に片付ける方なのである。
補習があるからか、否、アキラは一学期のテストを好成績で切り抜けている。
では何故か、それは夏休みに入る前に同学年の山野 雫達から伝えられた四峰祭に向けての学園あげての特訓が遂に始まるからであった。
有り体に言って、とても面倒臭かったのである
「……」
時刻は朝の六時半前、既に朝食は取っている。必要な荷物も昨夜の内に用意してある。
あとは靴を履き、玄関を開けて外に踏出すだけである。とてもとても嫌だが、ここでダラダラしても行かなくてはいけないことに変わりは無い。むしろ、ダラダラした分遅刻の可能性が上がりそうなることでペナルティによりメニューが追加になる事の方を避けるべきだろう。
なにより、そんな事になったら悪目立ちだ。それだけは避けなくてはならない
そんなに嫌なら仮病でも使えば良いのだろうがアキラにそんな発想はなかった。
アキラは意を決して玄関を出て学園に向かう。通学時間は一時間半。集合時間の三十分前には着くだろう。そこから、体操服に着替える時間を加味しても遅刻は無いだろう。
学園に着いたアキラは指定された更衣室──実技科が保有する女子更衣室である──に向かう。
普段使用しない区画に来ることになったアキラは生徒手帳たるタブレットに校内マップを表示させ確認しながら歩みを進める。
なんとか無事に迷うことなく更衣室に着いたアキラが室内に入ると、既に一人居たようで着替え終えていた少女は更衣室中央に設置されたベンチに腰掛けスマートフォンを弄っていた。
「あっ、キミが噂のアキラちゃん!?」
アキラに気付いた少女は駆け寄りながら話しかけてきた。
とても小柄な少女だったが履いているハーフパンツの色で二年生の先輩だと判断できた。
「どんな噂かは分からないですけど……多分あってます」
「ふふっ。ごめんごめん。ホントは知ってたよ! 樹君や他の先輩達との試合見てたから。私は鈴谷 珠! よろしくね!」
指し伸ばされた手に、一瞬動きを止めたアキラは気づかれないように急ぎすぎる事なく、しかし遅過ぎることのないように努めて手を握り返した。
「よろしくお願いします」
「敬語なんてアキラちゃんは礼儀正しいねー。他の一年生なんて皆珠ちゃん珠ちゃんって子供扱いしてくるのに……よし! 十ポイントあげちゃう!」
「ありがとうございます」
その十ポイントは一体いつ使う日が来るのだろうか。疑問には思っても口に出さなかった。
「アキラちゃんのロッカーはこっちだよ」
案内してくれるのだろう歩き出した珠の後ろ姿にアキラは黙ってついていく。
案内された先にのロッカーには確かに塚川とネームプレートが差し込まれていた。
「特訓期間中は貸し切りらしいから荷物置きっぱなしでも大丈夫なんだって。あっ、でも鍵はちゃんとかけてね。盗難とかはないと思うけど。念の為ね」
「分かりました。ありがとうございます」
アキラは指定されたロッカーに荷物をしまい着替え始めた。初対面の相手を前に着替えるのは気が引けたが同じ女性同士気にしていても無駄に時間が過ぎるだけだろう。こういう事はさっさと終わらせるのに限るのである。
そうして着替え終わったアキラを見て珠は言葉を失っていた。
「えっ、あ、アキラちゃん? 暑くない?」
「多少は……」
半袖にハーフパンツの珠に対しアキラは長袖長ズボンのジャージであった。おまけにジャージを止めるジッパーを首元まで完全に上げきっている。
誰がどう見ても暑そうであった、というか見てる方から見てるだけで暑いと苦情が来るレベルだろう。
「まぁ、日焼け対策ですね」
「あぁーそれでワイシャツも長袖」
アキラは衣替えした後も長袖であった。大抵の生徒は半袖のワイシャツを着用しているが中には長袖のワイシャツを着用している生徒も存在していた。大抵は袖を捲くっていたが。一応アキラも日によっては七分袖くらいまでは袖を捲くっている日もあることにはあるが、見てるものが暑そうという感想を抱いてることに変わりは無かった。
「日焼けはいやだもんね」
それでも取り敢えずは納得したように珠は歩き始めた。
「あっ、シャワールームここにあるから自由に使っていいいよー。シャンプーとか持ってきてる? 一応安いのも置いてあるけど」
「大丈夫です。生徒手帳に配信された案内に記載されていたので持ってきてます」
「なら良かった」
どうやら珠は集合場所のグラウンドに行く道すがら施設の案内してくれるようだった。
知多学園はアキラが在籍する普通科の他に実技科と技師科が存在するが、それぞれの科ごとで通う校舎が分かれていた。その為今アキラが訪れている建屋の構造にアキラは明るくないと珠が判断し気を使ってくれのである。
勿論、科ごとに通う建屋が違うと言っても同じ学園である以上大まかな構造は一緒であるが、それでも細かな違いというのは存在するのである。
例えば、今しがた説明されたシャワールームも実技科の建屋にしか建てられておらず、普通科や技師科の生徒は基本的に三年間学園生活で使うことない施設であった。
「っと、説明してるうちにグラウンドに着いたね」
実技科棟の簡単な施設案内を受けながら歩いてる内に目的地に着いたようだ。
グラウンドを見回してみると既に複数の男女が集まっているようだった。
アキラがさり気なく視線を巡らせると既に来ていた楠 香織と目が合った。いつもと変わらず朗らかな笑みを浮かべこちらに手を振ってくる香織にアキラは軽い会釈のみで返すのだった。




