お前さんは死んでしまった(笑) 2
「能力名の横に数字があると思うけど、それはコスト値みたいなもので、あんまり強いのばかりは選べないから気を付けて」
楽しいハーレムライフを想像しながらパラパラとページをめくってみると、アフロがそう声をかけてきた。なるほど、確かにカテゴリ別に能力とその説明が羅列されており、能力名の横にはコスト値と思わしき数値が記されている。強い能力や複数の能力を統合しているような代物は高コストのようだった。どうやらボーナス値を振り分けていくようなシステムらしい。
ここだけ言えば親切なように聞こえるだろうが、スタープ〇チナだとかフィン・ファ〇ネルだとか、オリジナリティに乏しいとか以前に剽窃でしかない能力名とその内容の数々を見て今更ながら震えが止まらない。俺、目の前の神様より高次の存在って無数にいると思うんだ。
「……って言っても、転生先の世界ってどういうシステムでスキルとか存在してるんですか?よくステータスとかもありますけど」
知らないうちにバベルの塔を積み上げているような恐怖感を覚えながらも俺はアフロに尋ねる。
「ん?ああ、そうか。『身体能力強化』とか選んだらどうなるのか知りたいよね」
こくりと頷く。恥ずかしながら俺はまともに部活動もしていない、現代日本の男子高校生である。いきなり伝説の勇者並みの力を授けられることを期待してしまうが、それこそ並の冒険者の身体能力を与えられても、十分に能力名の条件は満たしていることになってしまうのだ。先程受け取ったカタログにそのあたりもいちいち書いてはあるのだろうが、世界そのもののシステムを理解してしまった方が選びやすい。
「ははは、そう堅くならないでよ。チートなんて言うくらいだから、ちゃんとステータス表記にも出来るよ」
そんな俺の思惑を感じ取ったのか、アフロは朗らかに笑った。
「マジっすか!正直、「ちから」「すばやさ」とかざっくりし過ぎだろと思ってましたけど、出来るもんなんですね!」
「はい、こんな感じ」
アフロが俺の向けて手をかざすと、空中にそれこそRPGのウィンドウのようなものが投影される。
アフロに手招きされて、俺はその画面を覗きこんだ。名前や年齢、性別などがずらりと並んでおり、どうやらこれが今の俺のステータスらしい。アフロがそれをスクロールして身体能力のページへと移動させる。ありきたりな人生を歩んできたと思っていたけど、こうしてみるとたった一人の人間にも膨大な情報が蓄積されてるんだなと感動したところで、アフロが手を止める。
★筋力
上肢帯筋:0.00002中山き〇に君
三角筋:0.00004中山き〇に君
棘上筋:0.00003中山き〇に君
棘下筋:0.00007中山き〇に君
肩甲下筋:0.00005中山き〇に君
小円筋:0.00006中山き〇に君
大円筋:0.0000000000000000000000000000001吉田沙〇里
「なんだこれ!?」
愕然として声を上げる。情報量に対して筋肉量が少なすぎた。
「こんな感じですべてのステータスが閲覧できるよ」
「細かいし分かりづらっ!これ俺が虚弱体質なの!?中〇きんに君がすごいの!?というか単位くらい統一しろよ!最後はもう吉〇沙保里さんの身体能力がすげえ高いことしか分からねぇ!」
どんなチート能力もらっても勝てる気がしなかった。中山き〇に君がゲシュタルト崩壊をはじめて、めまいのような気持ち悪さも覚える。
「ええー……君たち大好きでしょ、ステータス開示」
「黙れ!ラノベ読者馬鹿にすんな!世界観台無しだよ!なんの参考にもならねぇ!」
ちょっと小ばかにした感じでアフロがにやけていたので、俺はキレた。こんなんスキャン的な魔法使うたびに見えるとかそれだけでSAN値が溜まりそうになる。
「いや君も言ってたけど、人間の能力なんかそう簡単に数値化出来ないからね?」
「まぁそりゃそうですよね……」
ファンタジーとはいえ腐っても神の創造した『世界』なのだから、テレビゲームのように限られた数値と計算式だけで処理することなど出来ないのだろう。「この魔法も僕にしか使えないしねー」と笑うアフロを見ながら、チートステータスを誇示する機会が奪われたことに俺はちょっと落胆した。
「ちなみにスキルは?」
「それも同じくだね。そのカタログはあくまで僕がチート能力授与の為に作ったものだし……だって一口に『剣術』と言ったって色んな流派があるじゃない?」
「まぁそれもそうですね……」
「でしょ?あ、でも冒険者には倒した魔物の数とか受けた依頼の数とかで」
「あ、そのあたりはどうせギルド行くパートで聞くので結構っす」
受けられるクエストが違ってくるとかそんなのだろう。アフロがショボーンとしていたが、知ったことじゃない。結局、この分厚いカタログを読んで選ぶしかないことが分かり、俺もため息を吐き出して能力の選定を始めた。
~~~
「よし……と、こんなもんかな」
全身の筋肉がひどく強張っていたので、思わず伸びをしてしまう。ちゃぶ台に置かれているお茶もすっかり冷たくなって、うっすらと埃すら浮かんでいる始末だった。
あのアフロ相手と言うこともあっておちゃらけていた俺だったが、さすがに第二の人生を歩むにあたっての選択だ。慎重にならざるを得なかったし、RPGなんかのキャラメイクに何時間とかけてしまう性分を如何なく発揮してしまった。凝り性であることとせっかちであることは決して反発する属性じゃないと思うんだ。
ちなみに能力の選定はなぜか黄ばんだ羊皮紙に羽ペンで書き込むという形で行われた。ここだけファンタジックにされても、もはや世界観の不調和をきたすだけだと俺は思うのだが、どうだろうか。
「ほら、決まりましたよ」
「お疲れ~、どれどれ……」
羊皮紙を読みつつ、アフロはちょくちょく俺を見てくる。妙に照れ臭い気分になってきた。ポエムを見られるというほどではないが、宿題で描いた絵をまじまじと見られる気分に近い。なんとなくそわそわしていると
「ぷっ」
かなり小馬鹿にした感じで笑われた。
「うわぁ、ふつう選ぶ?『意味もなく女の子にモテる』とか。プライドとかないの?」
アフロはニヤニヤしながら俺をいじってきた。ギャルのパンティを所望するよりは理性的な選択だと個人的には思ったのだが。
「黙れ小僧!お前に俺が救えるか!」
「いや、救ってんだけど……」
「自ら美少女にアプローチする度胸もなく、でもイチャイチャはしたいと思う、哀れな男子高校生だ……」
「うん、本当に哀れだよ」
白けた目でアフロが見てくる。愛されるよりも愛したいとは言うが、俺は愛されるだけ愛されたい。存在するだけでちやほやされたい。なんなら幼稚園児に転生するのもアリだとすら思っている。うん、やっぱりアフロの言うように哀れだわ俺。
「この音楽神の祝福とかも何!?なんで選んだ!?」
「この世界でのフレ〇ィ・マーキ〇リーになりたいなと……」
「君の目的は絶えずブレてるね!」
そんなわけで神のツッコミを受けながら、いくつか能力の選択をし直して、俺のステータスは決定された。
「あ、それと初回だからこの名剣と冒険者パック上げるね」
「二回目とかあるんですね!?」
過去六人くらいしか転生者がいないのに、そんなヘビーユーザーがいることが驚きだった。ツッコミながらも、ずっしりと重い背嚢 と立派な装飾が拵えられた長剣を受け取る。
「さぁ、あとは心の準備だけだけど、それは出来てるかい?」
「………」
一転してアフロが真剣な面持ちで問いかけてきたので、俺は思わず押し黙る。
いくらチート能力を受け取ったとはいえ、これから少なくとも現代日本より遥かに危険であろう世界へと飛び込むのだ。不安がないと言ったら嘘になるし、前世に悔いが無い訳ではない。むしろ俺は何かと環境のせいにして、人生に対して消極的な人間だった。
でも、だからこそ。
「覚悟……とまでは言えませんけど、もうちょっと前向きに生きようとは思ってますよ」
「ん、そっか。じゃあ、早速行ってもらうね」
俺の答えにある程度は満足したのかアフロはさらりとそう告げて、右手を掲げて俺には聞き取れない言葉を紡いでいく。
すると、俺の足元にまさしく魔方陣ともいうべき巨大な紋様が浮かび上がり、風が逆巻いて髪と学生服を叩いていく。ああ、いよいよ行くんだなと緊張から両手を強く握り締める。
「そういえば」
アフロが思い出したように呟く。強風の中でも聞き取れたのは、俺にとって早くも現実味を帯びてきた魔法のせいだろうか。
「君の名前を聞いてなかった」
さっき羊皮紙に書いたろとツッコミかけたが、アフロが知りたいのはそういうことではないのだろう。俺が何者であるかを改めて問うているのだ。
俺は大きく息を吸い込んで名乗ってやった。
「新田出 !」
ありがちな苗字にやや奇を衒ったこの名前が俺はあまり好きではなかったが、不思議と新たな人生を前にしても俺はそう名乗ってしまった。
アフロが「よみづらっ」と呟いたところで、俺の視界は風に奪われた。




