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☆★ レティア姫の回想 ☆★



 フィラント王子の部下、ロクサス・ミラマーレ伯爵の婚約者は、亡きルシル王妃と生写し。まるで蘇ったようだ。

 そのような噂や、その他ひょんなことで、私の素性と出自調査がされた。

 そして、調査結果と、国宝のいばらの冠を、アルタイル国王の血を引く娘は青薔薇に変える、という伝承を見事に再現した私は、17歳の時にアルタイルの第一王女レティアとして城へ招かれた。

 20歳だと思っていたのに17歳。親にこき使われていた貧乏男爵令嬢。それがお姫様。

 しかも、謎の蛇が話しかけてきたり、海産物の雨を「祝い」と送られたり、まさに晴天の霹靂の事態にして珍事の連続。


 そんな中、婚約者ロクサス卿との関係は継続予定だった。

 議会の承認、レティア姫に関する色々なことが落ち着くまで、付き添いありの面会のみという日々。

 日に日に私達の心の距離は離れていった。

 ロクサス卿は王女に対して相応しい言動を取った。しかし、それは私からすると、急にとてもよそよそしい、線引きされた態度だっったから

 謎の蛇に好かれていて、話せるなんて打ち明けたら、ますます距離が出来る。

 今以上に畏れられ、もう以前のように接してもらえない。

 セルペンスに怯える様子のロクサス卿に、拒絶されるのが怖くて、うまく笑うことも、秘密を打ち明ける勇気も持てなかった。

 私は出会ったばかりでも、大人しくて優しいセルペンスに、とても心を許していたから特に。


 そんな私に、ロクサス卿はとりたてて何も言わなかった。セルペンスが気になっている様子なのに、質問もなし。

 会いたいと言ってくれるとか、手紙をくれるなど、何もなし。

 私は私で、同じく、いくじなしで踏み出せず。


 そんなある日、ユース様は付き添い無しで、ロクサス卿と2人きりになれる時間を作ってくれた。

 結果、何も話し合えず、向き合えない私達の溝はより増した。

 私がこの悩みを最初に相談した相手は、ロクサス卿の妹だった。


「恋の相談なら、ユース様です! 社交界の貴公子、百戦錬磨のユース様なら、的確なアドバイスをくれると思います!」


 この言葉に対し、そうかも、とアドバイスを受けて、ロクサス卿の知人で、かつ私の世話係でもあるユース様に相談した。

 

「あの、ユース様……。せっかくロクサス卿と2人きりにしてくれたのに、その……」


 ユース様は、私の話しに、黙って耳を傾けてくれた。

 何も言わずに「それで? どうした?」と話しを促しながら。とても穏やかで、柔らかな雰囲気だったのを、とても良く覚えている。


「ロクサス卿に……セルペンスの事とか……話せないのです……怖くて……。雰囲気が……受け入れてくれなさそうで……」


 百戦錬磨のユース様は、私にとって唯一の救いかもしれないと、私は礼拝堂で祭壇に縋り付くように、ユース様の膝前で、メソメソメソメソ泣いた。


「彼の中で……私はシャーロットじゃなくて……レティア王女殿下で……。あの、何て言って良いのか分からないのですが……。私が……私が信じて……歩み寄れば……。もしかしたら……」

「君は、ロクサス卿に受け入れてもらえないと思っているんだな」

「彼は……嘘が下手です……。それこそ、顔に描いてあります……。私と仲良くしてくれているセルペンスを、あまり良い目で見てくれません……」

「私に話したように、話せば良い。そんなに難しい事か? 伝えてみないと、何も始まらないぞ」


 私はでもでもだって、を繰り返してジメジメ泣き続けた。

 大好きなロクサス卿に受け入れてもらえない可能性。それはその時の私の中で、最も恐ろしい事だったから。


「細いな……。食べたいものはあるか?」


 ユース様は不意に、私の腕に触れてそう口にした。


「えっ? 細いですか? 最近、太ったのですよ。エトワール様が、美味しいお菓子をあれこれくださるので」

「ああ、折れそうで心配になる。もっと食べろ。うんとだ」

「ユース様?」


 その時のユース様は、なんとも言えない、悲しげな困り笑い。しかし優しい微笑だった。


「倒れられては困るし、悲しい。悩みで食べられないなら、いつでも話を聞くし、極力幸せに暮らせるようにする。私はアルタイル王国宰相だ。君が国の柱である限り、君の何もかもを守る」


 大丈夫、大丈夫というように、ユース様は子供を愛おしむ父親のような目をしてくれた。


「君が過剰に遠慮がちなのは、育った環境のせいだ。エトワールは君の世話をしたくて仕方が無くて、ロクサス卿も、きっと君から話を聞きたくて待っている。彼は、不安を受け止めてくれる男だ」

「追いかけて欲しいとか……向こうから聞いて欲しいというのは……甘ったれですよね? 遠慮ではなく……臆病者のいくじなしで……。話しても、きっと益々……」


 ひたすらメソメソ、いじいじ、ジメジメ泣く私を、ユース様はずっと慰めてくれて「ロクサス卿なら大丈夫だ」と繰り返してくれた。

 頭に乗っていたセルペンスも、私の首に移動して「泣かないで姫」と頭部を耳にすり寄せて、慰めてくれた。

 その後、ユース様はさっそくロクサス卿と何か話しをしてくれたのだ。彼の背中を押すような話しだったと聞いている。



 ☆★ 回想終了 ☆★



(もう俺のものだ、ではなくて、ロクサス卿と会わせてくれるのよ!)

 

 レティア姫は小説の登場人物に、完全に自分達の姿を重ねてしまっていた。

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