2話 道端の少女
「いーーーーーい天気だなぁっ!」
声色だけで、雲一つない快晴なのだと思えてしまうようないい声を出すのはライド・イガリヤという少年。
今年で15歳である。
ライドの家は王都の少し外にある50人ほどが住んでいる小規模自治区である。
少し商店があるくらいで他は全部民家であるが、ライドと同じ年齢の青年は居ないため1人で試験場へ向かっている
「試験場までは2時間くらいかな、少しのんびり行っても間に合うな」
彼が向かっているのは王都の中心にから少し外れた、王都直営の調練所である。
そこで毎年、桜の咲く頃に行われるのが、天恵騎士団直属軍への入軍試験だ。
天恵騎士団というのは、入軍試験を通過し、兵士の素質があると認められたもの。その中でも約1000人に1人の割合で授かるという能力「天恵」を獲得し、なおかつ兵を率いる事が出来るものが初めて入団出来るものである。
そして天恵騎士団が率いる軍こそが天恵騎士団直属軍である。
「お、オヤジさんおっすぅー!」
その軍に入り、騎士になることを目標とするライドにとって、入軍試験の日は待ちに待った一日であり、自然と声も明るく大きくなっていた。
「おう、ライドじゃねーか!なんだなんだ元気いーじゃねーの、彼女でも出来たんか?」
「なっ、そ、そんなんじゃないし!今日は天恵騎士団直属軍への入軍試験日なんだよ!ずっとこの日を待ってたんだ!」
「なんだよムキになってちょっとからかっただけじゃねーの!それにしてもお前も試験を受けれるようになったんだよなぁ、大きくなったなぁ!」
そういって悪戯そうに笑いならがライドをからかったのは、幼いライドとその母が心中してしまいそうになった所を助けた近所の八百屋のおじさん。通称オヤジさんである。
ライドの母が施設送りになった後1人になったライドを面倒見ると言い、つい最近まで飯などの世話をしてくれたライドにとって恩を返しても返しきれない人だ。
「ほんと、大きくなったなぁ...」
「なにしみじみしてんのさオヤジさん!これから試験なんだし明るく送り出してよ!」
「おう...おう!ライド!途中でくたばんじゃねーぞ!」
「任しといてよオヤジさん!それじゃあ行ってくるね!」
そうしてまた歩き出すライド
「オヤジさん...今までほんとうにありがとう。立派な騎士になったら絶対最初に言いに行くから。」
胸にこみ上げてくるものに耐えられそうになくなって足早に立ち去ろうとしていた。
しみったれていたのはライドの方だったのだ。
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「....」
「ん?」
集落を出て、王都へ続く道を進むライド。
その途中でみつけた。見つけてしまった。
道の半ばで座禅のような格好でうずくまる、推定少女。
赤い頭巾を被ったその姿は、土と草しかない道の中では目立ちすぎていた
「...」
「...」
この王都への道では魔物は出てこない。そもそも魔族の領土やその近隣にしか生息していないのだ。
なので、警戒すべきなのは盗賊や犯罪者だが、ここは王都の近くなのでそうそう現れない。
かといって、道のど真ん中で眠りこけるというのはあまりに無防備だ。ましてやそうしているのが少女などとは。
「...」
「あのー...」
普通なら無視してしまうか攫ってしまうか、という状況だがここは騎士志望のライド、とりあえず安全を確認してみることにした。
「大丈夫ですかー...」
「...」
「...」
「...」
「...わぁ!?」
「はいぃ!?」
「おぉ!?」
自分が脅かしにいったのだが、反応が良すぎたため自分で驚くライドであった。
声の色で女の子だとわかったが、深くかぶった頭巾(正確にはフード付きのポンチョ)、長くゆったりしたスカートにブーツ。さらには真っ白な手袋まで着けており、全然人相がつかめないのであった。
とはいえ、ばたばたと胡座を崩しながら、女の子は起きた。
「あ、あのぉ!私、あれ...」
「と、とりあえず落ち着いて!君はここで何をしていたの?」
「あ、えっと私は入軍テストがあるから王都に行こうと思ってて、そしたら、」
「そしたら?」
「お母さんが持たせてくれたお弁当を忘れちゃって、どうしようって思ってたら眠っちゃってたのよ〜〜!!」
「ええぇ...な、ならこれを食べなよ!」
呆れた理由だ、と思いながら持っていた果実を差し出す。助けられるなら助けない理由がない。しかも気になることがある。
「ありがとう!私、燃費悪くって途中で何か食べないと持たないのよ...美味しいわねこれ!」
「でしょ!うちの近くの八百屋さん自慢のコリンなんだ!」
コリンとは赤くて大きくて丸い果物で、瑞々しくて甘いのが特徴。腹持ちも良し。
「はー美味しかった!ご馳走様、ありがと!」
「!」
今まで頭巾を被っていたり、俯いていたりでよく見えなかったが、燃えるようなオレンジの髪に大きく整った瞳。笑顔が良く似合うとても可愛らしい女の子だ。
そんな女の子に上目遣いで、さらに笑顔でお礼をされてドキッとしない男子はいないだろう。ライドも例外ではなかった。
「い、いえ、どうしたしまして。ところで君も入軍試験に?」
「そうよ!私は後方支援科を受けるわ!それから私の事はミレーナって呼んで!」
「僕はライド!兵士科を受けるんだ。ミレーナは後方支援科かぁ、何を担当しようと思ってるの?」
入軍試験には大きく2つの種類に分けられる。
実際に戦場で戦ったり、盤上で作戦を構築したりする兵士科。
それ以外の物資補給や武器の調達、資金の運用などを担当する場合は後方支援科を受ける。
なので後方支援科といっても一概に何をするかは決まっていないのだ。
「うーん、一応軍に入る予定ではあるからあんまりホイホイ教えるのもだめよね...お互い入軍出来たら教えるってことにしましょうよ!」
「それもそうだね!これは入軍試験が楽しみだなぁ」
「まだ入軍も決まってないし、大したことでもないわよ?」
「そうだね、まずは入軍しなきゃだよ...試験はどんな内容なんだろう」
「兵士科と後方支援科はだいぶ違う内容のはずよね...それは歩きながら考えましょうか」
切り替えはやいな、と思ったライドであった。
出会い方がアレなだけで本当はしっかりした子なのかも?
腹「ぐ〜〜〜っ」
「...」
「...」
「コリンもう一個、いる?」
「...うん」
...ただの食欲旺盛な女の子だったようだ。
2話目ですー
新キャラを出すのって難しいですね(^^;
2人目でこれは前途多難...
ご指摘、ご感想お待ちしております!!