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ロスト・ドラゴン・ヒーローズ  作者: モアイ
最終章 神竜黙示録
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第30話 攻防戦

 式条はいったん戦線を離れ、遠目から戦況を読んでいた。

 状況はこちら側に有利だった。港区上空から敵は一掃され、作戦は順調に進んでいる。ドラゴンとなった兵士たち、そして艦隊からの巡航ミサイルの支援により、イーラ軍は今や総崩れだ。


「順調ですね! このまま一気に押し込みましょう!」

「油断するな寺島。一筋縄で行く相手じゃない」


 式条は自身の騎乗するドラゴンと言葉を交わす。

 寺島を諫めはしたものの、式条自身も内心は高揚していた。D.G.ウィルスの効能が、まさかここまでとは……。朝霧博士には感謝してもし切れない。


「鞍馬、聞こえるか!?」


 式条は無線機に叫ぶ。


『聞こえてます、大佐』

「メギド作戦、フェーズ2へ移行。繰り返す。フェーズ2へ移行」

『了解、行動を開始します』


 作戦のフェーズ2……つまり、民間人救出の開始だ。鞍馬率いるオスプレイの編隊が解放地区へ進入し、出来る限り多くの人々を安全な場所まで輸送する。たとえ再び戦況が悪化しても、全員の死亡は防げるというわけだ。


 ――――もし梵と雪也がいれば、状況はもっと好転しただろうに。


 嫌でもそんなことを考えてしまう。

 結局のところ、最もドラゴンとしての経験が豊富なのはあの2人なのだ。何度も死線を潜り抜けているとなれば尚更だ。最終戦争の最中にあって、それだけが何より悔やまれた。


「おーい! 式条のおっさん!」


 不意に、知った声が耳に入った。式条は信じられない思いで振り向く。

 地上から、1体のドラゴンが式条の方へと飛んでくる。この場にいるはずのない、白いドラゴンだ。だが、その姿は決して幻影などではなかった。


「雪也!?」


 白竜は式条と寺島の前に滞空する。

 こんな奇跡があろうか。勝利の要となり得るドラゴンが、今まさに眼前にいる。


「ど……どうしてここに? と言うより、今まで何をしてたんだ?」


 式条はてっきり、雪也はグアムで待機しているものと思っていた。だからこそ、目の前の現実が信じ難かった。


「あぁ……船に乗ってた時、こっそり抜け出して東京に戻ったんだよ。美咲と一緒にな。悪いけど、大人しく待ってるのは性に合わない」

「なっ……!?」


 突き付けられる衝撃的な事実に、式条は一瞬言葉を失う。


「ちょっ……バカも大概にしろ! これは戦争なんだぞ!!」

「知ってるさ。だからここへ来たんだ。それに、ソヨのこともあるしな」

「じゃあ……お前は梵に会ったのか?」


 雪也は控えめに頷く。


「さっきまで戦ってた」

「じゃあ、やっぱりあいつは……!」

「違う。あいつは、おっさんが言ったような危険な存在なんかじゃなかった。本気で戦ったから解るんだ。まぁ、仲直りはこれからだけど」

「お前は、殺さずに梵を止めたのか?」

「当たり前だ」


 式条は素直に感心していた。

 梵のことは、もうどうしようもない……そう諦めかけていた。木原中将からも、"サファイアドラゴンは敵だ"という趣旨の報告がされていた。

 だが雪也は、そんな固定観念をひっくり返してしまったのだ。完全ではないにしろ、梵との和解の道を見つけ出したのだろう。やはり雪也にはドラゴンの力とは無関係の、他者に変化をもたらす何かがあるのかもしれない。

 とはいえ、褒められる点ばかりでもなかった。


「それはそうと、さっきの話を聞いた限りだと、美咲もここに連れてきたみたいだな!」


 式条は怒りを抑えながら尋ねる。


「ああ。今は地下鉄にいるはずだ」


 雪也は悪びれもせずに答えた。


「お前な、こんな危険な場所に俺の娘を連れてきて……!!」

「来たいって言ったのは美咲本人だ。あいつだって、色々と悩んでたんだぞ。"危ないから黙って船にいろ"なんて言えるかよ」

「それでもなぁ……!」


 と言いかけたところで、雪也を責めるのは筋違いだと悟った。

 美咲と梵は、自分が留守の間も共に過ごしていたのだ。2人の間に深い絆が築かれるのは自然なことだ。そんな特別な友人を、美咲が放っておくはずはない。美咲はいつだって友人想いだ。

 そもそも、美咲にしっかり目をかけていなかった自分が悪いのではないか。雪也に対しては、むしろ感謝しなければならないはずだ。


「……とにかく、お前がいたのは幸運だった。イーラに勝つには、お前の力がどうしても必要だ」

「おうよ! 俺もあの野郎には借りがあるしな」


 寺島、式条、そして雪也は、数km先にいる黒い巨竜を睨んだ。







「おいイーラ! お前のレーザーで敵まとめて吹っ飛ばせよ!」

「無理だ。今撃てば味方を巻き込む」


 焦りを見せるブリードに対し、イーラは冷静に返す。


「どうする!? ここまで追い詰められるなんて、想定外もいいとこだぞ!! とりあえず退却して、増援と合流するべきだ!!」


 ブリードがさらに声を荒げる。自軍の劣勢という有り得ない状況を前にして、ドラゴンの副官は狼狽していた。

 だが、王は決して動じなかった。


「見ろ。奴らはミサイルを使って、自軍をバックアップしている」


 巡航ミサイルは絶え間なく飛来し、ドラゴンに正確に命中し続けている。その爆発で怯んだ隙に、人類側のドラゴンによって体をバラバラにされるのだ。

 ならば、ミサイルさえ防げれば戦況を一変させることもできるだろう。


「なるほど。ミサイルを着弾前に撃ち落とすってことか!」

「それでは芸が無いだろう」


 弧を描いた口元に、赤い稲妻が渦巻く。程なくして紅色の光線が、流星のように水平線の彼方へと放たれた。







 赤い閃光は式条と雪也の頭上を通過し、海の向こうへと消えていく。夜更けの曇天が光に包まれる様は、突如として昼が訪れたかのようだ。


「何だ!?」


 雪也がたじろいだ時にはもう、黒雲の支配する空が戻っていた。まるで雷鳴の無い雷だ。

 式条もまた、その現象に戸惑っていた。光はイーラから発せられていたが、味方への被害は確認できない。一体、何が起こったのだろうか……。


『メーデーメーデー! こちら航空母艦いずも! 正体不明の攻撃を受けた! 甲板が爆発炎上! 救援を求む!』


 断末魔のような無線通信が入ったのは、その直後だった。


『こちら航空母艦やましろ! ブリッジが融解している! 繰り返す! ブリッジが融解している!!』

『ダメだ! 艦が傾斜してる……隔壁の閉鎖が間に合わない!』

『中に16人が閉じ込められてるんだ! さっさと消火器を持ってこい!!』

『区画が浸水してるぞ! 直ちに退艦せよ!!』


 数百km彼方にいるはずの艦隊から、混乱と絶望の通信が次々に入る。式条はようやく事態の全貌を把握した。先ほどの光は、艦隊を狙った攻撃だったのだ。


『式条大佐、聞こえますか!?』


 今度は鞍馬からの無線が入る。


『いずも型空母5隻が全て大破、随伴艦にも甚大な損害! ロナルド・レーガンも、船体が真っ二つに裂けています!』

「お前は無事なのか、鞍馬!?」

『紙一重の差でした。しかし、オスプレイは全機健在です』

「不幸中の幸いだな……作戦を続行しろ。ここで怖気付くわけにはいかん」

『ご心配なく。覚悟はとうに出来ています』

「その意気だ」


 通信を終えると、式条は白竜の方に視線を向けた。


「雪也、手を貸せ。あの生きた化石を土に還すぞ」


 雪也は歯茎を見せ、ニヤリと笑う。


「おう。あいつの気取った羽を毟ってやろうぜ」


 雪也と寺島は並んで飛び、最後にして最大の敵へと挑んでいった。








 遥か上空では、今もドラゴンたちが戦いを繰り広げている。きっと雪也も、あの中で戦っているのだろう。

 梵は未だに、砕けたアスファルトの中に身を横たえていた。つい先刻まで自在に翔ていた空も、今では手の届かない遠い世界に思える。

 雪也が、イーラが、人類が、ドラゴンが……生存を賭けて戦っているというのに。自分だけが、この場に崩れ落ちている。


 ――――全く……どうしてだよ。どうして俺なんかが、こんな力を持っちまったんだ……。


 もっと相応しい人間がいたはずだ。もっと、己の信念を持った気高い人間が。少なくとも他の誰かなら、こんな無意味で無様な結末は迎えなかっただろう。

 ふと、誰かの足音が耳に入った。砂利を踏む音が、穏やかなテンポで梵に近づいてくる。


「ソヨ、大丈夫?」


 頬を薄く汚した少女が、恐る恐る梵の顔を覗いてくる。それは、梵もよく見知った少女だった。


「美咲……?」

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