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ロスト・ドラゴン・ヒーローズ  作者: モアイ
最終章 神竜黙示録
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第29話 本当の思い

「おい、あれ見ろ!」


 雪也の友人の1人である翔悟が、ビルの屋上を指差す。

 その先には、美咲がよく見知った白いドラゴンがいた。どうやら深い傷を負っているらしく、再び飛ぶことすらできない様子だ。やがてドラゴンは眩い光を放ちながら、その場から消滅する。


「おい……消えたぞ!?」

「あれ、雪也だよな!? 死んじまったのか……?」


 少年たちは口々に困惑の声を上げる。彼らの中で状況を正確に把握できていたのは、美咲だけだった。


「多分、傷を治すために変身を解いたんだと思う」

「えっ、傷を……何だって?」


 拓巳たち6人は、釈然としない表情を浮かべる。しかし今の美咲には、事情を事細かに説明できるほどの余裕はなかった。ただビルの屋上に目を凝らしながら、状況の推移を見守る。

 直後、青いドラゴンが勢いよく屋上に着地した。まるで雪也に、追い討ちを仕掛けるかのように。


「ソヨ……!!」


 美咲の声が震える。友人たちの凄惨な現状に、無意識に体がすくんだ。


「あいつ……雪也を殺す気だ!」


 危機感に駆られたのは、少年たちも同じだった。


「おい冗談だろ……やめろクソ野郎!!」

「俺たちが相手になってやるぞ! こっち向きやがれ!!」


 思いつく限りの挑発を口にし、少年たちは青竜の気を引こうとする。ビルがあったのは数百m先であり、本来声が届く距離ではない。それでも少年たちは、喉が裂けるほどの怒声を絶えることなく放ち続けていた。








「あいつらを消せば……お前の未練も消えるんだな?」


 その問いに、雪也は目を見開いて答えた。明らかに動揺のサインだ。血塗れのまま何かを訴えかけているが、言葉ではなく吐息が漏れ出るばかりで、意味を成さない。


「なぁ雪也、死んだ後も途切れない絆って……あると思うか?」


 梵は返答を待たずに、翼を大きく広げる。これから邪魔者を始末しに行くという、何よりの意思表示だ。

 ビルから飛び立とうとする梵。しかし、その足が地を離れることはなかった。どこか遠くから、声が届いた気がしたためだ。


「俺たちが相手になってやるぞ! こっち向きやがれ!!」

「雪也から離れろ! 青いの!」

「雪也ぁぁぁぁ!!!! 死ぬな! 頑張れ!!」


 その声は決して空耳ではなかった。

 人間の聴力では聞き取れないような音も、ドラゴンのそれならば容易に感知できる。当然、聞きたくもない挑発や罵倒でさえも。


「ノコノコと姿を現すとはな……間抜けな奴らだ」


 飛んで火にいる夏の虫……そんな諺が脳裏に浮かぶ。

 眼下の公道に、必死に叫ぶ少年たちの姿が見えた。こちらもドラゴンの驚異的な視力により、容易に顔の認識が可能だ。見紛うはずもない。彼らは、今しがたターゲットとした少年たちであった。


 ――――あいつら、また俺を悪者みたいに……!!


「待ってろ……望み通り、今そっちに行ってやるぞ」


 梵は邪悪な破顔を見せる。

 そうして屋上を去ろうとした時、雪也がおもむろに風穴の空いた上体を起こした。


「待て……あいつらには……手を……」


 止め処なく出血する傷口を、両手で強引に塞ぎながら。雪也は激痛に顔を歪めつつ、どうにか言葉を紡ぐ。


「残念だな。お前が首を縦に振れば、あいつらも少しは延命できたかもしれないのに」

「やめろ…………」

「お前の親友だった連中だ。きっと良い奴らなんだろう。ただ、少しばかり出会い方が悪かった」

「やめろぉぉぉぉ!!!!」


 雪也は割れんばかりに叫びながら、その姿を白竜へと変える。そして、目の前の青いドラゴンへと食らいついた。


「ぐっ!!?」


 突然の反撃にバランスを失い、梵は雪也と共にきりもみ状態となり、別のビルへ激突してしまう。ガラスとコンクリートを砕きながら、2体はなおも格闘戦を続ける。


 ――――こいつ……まだ力を残してたのか!?


 雪也の力は、今の梵より遥かに劣るはずだった。しかしそれでも、雪也は決して折れなかった。強靭な意志をもって、青い鱗に噛みつき続ける。

 この力の根源は、おそらく"仲間との絆"だろう。


 ――――まただ。また"友情"が、俺の前に立ちはだかった……。


 以前にも幾度となく経験したことだった。石川の言葉が、脳裏に再び蘇る。


 "楽しいからだよ。お前のおかげでクラスが団結してるんだから、誇りに思え"


 自分には仲間がいる……その確信は、人をどこまでも強くし、どこまでも残酷にするのだ。


「放せ! クソッ……俺から離れろ!!」


 梵と雪也は至近距離から、互いにレーザーや火炎を撃つ。鱗が抉れ、ツノが折れ、翼が焼け……ものの数秒のうちに、2体は竜とも呼べぬ肉塊へと変わり果てた。

 2つの巨体が地面に墜落し、アスファルトを叩き割る。その頃には双方とも、ドラゴンの姿を維持することすら不可能になっていた。

 人間態となった梵は、鋭い眼光で相手を睨みつける。雪也の方もまた、少年の姿に戻っている。


 ――――何だよ……やっぱり、お前も石川と同じじゃないか!!


 梵は怒りのままに、雪也に向けて飛びかかる。2人の少年が、アスファルトの陥没の中で取っ組み合った。


「クソッ……!」

「おらァ!!」


 まず梵が殴り、続いて雪也が殴り返す。あっという間に全身が土塊(つちくれ)に汚れ、2人の顔は血塗れになった。


「ほら見ろ……結局お前は、仲間のためなら俺なんか簡単に切り捨てるんだ!」

「はぁ!? 何でそうなるんだよ!!」


 雪也は梵の拳を受け止めると、マウントポジションを奪ってボディブローを喰らわせた。


「あいつらを殺そうとしたのはお前なんだから、お前の方を止めるのは当たり前だろ!!」


 人間の状態では、ドラゴンの時とは力関係が逆転していた。体格で勝る雪也が、常に戦いの主導権を握る。


「みんな最後には、俺を裏切るんだ……俺を本当に大切に思ってる人間なんて、誰もいないからな!!」

「テメェ……自分勝手も大概にしやがれ!!」


 雪也はさらに、梵の顔に拳を振るう。


「何でお前は、ずっと俺たちを頼らなかったんだよ!! あぁ!!? 1度でも俺を信じて、助けを求めたことがあったか!!!?」


 凄まじい剣幕で怒鳴られ、梵は気後れしてしまう。


「何が裏切るだ! お前は何も言ってくれなかったじゃないか! そんなに辛かったなら、相談してくれれば良かっただろ!! 1人で勝手に悩んで、勝手にぶっ壊れてんじゃねぇよ!!」

「そ、相談したところで……」

「美咲が命懸けで東京まで来たのは、何でだと思う!? 全部お前のためなんだぞ!!」


 激しく殴られ続けたことで、梵の頬は真っ赤に腫れ上がる。口の中は、濃いアルカリの味に染まっていた。雪也に長時間のしかかられたために、呼吸が苦しくなり始める。


「ゲホッちょっ……降りろよ!」

「降りるか!」


 雪也の眼差しは、しっかりと梵の目を見据えていた。


「誰が1番の友達とか、関係ねぇ! 最高の友達が何人いようが、別にいいだろうが!!」

「それはっ……ぐほっ!?」


 "それは詭弁だ"と反論しようとしたが、飛んできた拳に阻まれてしまう。

 雪也は今一度、力いっぱい拳を握りしめる。


「拓巳たちだけじゃねえ! 美咲のためだって、お前のためだって! 命くらい……」




「いくらでも賭けてやるよ!!!」




 雪也のフルパワーのブローが、梵の顔面に炸裂した。その勢いで、後頭部が地面に跳ね返る。

 染み渡るような痛みが、鼻を中心に広がっていく。だがそれは温かく、そして柔らかい痛みだった。

 これまで、殴られた経験は何度となくあった。しかし、そこに温かみを感じたのは初めてのことだ。


「ハァ……ハァ……どうだ? 目が覚めたか?」


 拳を収めた雪也が、そう尋ねてくる。梵は何も答えられぬまま、大の字になって土の中に寝そべっていた。


 ――――何だ……こいつ。俺のために命を賭けるって言ったのか? どうしてそこまで……。


「言っておくけどな、お前だって……俺にとっちゃあ特別な親友だぜ。何せ、世界にただ1人のドラゴン仲間だしな」


 雪也はそう続けながら、腫れた顔で微笑んで見せた。

 その言葉は、梵に衝撃を与えるのには十分だった。


 ――――親友? こいつは今、俺を親友と呼んだのか……? 今の今まで殺し合っていたのに?


「……殴り合いの喧嘩ってのも、たまには悪くないだろ?」


 数分前まで敵であったはずの少年は、軽い調子で言ってのける。梵には、それが信じられなかった。


「ははは……何だよ、それ……」


 そう呆れたように笑う。

 自分は今まで、何をしていたんだろう……頬や鼻に残る激痛が、怒りや憎しみを中和していく。心に絡みついていた鎖を、一気に引きちぎられたような気分だった。立ち上がろうとしても、全身に力が入らない。


「ごめんな、ソヨ。ゆっくり話してたいけど、まずはイーラを止めなきゃならねぇ。また後でな。全部終わったら、ちゃんと仲直りしよう」


 そう優しく告げると、雪也はドラゴンに変身し、戦火の中へと舞っていった。

 1人残された梵は、打ち捨てられた人形のようにただ空を眺める。鼻血が顔を伝い、ポタポタと地面に滴った。


 ――――ああ、そうか。友達を裏切ったのは……俺の方だったのか。

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