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第38話 共同戦線

 インフェルノドラゴンは体を起こし、足と翼を使ってゆっくりと歩き始める。辛うじて残っていた建物も、小石のように踏み潰されてしまう。シロナガスクジラの数倍はある巨体が闊歩する光景は、不気味なことこの上ない。その鈍重な動きすらも、恐ろしさを演出するのに一役買っていた。


「中佐……やはり貴方は優秀な軍人だな。聞いていた通りだ」


 富士田はこの場にいない知人に向けて呟く。

 まさか人間に不覚を取ってしまうとは、富士田にとっても意外だった。窮鼠猫を噛むとはこのことか。


「さて、と……」


 富士田は、遠くにいる2体のドラゴンに目を凝らした。彼らはどうやら、廃墟と化した都市部に向かっているようだ。


 ――――また何か妙案を思いついたのかな? 式条中佐……。


 富士田は僅かな期待を抱きながら、再び空に飛び上がった。







「で、こんな作戦本当に上手くいくのか?」


 白いドラゴンが、式条に向かって尋ねる。

 彼らは今、みなとみらい21にある高層ビルの屋上にいた。周囲のビルは倒壊したか、人間が近づけないほどの火の手が上がっている。故に、"作戦"に使えるビルは今いるビルだけだった。


「祈るしかないだろうな……」


 式条は端的に答える。正直のところ、作戦の成否は運任せだった。

 隣に鎮座する梵は改めて、自分が生まれ育った街の情景を見渡していた。


「酷いな……」


 ビル群は燃え上がり、高架橋はあちこちで寸断され、横浜駅には電車が突っ込んでやはり炎が上がっていた。

 梵自身、故郷への愁いなどは微塵もなかった。それでも、見慣れた街が無残に滅びゆく様には、幾ばくか胸を打たれてしまう。


本部(HQ)、トマホークミサイルをありったけ送れ。ターゲットはこちらで指定する」


 式条は無線に指示を飛ばす。彼の部下たちも、屋上のあちこちへと展開していた。


「雪也、作戦通りに頼むぞ」

「はいはい」


 雪也は飛び立ち、別のビルの方へと向かっていく。

 式条はそれを見送ると、梵の方を見上げた。


「梵、ありがとう」

「……え?」


 一体何のことか分からず、梵は呆然とする。


「美咲を救ってくれたことだ。さっきで2度目になるな」

「2度目?」

「最初に美咲と会った時も、誘拐犯から助けてくれたんだろ?」

「……ああ、そういえば」


 そんな話をしながら、梵はドラゴンの変身を解いた。一旦人間の姿に戻り、再びドラゴンに変身することで、全身の傷を完治させられるのだ。


「戦いが終わったら、もう一度美咲に会ってやってくれ。あいつはずっと……お前を気にかけていた」

「……うん」


 梵は小さく頷くと、再びドラゴンとなって上空へと飛び上がった。

 インフェルノは、既にこちらへと迫ってきている。式条はグレネードランチャーをリロードしながら、それをまっすぐに睨んでいた。






防衛省 中央指揮所


「中将、ミサイル駆逐艦"しぐれ"から、トマホーク7発が発射されました」

「よし、式条たちに知らせろ」


 木原はUAVからの映像を凝視しながら、毅然と指示を出す。

 式条がどんな作戦を立てているのか、木原には見当もつかなかった。だが式条という男は、木原が知っている限り最も優秀な軍人だ。これまで無茶をすることはあれど、任務を果たせなかったことは一度もない。


 ――――あの男なら、必ずやインフェルノを殲滅してくれる。


 木原はそう信じていた。

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