2/126
プロローグ
長野県 中見原町-2025年8月25日
沈みかけた夕陽が、空を赤く染めている。連なる山々の向こうに太陽が落ちていく中で、"何か"が大空を縦横無尽に移動している。翼を羽ばたかせ、地上からは殆ど米粒大にしか見えないような高度を、支配者の如く飛び回る。
確かにそれは生物であった。だが、それは地球上のいかなる生物とも違った。
20mはあろうかという巨体を持ち、胴体には蝙蝠を彷彿とさせる翼を、口には鋭利な牙をびっしりと備えている。
その姿を例えるならば、怪物……悪魔……。
だが最も適切なものは、「ドラゴン」であろう。
そのドラゴンはいつの間にか滞空し、眼下に広がるのどかな住宅街をじっと見下ろしている。ドラゴンを象った巨大な影が家々を覆う。
透き通るような白い鱗を輝かせながら、ドラゴンはゆっくりと息を吐く。
悪魔のような容姿を持った怪物が、人間の町を見下ろす光景は、さながら世界の崩壊と闇の時代の到来を表しているかのようであった……。