3話 試験
「そろそろ門に着きそうね!」
「そうだね、王都には始めて来たけどでっかいなぁ。」
ライド達はその後、無事に王都の近くまで来ていた。
人族の住まう国「ヒュマノス」
ここはその最大にして中心の都市エリザベルタである。
王都であるエリザベルタは、人口約4万人に加え、常駐兵5万人からなる城塞都市で、高さ40mの半円形の城壁に囲まれた堅牢な都市である。
半円形の直線部分は魔族の国と獣人の国との国境面を向いており、防衛時はこちらの面で迎撃するのだ。
そのため、直線部分のすぐ内側は兵士の宿舎や調練所が配置されており戦闘力を集中させすぐに臨戦態勢に入れるようにしている。
反面、半円形の孤を描いている壁の内側は商店や住宅街、学校などが配置されていて、一般市民の営みはここで行われる。
防御力に偏りがあって危ないのでは、と思われるかもしれないが、王都の両隣、王都より国境から少し遠い辺りに軍事都市がそれぞれ配置されていて、仮に攻め込まれたとしても避難する時間は十分にとれるので、一般市民が襲撃されることはまずありえないだろう。
「お、この先が関所かな?結構な人が並んでるなぁ。何をしているんだろ?」
「ここで検問を行うのよ。各関所に配置された魔術師が訪問者に破術の魔法をかけて、獣人や魔族が変装してきていないかを確かめるの。その後簡単な身体検査をして人族だと認められれば無事王都へ入れるわ。」
「結構簡単な検問なんだね、ちょっと手抜きじゃないのかな...」
「そこは大丈夫よ。悪意を持っていたり、悪巧みをした人間が王都に入ったら、王都全域に張られている結界に反応して警報が鳴らされるもの。人の無意識に反応する超高等魔法で、思考にジャミングをかけていても考えが読めないとして警報がなるわ。」
「なるほど、警報がなれば兵士が飛んできてくれるってわけだね...そんなすごい結界があるなら安心だね。」
「そうそう...っと、私たちの順番ね。」
「次の君、こっちに来たまえ。」
「あ、はい!」
ライドを呼んだのは金髪で顔の彫りが深い、イカした兄ちゃんといった印象の兵士だ。
ライドが検問係の兵士の前に立つと、兵士は徐ろに手を頭の上にかざしてきた。
兵士の手から、言い表せない力のようなもの、を感じると同時に風が吹き抜けるような、こそばゆい感覚がした。
兵士は何か納得したように頷き
「よし、次は鞄の中身を見せてくれ。」
ライドが鞄を開いて見せると、兵士は一瞬だけ中身を見てライドに話しかけた。
「お、坊主、これから入軍試験か?」
「はい!そうなんですよ。それと僕はライドって言います!坊主って歳でもないですよ!」
「はっはっは!俺からしたらお前らくらいのは皆坊主よ!」
「...ライドですよ、おじさん。」
「おっと、おじさんとは聞き捨てならねぇ。俺はまだ20歳だ。それにガルダっつう素敵な名前があるんだよ、覚えときな坊主」
どうやら話を聞いてくれそうにないので、呆れたように顔をしかめるライドであった。
だが冗談を言っているのは分かるし、口から覗いた歯がキラリと光るようなとてもいい笑顔なのでどこか憎めないのである。
「剣を持ってるって事は、兵士科を受けるんだな?未来の後輩になるかもしれねえなあ。」
「え、ガルダさんは魔術師じゃないんですか?」
「ああ、たまたま破術の魔法に適正があったから門番を任されているんだ。軍に入ってる奴らは基本、なんかしらの魔法は使えるぜ。入軍試験の時になんの魔法に適正があるかも調べるはずだ。」
「ライドーまだ終わらないのー?」
「あ、ごめんすぐ行くよ!それじゃガルダさん、僕は行きますね!」
「おうよ!試験頑張れよ坊主!お前が入軍してくんのを楽しみにしておくぜ!」
「はい!ありがとうございます!それと僕はライドですよ!!」
はっはっは、と最後までいい笑顔だったガルダに別れを告げ、王都へと足を踏み入れる。
門を抜ければ試験場はすぐ右にある。
「魔法かぁ...」
試験とはまた違った、別の楽しみに胸を踊らせながらライドとメレーナは試験場へと向かっていくのであった。
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「着いたわね...ここが試験会場...」
「うん、なんだか、変な雰囲気だね...」
ライドたちが到着したのは、本日行われる入軍試験の試験会場である王立兵士調練所。
場所は兵士の宿舎のすぐ隣で、馬術を訓練するためのレーンや、2人1組での模擬戦を一度に1000組が行っても余裕なくらい広いグラウンドが5つあり、兵士たちはここで毎日己を磨き汗を流しているのだ。
そんな場所の雰囲気にあてられてか、集まった若者達も少なからず高揚していて、調練所は異様な熱気に包まれていたのだ。
「私が受ける後方支援科の会場は、隣のグラウンドみたいね。」
「そうみたいだね。それじゃあここで一旦お別れだね。」
「そうね!ライド、頑張ってね。さっさと試験に合格してそこでまた会いましょう。」
「もちろん!お互いに、ね!」
軽い別れを告げ、ミレーナが隣のグラウンドは向かうのを見送ると、ライドは改めてグラウンドへ向かい、肺いっぱいに空気を吸い込んでこう思った。
(土と、汗の香りが混ざった、泥臭いグラウンド...父さんもここで、試験を受けたんだ。)
「よしっ、やるぞ!」
なぜか無性に嬉しくなってつい大声が出てしまいしまったと思いながら辺りを気にするライド。
しかし、笑うものは誰も居らず、皆静かに試験の時を待っていた。
ああ、ここにいる奴らはみんなライバルなんだ。
そう改めて認識をして気を引き締めるライドは、
いつの間にかこの緊張した空気を心地よく感じていた。
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「諸君よく集まってくれた。私は軍隊長のバッカスだ。これから始まる、入軍試験を仕切らせてもらう。」
朗々として威厳のある、良く響く声。
バッカスと名乗る壮年の男は軍隊長と呼ばれる役職で、その隊の中では騎士に次ぐ権限を持っている。
まとまった兵士を率いることもあるので、騎士に1番近い役職であるのだろう。
間近で兵士の迫力を体感したライドは早くも武者震いしていた。
「それでは早速だが試験を始める。君たちにはこの水晶に手を乗っけてもらいたい。」
バッカスがそう言うと、試験管らしき兵士達が近くに設置していたテントの中から水晶玉と、机と筆記用具を取り出し始めた。
グラウンド内の受験者達がこれから何が始まるのか、とざわついていると
「それでは1番から10番まで、水晶の前まで行け!」
「「は、はい!」」
呼ばれた受験者達が慌てて水晶の前まで行く。
そして、水晶の上に手を乗っけると水晶の色が変わり、それを見た試験管が紙に何かを書くと右手を挙げる。それをバッカスが確認すると
「よし、全員合格!明日から兵士だ!端っこで並んでおれ!」
と、あっさり合格してしまった。
これにはグラウンド内も騒然とした。
「え、今ので終わり?」
「なんだよ、何にもしてねーじゃん」
「いや、水晶玉の色が変わってたぞ、あれで何かを判定してたんだ。」
「黙らんか!!!
ーーー次、11番から20番、行け。」
バッカスの一喝で皆口を塞いだが、疑問が解決したわけではなかった。
始まる前とはまた違った、異様な雰囲気がグラウンドを包んでいた。
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「次、4021番から4030番!」
どんどんとライドの順番が近づいていた。
しかし、先程までとはうって変わりグラウンドは楽勝ムードとなっていた。
というのも、最初の兵士から今まで不合格者が出ていないのだ。
試験内容も数秒で終わる簡単なもので、合格した後にお互いに自分が何色の水晶に変化したかを確かめ合うくらいに雰囲気が緩んでいた。
「次の10人、来い!」
いよいよライドの番である。
ライドはもっと肉体的に厳しい試験が待っていると思っていたので、正直肩透かしを喰らった感があるが、これはこれで胸踊るものだった。
何せ、魔法に関することであろうと思っていたからだ。
水晶に手を置いた時に色が変わる現象。あれは、先程の門番のガルダが言っていたように魔法の適正に関することなのだろう。
どの色がどの適正かなどライドには全くわからないが、それでも自分がどんな色になるのかが楽しみだった。
「さあ、ここに手を」
試験管に促され、期待とともに手を乗せる。
それと同時に発光する水晶玉
ーーーしかし、それだけだった。
「こっ、これは...」
「え、ど、どうしたんですか...」
試験管の驚いたような声と表情に、ライドは一気に不安になった。
今まで見たきた中で、色の濃淡はあれど必ず色は着いていたのだ。
なのに、無い。自分の手のひらの中の水晶は光るだけで反応してくれない。
ライドをどうしようもない不安が襲う。色は?なんだこれ?どうして自分だけ?
自分の頬に冷や汗が伝うのすら感じることができなかった。
そして、試験管は真面目な顔になると、試験が始まって初めて左手を挙げた。それが意味するものが、分からない。初めて見たからだ。
それを確認したバッカスは...
「4115番、失格。残りは合格だ。」
ライドは目の前が真っ白になった。
3話目投稿です!
序盤はどうしても物語が進まず説明的になってしまいますね(^^;
今週中に世界地図張りますね!