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ロスト・ドラゴン・ヒーローズ  作者: モアイ
最終章 神竜黙示録
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プロローグ

地球のどこか-2億5000万年前 ペルム紀末期


 荒廃の跡が果てしなく続いている。

 木々は焼け、山々は燃え上がり、海は青紫色に濁っていた。草木や潮の香りも今は消え、ただ焦げた匂いが漂うだけだ。

 大地には無数の死骸が転がっている。それらは全て、ドラゴンのものだった。かつて圧倒的な力でこの星を支配した種族は、今や滅亡の危機にある。光が消えた彼らの目からは、一様に無念の情が溢れていた。

 同族の亡骸の上を、1体のドラゴンがゆっくりと歩いていく。黒以外の色を持たぬその鱗は、ある種の清らかさすら感じさせる。黒竜は悲しげな瞳で、亡き同胞たち1体1体を見やった。

 "イーラ"……黒竜はそう呼ばれていた。イーラはかつて別の世界からこの星に降り立ち、ドラゴンという種族を誕生させた。彼にとってドラゴンは我が子であり、兄弟でもあった。

 数億年に渡って続いた繁栄は、間もなく無に帰そうとしている。イーラをこの世界に放った存在……ドラゴンにとっての「神」が、彼らを滅ぼすべく戦争を仕掛けたためだ。終わりなき戦争は全ての大陸を焼き尽くし、生命の殆どを死に追いやった。

 イーラは生き残った者を探し、地に伏したドラゴンの群れを見渡す。地平の彼方まで何千という亡骸が連なっているが、動くものは見当たらない。イーラは悔しそうに視線を落とし、喉を鳴らした。


「イ……イーラ様……」


 その時、掠れた声がイーラの耳に入った。慌てて目を凝らすと、2〜3の骸を挟んだ先にまだ息のあるドラゴンが見えた。


「アーバ……!!」


 イーラは思わず仲間の名を呼んだ。死骸を掻き分け、すぐさまアーバのそばに寄る。


「我が王よ……良かった……生きておられたのですね……」

「ああ……我の心配はない」


 アーバは辛うじて意識があったが、命が尽きようとしているのは明らかだった。

 戦争が起こるまで、ドラゴンは死とは無縁の生物であった。永遠の命があったために、"死"という概念すら知らない者も多かった。だが現在では、死は極ありふれた身近なものへと変わっている。


「王よ……我らは……間違っていなかったのですよね……? 我らは、決して滅びませんよね……?」


 アーバは縋るように聞く。


「ああ、その通りだとも。我々は決して滅ぶことはない。たとえ神であろうと、我々を止めることはできない……!!」


 イーラは声を震わせる。死にゆく同胞を、少しでも安堵させてやろうとした。


「我が種族こそが……この星の頂点だ……」


 翼の手で、そっと同胞の顔を撫でてやる。アーバは翼が千切れ、腹が抉れ、元の体色が判らないほどに全身が青紫色の血に染まっていた。


「王よ、貴方は……我らの誇りです……」


 アーバは安心したように息を吐き、ゆっくりと瞼を閉じる。それが、アーバの発した最期の言葉となった。

 イーラは歯を食いしばりながら、死んだ同族の体に顔をうずめる。こういった出来事自体は、もう何百回何千回と経験したことだ。だが、何度経験しようと慣れることはなかった。


 ――――グォォォォォォォォォォォォォ!!!


 怨み、哀愁、そして憎悪の籠った咆哮が大気を震わせる。種族の破滅は時間の問題だった。イーラ自身も深く傷ついているため、もはや地中深くへ身を隠す以外道はない。

 空には黒煙が常に立ち込め、太陽の光も殆ど遮られている。イーラはひとしきり天に吠えると、怒りのままに神へ向かって叫び声を上げた。


「神よ……いつの日かドラゴンは地上に舞い戻り、再び支配者の座に返り咲く!!」

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