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ロ〇キーのエイドリアンは実は女性、これマメな 3

「イズルさん!」


 俺が珍しく内省していると、顔を向けた方から一つの声が近づいてきた。言うまでもなくプラムさんだろう。ちゃぷちゃぷという水の音も近づいてくる。桶か何かに水を入れて持ってきたらしく、彼女に促されるまま顔を水に浸らせて目の砂を落とした。

 視界が戻るとそこにはターコイズブルーの瞳を優しげに潤ますプラムさんの姿があった。綺麗だな、と思った。あれ?エイドリアンの汗とか努力とかどうでもよくね?


「お怪我はありませんか?」

「うん、臓器がやられてるかな……」

「それはご自分で痛めたのでは……?」


 胃のあたりをさすっていると、プラムさんからごもっともなツッコミを入れられた。ぽわぽわしているようで、意外に鋭いところがあるらしい。


「服をまくってもらっていいですか?」

「え?でも身体の中だし」

「私の職業をお忘れですか?」


 ふふっと笑うプラムさんにまたしてもドキッとしてしまい、小声で「……オナシャス」と呟いてお腹を出した。残念ながら俺の腹筋は恥ずかしボディだ。ラノベ主人公特有の謎の良い肉体は持ち合わせていない。『身体能力強化』よ、どうせならビジュアルも強化してくれても良いじゃないか。

 もっとも恥ずかしがっているのは俺だけみたいで、プラムさんは真剣なまなざしで繊細な指先を俺の腹部へと当てる。医療行為だと頭では理解しているのだが、同年代の女の子、それも飛び切りの美少女に身体を触れられているとどうにも落ち着かない。

 そうして俺がドギマギしていると、プラムさんが「あれ?」と小首を傾げた。


「どうかしました?」

「え、えーと……傷がもうとっくに塞がっている、というよりはもともと傷そのものがなかったかのような感じなのですが……」

「え、マジで?」

「マジです」


 そんなはずはない。めちゃくちゃ痛かったし、血だってあれだけ吐き出しだのだから、臓器のどこかしらに傷口なりがあってそこから噴き出たはずだ。

 しかし、改めて考えてみると、そもそも初めて呪いを食らった時も別に治療なんかはしていない。今もそうだがあれだけ吐血したにも関わらず、めまいや耳鳴りみたいな貧血症状は一つも起こっていないのだ。本当にただ内臓のあたりが痛む。それだけだ。

 もしかして俺の痛覚だけが暴走する仕組みなのだろうか。じゃあ、あの吐き出した血はいったい誰のなんだ……?下手に身体的ダメージを負うよりも、うすら寒いものを感じる。そして同時にあのアフロへの報復を改めて誓った。


「と、とりあえず痛みを和らげるくらいはしますね!『ペキラ』!!」


 プラムさんが短く単語を発したかと思うと、腹部の痛みが何事もなかったように消え去っていた。こんな言葉ひとつで痛覚が無くなることなど俺の世界の常識ではとても信じられない事である。いわゆる「魔法」を目の当たりにして、俺は「おお」と感嘆してしまった。なるほど、ドラ〇エの方向ね!

 もちろん、プラムさんの話を聞くに誰も彼もがただ言葉を一つ唱えるだけで、こうした奇跡を行使できるわけではないのだろう。この世界における魔法の成り立ちを詳しくは知らないが、微妙な発音の違いであったりなど、目には見えない細かな調整があって初めて出来る代物であるはずだ。でなければ、プラムさんのような巫女と言う職業は成り立つまい。そのあたりの話も後で詳しく聞きたいところだ。


「ありがとうございます。すっごい楽になりました」

「いえいえ!最初はこの人ふざけてるのかなと半分くらい思っていましたけど、さすがにあの真剣勝負でボケる方ではないなと思いましたし……」

「今までの半分は身体を張ったボケだと思ってたの!?」


 プラムさんは少し汗を浮かべながら、困ったように「にこっ……」と笑うだけだった。やっぱり内心でちょっとヤバい人くらいには思われていたらしい。その上、超級武〇破斬とか……どうしよう。魔法でも手の施しようのない痛みが胸のあたりを刺してくるよ……

 つうっときれいな涙を流していると、プラムさんは苦笑いを本当の微笑みに変えていた。


「それに私の為に戦ってくれたんですよね」

「えっ、いや」

「ありがとうございました」

「……どういたしまして」


 深々と頭を下げる彼女に対して、俺は思わず頬のあたりをぽりぽりと掻く。否定しようかとも思ったのだが、事実だったからだ。エイドリアンにムッとするところがあったからとか単に困っている彼女を見て行動しない自分が嫌だったとか、他にもいろいろと思いつきはするけど、要はやっぱり彼女の顔を見て動いてしまったのは事実なのだ。

 なんだか気恥ずかしい気持ちになったところで、俺はふと思う。これ、『俺がやりたいからやったんだ』的なことを言ったら、また吐血したんじゃないかなと。そう思うと美少女との微笑ましいやり取りが一瞬にして、意味が分かると怖い話系の何かに変貌してしまい、俺は背筋にまた冷や汗が流れていくのを感じたのだった。

 俺が人知れず戦慄している間に、プラムさんは手の甲を抑えるエイドリアンの方へと向かっていた。トドメを刺すのかな?


「ケフク!」


 さすがにそんなことはなかった。マジで怖い話にならなくてよかったと俺は安堵する。

 プラムさんは彼の前で膝を折ると、俺にしたのと同じように、その右手を両手で包むように添えて呪文を唱える。エイドリアンの顔は苦痛に歪んでいたが、それが次第に和らいでいっているようだった。

 俺は内心、ほっとする。右手なんて剣に限らず、畑仕事から日常生活まで幅広く使うものだ。決闘とは言え、それをしばらく使い物にならなくさせてしまうのはさすがに忍びなかった。


「ぐっ……」

「大丈夫ですか?」

「……ッ!どけっ!!」

「きゃっ!」


 最も当のエイドリアンは礼の一つを言うどころか、プラムさんを乱暴に押し退けてしまい、俺はすぐに彼女の背中を抱きとめる。治療を施した相手にそれはないだろと文句の一つでも言おうとしたが、すでにエイドリアンは町の外れへと走り去っていた。

 ただ、その気持ちも分からなくはない。あれだけ下に見ていた相手に手も足も出ずに完封され、庇護の対象だと認識していた女の子に怪我まで治された。俺でもこの場から逃げ出してしまうと思う。

 ……くそっ、なんだろうな。この気分。


「……あの~」

「ん?」

「その……もう大丈夫と言うか……」

「あっ!」


 腕の中には白い肌を真っ赤に染めたプラムさんが両手をもじもじさせていた。


「ご、ごめん!」


 俺は慌てて彼女から離れた。それでもプラムさんは挙動不審に手を組みなおし続けており、かなりの動揺が見られる。エイドリアンと愉快な仲間たちのせいもあって、もしかしたら男性にあまり免疫がないのかも知れない。


「………」

「………」


 気まずい沈黙が流れていく。こ、これってもしかしてプラムさんが俺を意識しているってことで良いのか!?あの『意味もなく女の子に好かれる』とかいう恥も外聞もないスキルが功を奏しているのか!?

 しかしながら、もしそれが原因でプラムさんが俺のことを好いているのだとしたら、それはそれで何か複雑な心境だ。あのスキルはどちらかと言うと、キャーキャー言われたり、初対面の女の子に好感触を持ってもらうためのものであって、こうお付き合いとかを前提にとなってくると……ってやばいな。もうプラムさんが俺を好きって前提だな。童貞全開だな俺。というか、キャーキャー言われたり~とかもなかなかキモイな俺。

 二人してテンパっていると、低い男性の咳払いがその空気を吹き飛ばしてくれた。


「勇者様、不肖の息子がご迷惑をおかけしました」

「い、いえ、むしろこちらこそ、息子さんにお怪我をさせてしまいましたし……」


 咳払いの主はオーブリーさんだった。もうこの手の謝罪を何度もしてきたのだろうが、その面持ちからは一層申し訳なさが漂っている。

 俺がエイドリアンにむかつくのはやっぱりこういう所だ。自分の責任で好き勝手やってるつもりなのかも知れないが、結局まだ父親にケツを持ってもらっている。


「お詫びと言ってはなんですが、今晩は我が家にお泊り下さい」

「いいんですか?」


 普通なら悪いですよと言うところだが、ぶっちゃけ路銀もなければ他にアテもない。さすがにプラムさんに泊めてくれというのは思春期童貞として非常にハードルが高かった。


「そ、それでしたら、私もお邪魔したいです!」


 と、思っていたらまさかのプラムさんから参戦申請があった。え、女の子とお泊り会とかちょっと刺激が強すぎる。どうしよう、お泊り会とかスマ〇ラとモ〇ハンやって寝るもんだとばかりに思ってたけど、女の子とは何すればいいんだろう。


「おお、良いよ。でも夕飯が終わってからは帰りなさい、良いね?」

「はい!」


 オーブリーさんがちゃんとした大人だったので、そんな俺の焦りはすぐさま解消された。


「勇者様もそれで……うわっ!?オーガみたいな顔になってますけど、私わたくしが何かしたでしょうか!?」

「Я не против……」

「未知の言語!?え、本当に勇者様ですよね!?オーガとすり替わってるとかないですよね!?」


 無念が顔と言語に滲んでしまっていたらしい。オーブリーさんがめちゃくちゃ慌てた様子だった。異世界生活、最初の夜は現地のおじさんとドキドキお泊りイベントである。


「もう、イズルさん。パンケーキ作ってあげますから、ご機嫌を直してください。ね?」


 普通なら自分と躍起(やっき)になって泊まろうとする男とか軽蔑する対象じゃないかと思ったが、プラムさんは楽しそうに笑って、こてんと愛らしく首を傾げる。同級生の女の子がやっていたら、夜〇月ばりに相手の動機や心理状態を洞察するところだったが、プラムさんからはそういう計算されたものは一切感ぜられない。

 機嫌を直すどころかもうとっくに上機嫌だ。オーブリーさんにも、「すみません、半分冗談です」と笑いかけると、彼も安堵したように胸をなでおろした。すぐに「半分……?」と訝しんではいたけど。


 和やかなムードになったところで、俺はふとある男の存在を思い出す。


「……エイドリアン、あいつって今日どうするんでしょうね???」

「「あっ」」


 二人からしまったというような声が思わず上がった。

ストックが尽きたので不定期更新になります。実質上、失踪ですね!

これからは投下ペースなどをいろいろと掴みながらやらせて頂きますが、完結まで努力するので(完結させるとは言ってない)、お付き合いいただけたら幸いです。失踪します。

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