お前さんは死んでしまった(笑) 1
タウンワークでも見た方がマシですよ!
俺は膝をつこうとしていた。春風にそよいでいた若草は血だまりに押しつぶされ、きっとそれを吐き出した自分の口元も赤く染まっているのだろう。旅立ちと共に渡された名剣も今は体を支える杖代わりにしかならなかった。
やれやれ、とんだ厄日だ。そう心内でつぶやくと同時に、また臓器の弾けるような、強烈な不快感と激痛がこみあげ、黒血の形を取って首元を汚していく。
そうして俺が苦しんでいる間にも、薄汚れたチョッキにズボン、色落ちしたバンダナを頭に巻いた、あまりにも図鑑的な出で立ちの山賊が斧や弓など各々の得物を携えて、半円の陣形を縮めるようにしてにじり寄ってくる。奴らの表情は嘲りと侮りに埋め尽くされており、粗末な得物以上に個性に乏しかった。
「ごめんなさい……!あなたを巻き込んでしまった……!」
背中越しに少女の泣き声が鼓膜を打つ。そして、また俺の喉奥から血の巡りがこみあげそうになった。
「……謝らなくていい。それより……」
俺は懐に手を入れる。
「静かにしていてくれ」
取り出したスマートフォンの画面を滑らせ、ある電話番号に繋いだ。
目の前の山賊団や泣き崩れる少女とか抜きにーーー怒鳴りつけなきゃならない奴がいる。
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「らっしゃいませー!一名様でしょうかー!」
「居酒屋か!」
扉を開けると、そこは六畳間の和室だった。サングラスをかけたアフロヘアーのおっさんが威勢の良い声で俺に呼びかけてきたため、思わずツッコんでしまう。しかもこのおっさん、筋骨隆々な肉体をゴスロリで覆っている。川端康成もびっくりの導入だった。
「いえ、茶道教室ですね」
「予想だにしてなかったわ!それでなんですか、俺に話って」
ちゃぶ台を挟んで、アフロに向き合う形で俺は腰を落ち着ける。アフロは「ツッコミどころまだあるよね?」と不満げだったが、付き合っているとキリがない。というか、異世界モノでここのパートなんて似たり寄ったりなのだから、さっさと進めてしまうに限る。
「今、地の文でかなりメタいこと言ってなかった?起承転結の起よ?こう重々しい感じで私告げたかったんだけどな?」
「いや、死ぬのはともかくとして、こうフランクな感じで神様に絡まれてる時点で、だいたい想像がついてしまうと言いますか……」
「マジかよ、わざわざ奇を衒ってアフロにゴスロリにしてきたのに……」
アフロがしょぼくれてしまったが、この状況で「じゃあ君、無間地獄ね♪」とか言われることはないだろう。そんな悪質なドッキリがあってたまるか。
「うん、まぁお察しの通り異世界転生してもらいまーす」
「急にやる気なくすなよ!悪かったって!」
アフロは鼻をほじりながら、重々しさとは無縁の態度で宣言する。ビジュアルだけならソウル歌手がサブカルに染まったという感じだが、どうやらこいつが異世界の神らしい。
ついさっき俺は死んだ。死んだといっても実感はあまりない。気が付いたら市役所の窓口みたいなところに飛ばされていて、そこでやたら綺麗な受付のお姉さんの丁寧な説明を受け、この部屋の扉を開けたというわけだ。
「しかし、アレだね。こうも話が早いということは、だいぶクソラノ……ライトノベルに脳を毒されてるね?」
「それもう最初でクソって言っちゃってるから!まぁ確かにラノベは好きでしたよ」
「あ、じゃあ作家になりたいとか思ってたり?」
アフロは小バカにした感じで聞いてくる。俺が「あー、なろうで一山当てて印税で暮らしてー」と思ってるアホな中高生に見えるらしい。さすがにトサカに来たので、俺はちゃぶ台から身を乗り出して、アフロの目を見据えてやる。今となっては役に立たないが、俺の持っていた未来予想図をこいつに突き付けてやる。アフロも俺の真剣な眼差しを受けて表情を引き締めた。
「剣で身を立てたいなと思ってました」
「うわぁ、なんだか凄い奴が来ちゃったぞ」
訳の分からないことを言っていたが、アフロは俺を憐れみと恐怖の対象として捉えたらしい。そうだろう、夭折した天才剣士だもんな。
「えーと、じゃあ剣道とかやってたの?」
「いや、なにも」
「なんなんだよお前!」
アフロがちゃぶ台を叩いてキレた。先に述べたように俺はラノベが好きなだけで、別にその手のことを学んだことはない。なろう主人公の例に漏れず帰宅部だ。残念ながら俺の学校にS〇S団はなかった。
「まぁそれだけアホ……もといド低能ならむしろ良いかも知れない」
「人を見下す言い方は良くないッ!」
「ボクの管轄する世界っていわゆる剣と魔法と核のファンタジー世界だからさ」
「今聞き捨てならない要素なかった!?」
「剣で身を立てることもできると思うんだよ」
「え……」
ニヤリと笑うアフロに対して、俺は思わず呆けてしまう。神様、アンタは俺の剣士として生きる夢を……
「マジに捉えちゃったんですか……」
「君はアレかな、無間地獄に落ちたいのかな」
アフロの口元に湛えられている笑みが、一転して攻撃的な意味合いに変化する。基本的に恫喝の類に弱い俺はすぐに土下座した。
「まぁ半分冗談はともかくとして」
「けっこう根に持つタイプなんですね」
「恒例のチート能力は何が良い?」
「結構手馴れてるなっ!」
「君で六人目くらいだからね」
一桁台で早くも「くらい」なんて副助詞が出てくる事に一抹の不安を覚えながらも、俺はこの部屋に案内された時から抱いていた疑問をぶつけることにする。
「そもそもなんで俺なんですか?体力無エ、彼女も無エ、服のセンスも持って無エ。金も無エ、未来も無エ、妄想毎日ぐーるぐるな、典型的オタク高校生をわざわざ選ぶとか正気ですか?」
「うん、異世界転生モノ全否定だね」
アフロはそう言うものの、当事者の俺としては納得のいかない所なのだ。このアフロがどういう目的で、俺を自分の世界に落そうとしているのかが分からない。そもそも自分の管理する世界に対して、こいつはどこまで干渉するのが役目なのか、そこにどういった感情があるのかも知らない。
「まぁぶっちゃけるとボクたちは面白い物語を見たいんだ」
「ボクたち?」
「ああ、ボクたち神様はそれぞれ世界を持っててね。で、たまに集まってはそれぞれの世界で起きた面白い話を持ち寄っては語り合ってるんだ」
「へぇ……なんか本当に神話の神様みたいですね」
「まぁ、Sk〇peでやってるんだけどさ」
「ああっ!一気にTRPG感が!」
あまりに俗世、特にサブカルチャー風味に染まっている神々に衝撃を受けつつも、彼らの目的はなんとなくは察することができた。
「つまりヒーロー願望がある奴なら、面倒事に首ツッコむなりして、面白いことをしてくれるんじゃないか……ってことですね」
「そういうこと。正直、世界の崩壊とか起こされるのは困るけど、世界の一部分に王国の一つや二つ作るくらいなら、神様としては大したことじゃないんだよ。あんなもの、せいぜい数百年で滅んじまうからね。ボクの世界そのものはさして変わらない」
アフロはからからと笑いながら言うが、そのスケールの大きさとどこか他人事として捉えているあたりは神様なんだなと思った。
とはいえ、このアフロは肝心の質問にはっきりと答えていない。
「でも、ヒーロー願望のある奴なんて世にごまんといるでしょう。その中から俺が選ばれた理由って……」
「あー、それ聞いちゃう?」
俺の質問にアフロは相変わらずへらへらとしていたが、俺がそれなりに真面目な表情をしていたからだろうか。やがて口元に湛えた笑みを消して、両手を組んで口元に添える。
碇ゲン〇ウを目の前にしたような圧迫感に思わず俺は生唾を飲み込んだ。まさか平凡だと思っていた俺の出生に何かの秘密が……!
「ダイスで決めました」
「やっぱりTRPG感覚かよおおおおおおお!!!」
ほんのちょっとでも期待していなかったが、あまりの適当さに叫ばずにはいられなかった。
「君自体に秘密があるとかいっっっっっさい無いから。そういう展開とか期待しても無駄だから」
「ちくしょおおおおおおおおお!!!」
こうもハッキリ否定されてしまっては、もはや一縷の望みもない。百万人目のお客様に特別プレゼントみたいな感覚で、俺は第二の人生を手に入れたらしい。いや、嬉しいんだけども……!嬉しいんだけどさ……!
「まぁ事情は分かりました。受けますよ」
「随分軽いね、本当に良いのかい?」
「話が進みませんからね」
「だからメタいのやめてって!」
ツッコミ疲れたので仕返しとばかりに雑なボケをかましておいた。
しかし、事情を知ろうと知るまいと、異世界に転移するという選択自体を変えるつもりはない。広義で言うならここも死後の世界なんだろうが、天国はともかく地獄なんか願い下げだし、それらの世界が存在せずに、あらゆる記憶を失って輪廻転生したり、意識が消滅してしまったりするよりかは、はるかに上等だと言えるだろう。
それに元の世界に戻ってやりたいことなんか俺にはないのだ。部活動に打ち込んだり、友達と色んな所に出かけて学生生活を謳歌するだとか、受験勉強をしていい大学に行って安定した職に就きたいとか、そういったことがピンと来ないのである。もちろん家族や友達にまともな挨拶もできずに死んでしまったことに未練を覚えないわけではないが、元の世界に帰るということは、すなわちそういうピンと来ないことに取り組まなきゃいけないことを意味するわけで。
それならまだ見知らぬ世界とはいえ、楽に生きていくだけの力をありがたく受け取ってストレスなく暮らしたいというのが正直な気持ちだった。俺みたいな怠惰な人間は、受験勉強とか就職活動とかいう過程を通り越して、卒業証書や幹部の椅子という結果を得てしまいたくなるのである。
それでも両親や友達の顔が脳裏にちらつく。きっと深く悲しんでいるはずだ。子供に先立たれる悲しみなんて想像を絶するだろうし、昨日まで遊んでいた相手が急にいなくなってしまう喪失感も長く影を落とすもののはずだ。
うん、やっぱりこういうのはよくない。人間、まともに汗水たらして生きる方が立派な生きk
「いやー、まぁそうだよね。エルフみたいなモデル級美少女から、ドワーフみたいな合法ロリまで手広くハーレム作れるからね」
「よーし、手始めに結〇リトさんと同じ能力をください」
両親の愛情!親友との友情!そんなものは労せずして手に入る美少女ハーレムの前では無力だ!雨ニモマケズなんてクソくらえ!(笑)
「……うん、じゃあチート能力はこの中から十個選んでね」
そうして心なしかアフロが侮蔑の視線を送りながら、ゼ〇シィ並に分厚いカタログをドンとちゃぶ台に置いたのだった。
あれ?俺また何かやっちゃいました?(笑)
読んでしまったか・・・
初めまして、皆さま。他の版権作品のお名前をとっかえひっかえしてるだけなのに、パロネタと称してはばからない本作を読んでいただきありがとうございます。もし関係者の方がいらっしゃいましたら、訴訟などはしないでください。むしろこれを書籍化することで、ここぞとばかりに心の広さをアピールすると人心を得られると孔子も言っていました。
真面目な話、小説を書くのは初めてなので、至らない点も多々あるとは思いますが、修行も兼ねているので指摘などはありがたくお受けします。
失踪します。




