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夫婦喧嘩は犬も食わない

 アルタイル城にある、お姫様の暮らす部屋の1つ。

 ソファに向かい合って座っているのは、アルタイル第一王女レティア、それから彼女の近衛隊長を自称する世話役のカール令嬢。

 彼女達の間にあるガラス製のローテーブルには、ティーセットの他に、2冊の小説が置かれている。


 小説のタイトルは「囚われの青薔薇姫は溺愛される」だ。


 ☆★ あらすじ ☆★


 風の王国ユース宰相は、女好きのろくでなしで有名。

 世の中には可愛く、綺麗で、素敵な女性が沢山いる。そして自分はモテる。だから恋人なんて要らない。縛られたくないので結婚なんてもってのほか。

 独身男が誘ってきた好みの女性と遊んで何が悪い? 

 誰かに何か言われると、そう豪語していた。

 そこに、彗星の如く現れたのは、シャーロット・ユミリオンという名の男爵令嬢。

 ユース宰相は、地方視察の際に熱を出した自分を、献身的に看病してくれた男爵令嬢に、強く惹かれる。

 男爵令嬢を、権力を使って王都へ呼び寄せ、義妹の侍女にしようと画策するも、彼女はユース王子のアプローチに一切靡かず、別の男性と婚約。

 怒ったユース王子は、更に強い権力を発動。男爵令嬢の婚約を破棄してしまう。

 おまけに、彼女が先代国王の隠し子だと分かると、運命的だ、姫は宰相と結婚するべきと、更に権力を振りかざす始末。


 王家の秘宝、青い薔薇冠によって発見された奇跡のお姫様、レティア姫の数奇な運命と恋を描く、待望の王室恋愛小説第2巻。


 ☆★


 膝の上で小説を開き、あらすじに目を通したレティア姫は顔を上げて、カール令嬢を見据えた。


「このレティア姫って、(わたくし)ですよね?」

「ええ。モデルは確実にレティア様です」


 レティア姫の問いかけに、カール令嬢はウンウンと首を縦に振る。


「1巻は2人の出会いと結婚まで。2巻からは結婚生活です。ザッと目を通したのですが、他の少々過激な恋愛小説と似たり寄ったりの内容でした。因みに、この次の3巻まで刊行予定という情報を仕入れました」


 呆れ声を出すと、カール令嬢はトントンと机の上の小説の表紙を指で叩いた。


「噂話を混ぜて組み立てて書かれた、レティア様の恋愛小説。社交場で、王室恋愛小説ということは、史実か? と聞かました。私がレティア様と知り合ったのは、小説でいうと1巻後半ですので、否定も肯定も出来ませんと答えました。とりあえず」

「は、はあ……」

「ご自身達がモデルの創作物というのは、抵抗があるでしょう。嫌なら廃刊させます。ただ、他の創作物と違って、少々人気作らしく、正当な理由なく廃刊はひんしゅくを買うでしょう」


 困り笑いを浮かべるカール令嬢に、レティア姫も苦笑いを返す。


「カールさんが読んだ限りでは、許容範囲、ということですね」

「ええ。1巻には概ね公にされているレティア様とユース王子のなれそめが書かれています。2巻からは、憧れのお姫様生活と、年頃少女の好奇心をそそる少々過激な恋愛描写といった感じです。流行の恋愛小説と似たり寄ったり」


 カール令嬢は足元の紙袋から、紺色の滑らかな革製のブックカバーを取り出し、テーブルの上に置いた。


「ザッとで良いので読んで、放置するか規制するか、ご検討下さい」

「流行の恋愛小説と似たり寄ったりなら、規制は難しいのではないですか?」

「ええ。しかし、レティア様が拒絶を示せば、内容や名称の変更は可能です。ただ、そうすると公式小説になる恐れもあります」


 カール令嬢はいそいそとブックカバーを小説に被せ始め、チラチラと振り子時計を確認した。


「エトワール様とのアフタヌーンティーまで時間がありますので、少々読んでみて下さい」


 レティア姫は、どうして今このタイミングでこの小説を渡されたのか、理解した。

 カール令嬢は、彼女が休暇を取らない限り、レティア姫の朝食後から夜の湯浴みまでの時間帯、世話役として共に行動する。

 カール令嬢がレティア姫に小説の話しをするのなら、午後になるまでにも、2人きりになる時間は十分にあった。

 そこに告げられた「エトワール様とのアフタヌーンティー」という単語。

 このエトワール様とは、レティア姫の義理の姉であるエトワール妃のことである。

 午前中、レティア姫が城のハーブ園を観に行った際に、エトワール妃も息子と共に散歩をしていた。

 それで、レティア姫はエトワール妃に「今日はとても天気が良いです。お庭でアフタヌーンティーを楽しみません?」と誘われ、2つ返事で了承した。


「こちらの小説を見つけてきたのは、エトワールお姉様ですか?」

「いえ。しかし、ほぼ同じタイミングです。エトワール様、この1巻の内容に、大変お怒りでして。私はあくまで噂をまとめた創作物なので良いと思うのですが……」 

「エトワールお姉様、この小説の何にご立腹でした?」


 レティア姫は、問いかけながらも、自身も考えるように首を傾げた。


「真面目に、紳士にレティアちゃんを口説いていたと聞いていたのに、強引かつ自分勝手な態度。と、ユース王子に対してです。小説と現実が混ざったようです。それから、少々過激だと」

「あー、えっと、つまり、この後のアフターヌーンティーの際に……」


 困ったというように眉尻を下げるレティア姫。彼女は両手で開いている小説をそっと閉じた。


「実は困っていない? これは本当? と質問攻めかもしれません。突然何の話? となると思いましたので、事前にお話しをと思いました」

「質問攻めならお話しをすれば良いだけですが、既にユース様にお説教をしていたりすると……」


 ほうっ、と小さく息を吐くと、レティア姫は目を閉じた。

 レティア姫の夫、ユース宰相の嫌いなものの1つは、義妹であるエトワール妃の可愛げのない怒り顔。

 怒りの理由を知ったユース宰相の取る行動を、レティア姫は「んー」と懸命に推測したが、結論は出ず。


(ユース様がエトワール様を丸め込むのは想像に容易いけれど、その後にどうするかはサッパリ読めないわ)


 レティア姫のまぶたの裏に、夫ユース宰相の飄々とした笑顔が浮かび、彼女はパッと目を開いた。


「あっ。多分もう、確認……されました。ユース様に……。昨晩の本の話しは、この小説のことだと思います」

「そうなのですか?」


 レティア姫は、昨夜の出来事を思い浮かべてながら「はい」という返事をした。

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