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第37話 攻防

「ソヨ! 何サボってたんだ」

「ごめん」


 梵が戻った時、雪也は全身が傷つき、純白の鱗もところどころ黒く焦がされていた。呼吸も荒く、疲労が目に見えてわかる有様だ。

 対する富士田はまだまだ余裕があるようで、サメのような牙を露出させて邪悪な笑みを晒していた。


「あの野郎……ヘラヘラしやがって……ハァ……ムカつくよな」

「雪也、聞け。あいつの弱点は口の中だ。そこに火球を撃ち込めば、きっと勝てる」

「そうか、アメジストを倒した方法だな! で、作戦とかあるのか?」

「考えてない」

「そっか!」


 富士田のドラゴンは滞空したまま、動く気配がない。梵たちの動きを待っているようだ。

 青竜と白竜は再び敵に向き直る。


「てか、さっきの女の子誰だ?」

「あぁ、あの子は美咲。お前に会う前、俺を助けてくれた子だ」

「へぇ……今度紹介しろよ」


 梵と雪也は、同時に火球を放とうとする。しかし、インフェルノの方が先に業火を吐いた。


「ソヨ、かわせ!」


 梵たちは難なく火炎を回避する。

 しかし、インフェルノの狙いは別にあった。火炎の射線上には、タワーマンションがあったのだ。


 ――――まずい!


 マンションの屋上には、まだ兵士たちの残っていた。

 2体のドラゴンはすぐさま彼らの元へと飛んでいき、傾斜を始める屋上に降り立った。その場にいた式条は、反射的にその身を硬直させる。


「死にたくないなら乗れ!」


 梵は身を屈めながら叫ぶ。しかし兵士たちは躊躇しているのか、動く気配がない。


「早く!!」


 苛立ちを覚えながら再度怒鳴ると、彼らはようやく梵の体をよじ登り始めた。雪也の背中にも、数人の兵士が乗り込む。

 2体が飛び立ったと同時にマンションは倒壊し、破壊音と共に大量の土埃が巻き起こった。


「サファイア……どうして?」


 式条は思わず、自分が乗るドラゴンに尋ねた。

 このドラゴンが、自分たちを助けるなど予想外だったからだ。


「あいつを倒すには、あんた達がいた方がいい。それに……あんたは美咲の父親なんだろ?」


 梵がそう言うと、式条は言葉を失い、申し訳なさそうに視線を落とした。


「中佐! インフェルノが来ます!!」


 刹那、兵士の1人が叫んだ。

 梵が慌てて振り返ると、喉奥に炎を宿した巨大なドラゴンが、すぐ横まで迫ってきていた。

 背中に人がいるため、回避も反撃も叶わない。富士田はまさしくそれを狙っていたのだ。

 兵士たちは蛇に睨まれたカエルそのもので、一様に凍り付いてしまっていた。

 ただ1人、式条を除いては。

 式条は落ち着いてライフルのモードをグレネードランチャーに切り替え、インフェルノに向けて引き金を引く。

 榴弾はインフェルノの口に直撃し、喉奥で花火のように炸裂した。


「グァガァァ!!?」


 巨大なドラゴンは口から黒煙を漏らし、バランスを失って墜落していく。その芸当には、梵も流石に驚きを隠せなかった。


「あんた……中々やるな」

「俺たちだって軍人だ。いつまでも腰抜けじゃいられまい」


 ひとまず危機は去った。雪也は何気なく、自分たちの背中に乗る人間を見る。


「ん……? あーーーーーーっ!!!」


 雪也は思わず大声を上げた。青竜の背に、見覚えのある顔があったためだ。


「お前! 中見原で俺を撃った奴だろ!!?」


 当時の出来事は、はっきりと記憶に残っていた。怒りが胸の内からこみ上げてくる。


「テメェのせいで酷い目に遭ったぞおっさん!! ふざけんなよ!!」

「ちょっと待てって! 今は富士田を倒すために協力してるんだ。そういうのは後にしろ」


 梵の制止も虚しく、雪也の怒りは収まらない。


「お前もこんな奴信用するなよ! どうせこいつは、用済みになったら俺たちを捕まえようと……」

「そんなことはしない。命に賭けて誓う」


 雪也を遮って宣言したのは、式条だった。

 だが、白竜はなおも疑いの眼差しを向け続ける。


「そんな言葉、信じられるかよ」

「お前たちを脅威と見定め、サーガ機関に協力した結果、この悲劇が起こった。俺も、俺の娘も、お前たちが来なければ死んでいた。俺は信じるものを誤った大馬鹿者だ。お前たちがいなければ、インフェルノを倒すこともできない。だから頼む。今だけでいい……その力を貸してくれ、アルビノ」

「…………」


 白竜はそれ以上、怒りを露わにすることはなかった。しばしの沈黙の後、大きく喉を鳴らす。


「……俺はアルビノじゃない。永代雪也だ。覚えとけ」

「ああ、分かった。雪也」

「あと、お前の乗ってる奴は海成梵だ」

「覚えておこう」


 人間を乗せたままでは戦えないため、2体のドラゴンは一旦敵から距離を取る。といっても、市内に安全な場所など存在しなかったが。


「で、どうすんだ? どうやってあいつに勝つ?」


 雪也の問いに誰もが押し黙る中、式条が口を開く。


「一つだけ、考えがある……」

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