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1話

初投稿になります。

よろしくお願いします。

 カーテンの隙間から光が差し込んでいた。その光に気付いた少女はもうそんな時間か。と、椅子から立ち上がり朝の準備を始める。シャワーを浴びて汗を流した後、物の少ない冷蔵庫から適当に総菜パンと牛乳を取り出し外の喧騒を聞きつつ口に突っ込む。手早く食事を済ませた後、歯を磨き顔を洗う。そして、新しい制服へと袖を通した。

 紺色を基調としたブレザーに同色を基調としたスカート。四月とは言えまだ肌寒いのかタイツをはき肌の露出を極力減らしている。


(……なるほど)


 中学の時、周りが制服で学校を選んだとか、新しい制服を着るのが楽しみだとか話しているのを聞いてさっぱり理解できなかったが、確かに少し気分が良いかもしれない。

 ネクタイを締めながらそんな事を思う。最後に僅かにネクタイを緩めて鏡越しに身だしなみに不出来なところがないか確認する。見慣れた仏頂面は緊張しているようには見えないが、柄にもなく少し浮ついた色が窺えた。彼女は自室に向かい鞄と靴袋を取る。

 必要なものは前日に全て確認し、中に入れている。今更確認する必要はないだろうと玄関に向かう。学園指定の革靴を履きドアを開ける。高校入学と同時に上京した彼女は親に口すっぱく言われた鍵の閉め忘れ注意の言葉通りに借りている部屋の鍵を閉め、最寄の駅に向かう。

 乗り換えを一つ挟み一時間程電車に揺られて学園に向かう。部屋から駅まで十五分。駅から学校まで更に十五分。都合一時間半かけての通学である。都会の電車は混んでいると言う話を聞いていた彼女はそれを踏まえて身構えて電車に乗ったがまさか座れないとは思わなかった。


(これをあと三年……耐えられるかしら)


 内心、通学時間や電車の人混み状態に溜息をつくが、こればかりは本人が耐えられようが耐えられまいが続けるしかないのである。

 明日はもう少し早めに家を出るかどうするか考えながら登校を続ける。前日までに部屋から学校までの通学路を予習していた彼女は特に迷う事も事件に巻き込まれる事もなく学園に辿り着いた。

 流石に入学式初日から遅刻など目も当てられない。周りになんて怒られるのか想像するのも嫌なので、早めに出た甲斐もあり事前に新入生に周知されていた集合時間の三十分前である。

 校門をくぐり校庭に設置されている掲示板に貼られたクラス分け表で自分の名前を確認する。


(塚川、つかがわ……)


 塚川アキラ。名前は兎も角、苗字は他にあまり見かけないことから自分の名前を見つけるのは簡単だった。

 高校入学と同時に地元から離れ上京した甲斐あってか知ってる名前が一つも無かったことに安堵しつつ足早にその場を離れようとする。

 自分のクラスを確認した以上、長居する理由はない。それに心なしか複数の視線が自分に向けられている気がして居心地の悪さを感じていた事も大きい。

 学園の玄関をくぐり、自分の下駄箱を探す。探すこと三分ようやく自分の場所を見つけた彼女は鞄の一つから内履きを取り出し履き直す。

 履いていた革靴を下駄箱に入れようと扉を開けたところで、彼女の動きが止まった。


「手紙……」


 嫌な予感が彼女を襲った。恐ろしく面倒な予感がする。

 どうするか考えた末、下駄箱に入っていた手紙を鞄にしまい後で読むことにした。入学初日の朝から気分を下げたくはなかったのである。

 確定したわけではないが高確率でよくないことに違いなかった。

 そんな折、アキラの肩に二回ほど突かれる感触があった。思わずそちらの方に向き直すと、小柄な少女がそこに立っていた。

 目立つ色素の抜け落ちた長髪にルビーの様な赤い瞳。首元に巻かれた学園指定のリボンの色からアキラは自分と同じ学年だと判断したが、同じ年齢にしては顔つきがやや幼い印象だった。


「ごきげんよう。いい天気ね」


 少女はにっこりと、そんな表現が似合う良い表情でアキラに語りかけた。

 

「……えぇ。そうね」


 なんだろうか、良い所のお嬢さんだったりするのだろうか。急に来られてまともな返事が出来ないでいると少女はアキラの様子を気にせず言葉を投げかけてくる。


「今日は桜が綺麗な日でよかったわ。門出にぴったりだと思わない?」

「……」

「ん? 私の顔に何かついてる?」

「いえ、ごめんなさい。なんでもないわ。そうね。桜が綺麗ね……」


 確かに桜は綺麗に開花してしている。地元は大体四月中旬から下旬に開会時期を迎えることを考えると入学式に桜が咲いていると言うのは違和感を感じない事もないが、綺麗な事に変わりはない。問題は──


(門出? 入学は門出とは真逆なんじゃ?)


 言い間違えか何かなのだろうか。そもそも、目の前のこの少女はなぜ自分に語りかけてきたのだろうか。

 と考え気付く、少女が自分と同じ入学生でわざわざこの場で知らない人物に声を掛ける理由は一つしかない。


(あぁ。そうか)

「ごめんなさい。気付かなかったわ」

「あら、このままもう少しお話しててもよかったのだけど、ご厚意に甘えさせてもらうわね」


 一歩二歩後ろに下がりスペースを開けるとその前で声をかけてきた少女が下駄箱に外履きに入れて頭を下げてから校内に歩いていく。


(珍しいわね)


 その少女は長い白髪を揺らして校内に消えていった。完全な白一色というわけではなく。毛先がわずかに黒いのも殊更彼女が目に留まった要因だろう。

 新生活に気分が高揚しているのだろうルンルンといった体で小柄な体を揺らしながら歩いている彼女を尻目に思う。


(漫画なら間違いなくヒロインね)


 少女と違いアキラは肩口で無造作に切りそろえた黒髪に黒目。外見上の特徴は女子にしては背が高い位しかない。アキラの例えでいうのなら漫画でいうところのモブキャラであった。


(まぁ、いいか。それにしても……)


 少女が一年の教室が並んでいる方向じゃないほうに向かって歩いて行った事が気にかかる。職員室にでも向かったのだろうか、あるいは、先輩に知り合いがいてそちらに先に挨拶に向かったのだろうかなど、様々な考えが頭を過ぎるが――


(まぁ、いいか)


 どうせ自分には関わりの無いことだ。と、少女の存在を意識の外に追い出した。

 今の自分に他人を気にしている余裕など無い。小中と通して友達らしい友達はいなかったが高校では頑張ると決めたのだ。

 その為にわざわざ親元を離れてまで上京して、中学まで伸ばしていたトレードマークとなっていた長髪を切ってまで決意を固めたのだ。


(よし、頑張ろう)


 流石に今さら友達100人作る気など更々無かったが5人くらいは友達を作りたい。と意気込み。

 アキラは自分の教室に向かった。

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