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ロスト・ドラゴン・ヒーローズ  作者: モアイ
最終章 神竜黙示録
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第24話 緊迫

 美咲は唇を震わせる。

 目の前にいるこの少年は、果たして今も友人のままなのだろうか。梵を救うために東京へ戻ったはずが、当人を前にした途端、どうして良いか分からなくなってしまう。


「その少年から離れろ! そいつはイーラの協力者だ!!」


 木原が、やつれた外見からは想像もできない怒声を放つ。

 その一言で、ホーム内はパニックに陥った。避難民たちは恐怖に駆られ、どこかへ逃れようと右往左往する。兵士たちは即座に木原のもとに集結し、梵に対して銃口を向けた。


「中将……どういうことです? あの少年は何者なんですか!?」

「サファイアドラゴンだ。おそらく今は……イーラの配下にある」


 梵はその言葉を否定しなかった。自身に向けられたライフルに臆することもなく、舞台役者のようにゆっくりと階段を降りてくる。


「どうして東京に戻ったんだ? 美咲」

「あなたを探しによ……」


 美咲は及び腰になる。梵もそれを察してか、歩みを一旦止めた。


「とにかく、君が無事で良かった。こっちから迎えに行こうと思ってたんだ」

「迎えに……?」

「ああ。これから始まるドラゴンの時代に備えてね」


 美咲は一歩ずつ後ずさる。そして怯える子羊のように、木原の背後に身を隠した。


「ソヨ……お願い」

「ん?」

「雪也と一緒に、世界を守るために戦って。みんなで力を合わせれば、きっとイーラだって……」

「悪いけど、それは無理だ」


 梵は気まずそうに頬を掻く。


「俺さ、前みたいに世界を守りたいと思えないんだ。……いや、違うな。正直言うと、この世界を守りたいと思ったことは一度もない。雪也がそうしてたから何となくだったり、父親への復讐心だったり、そんな理由ばっかりだ。だから今回は、イーラの側に着いてみることにした」


 美咲には、眼前の少年が全くの別人に見えていた。数日前に話した友人がこうも変貌したとは、とても信じられなかった。

 そんなことも御構い無しに、梵はさらに言葉を続ける。


「もうすぐこの世界は終わる。だけど、君のことは死なせたくないんだ。今の俺があるのは、君のおかげだからね。美咲、俺と一緒に来て欲しい。不安もあるだろうけど、ドラゴンの世界もきっと……」

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ!!」


 そう声を荒げたのは雪也だった。

 雪也は美咲の前に割って入り、梵と睨み合う。一歩間違えれば殺し合いが始まる……ホーム内は、そんな極限の緊張に包まれた。


「雪也……大事な友達に会えたようだな」


 梵は極めて不快そうに、雪也の友人たちを一瞥する。


「だったら何だ?」

「あいつらがいるから……お前は俺を拒絶したのか?」


 雪也には、質問の意図がよく分からなかった。"拒絶"とは、雪山での出来事を指しているのだろうか。


「俺は、拓巳たちを裏切ることなんて絶対できない。あいつらは俺の一番大切な親友だからな」

「じゃあ……俺は違ったのか?」


 梵の瞳は、黒い炎が燃えたぎっているようだった。眉間に力が込められ、剥き出しにされた歯は狂った獣を連想させる。怒り、孤独感、憎悪……あらゆる負の感情が、梵の全身から発せられていた。


「……ずっと、お前を特別な友達だと思ってた。だから初めて一緒に戦えた時は、心から嬉しかった。これが本当の仲間なのかって思った。でも……違ったみたいだな。お前にとって俺は、大切なものを守るための道具でしかない」

「誰もそんなことは……」

「だったらどうして一緒に来てくれない? 俺が大切だって言うなら、全てを捨ててでもこっちに来てくれよ。簡単なことだろ? それとも、みすみすイーラに殺されに行く気か?」

「俺も美咲も、そんな誘いに乗るわけねぇだろ!? 今のお前は普通じゃない!!」

「違う……これが、本当の俺だ」


 雪也は即座に身構える。いつ梵に襲い掛かられてもいいように、態勢を整えた。

 だが、梵はいつまで経っても動かなかった。果たして隙を窺っているのか、それとも躊躇しているのか、雪也には分からない。ただ時間だけが、刻一刻と過ぎていく。


「おい……聞けよクソ野郎!」


 突然、よく通る高めの怒声が、ホームにこだました。梵は横目で声の主を睨む。

 叫んだのは拓巳だった。


「雪也はな……ずっと俺たちの仲間だったんだ。お前が現れる何年も前からな。確かに俺は、ドラゴンに変身して雪也と一緒に戦ったりはできない。でもな……あいつが敵に立ち向かうってんなら、俺たちはその戦いを最後まで見届ける! 俺たちは、誰か1人に命を賭けさせたりはしない!!」


 拓巳は胸元のポケットから、バスケットボールの飾りがついたキーホルダーを取り出す。そしてそれを、梵の方へ掲げた。


「見ろ、これが仲間の証だ! 絆の象徴だ! お前みたいな歪んだ奴には理解できないだろうが、友情は強要するもんじゃない。相手を認めて、信頼し合って、初めて築けるものなんだ! お前なんかが……軽々しく引き裂いたりできるモンじゃねぇんだよ!!!」

「拓巳……よく言ったぞ!」

「そうだ! お前なんかに、俺らの絆を断ち切らせはしない!」

「さっさと失せやがれ! この異常者め!」


 拓巳に触発されたように、他の少年たちも口々に声を上げる。

 数々の罵声を浴びせられた梵は、露骨に顔を歪ませた。さっきまで雪也に向けられていた憎悪の目は、今は6人の少年に向いている。


「何も知らないくせに……!!」


 歯軋りをしつつ、抑えた怒りと共に梵は呟く。


「そこまでだ、梵くん」


 今度は木原が動いた。ホルスターから拳銃を抜き、梵に向けて構える。トリガーには指が当てられ、いつでも撃てる姿勢を取っていた。


「君のこれまでの尽力には感謝している。だが君は今や、人類に対する脅威だ。すまないが、ここで死んでもらう他ない」


 脅しではなかった。木原はこの場で、梵を射殺するつもりだった。ここには部下も、民間人の少年たちもいる。彼らに身の危険がある以上、躊躇はしていられない。

 木原は一気に引き金を引いた。乾いた破裂音と共に、弾丸が放たれる。


 ――――カキンッ!


 だが、銃弾は虚しく弾き飛ばされた。

 梵は、青色の光を纏った右手をかざしていた。その掌は、ドラゴンの皮膚に変化している。


「そんな物で俺を殺すつもりですか? 木原さん」

「くっ……!」


 木原は渋々銃を下ろす。それに追従するように、他の兵士たちもライフルを下げた。下手に梵を刺激して、民間人に危害が及ぶのを防ぐためだ。


「雪也……」


 梵に呼ばれ、雪也は顔を上げる。


「俺はイーラに協力する。俺を止めたければ……マンションの屋上に来い。そこで待ってる」

「ソヨ……!」

「木原さんも、安心してください。この場所のことをイーラに漏らしたりはしません。貴方がこれ以上、俺に銃口を向けなければね」


 梵は緩く笑うと、踵を返して元来た階段を登っていった。

 ホーム内は、いまだに緊迫の色を残している。木原を含む軍人たちは、悔しそうに歯を食いしばっていた。


「やはり式条は正しかった。梵くんは……サファイアドラゴンは、我々の敵となった」


 美咲も雪也のそばに寄り添い、その手を握り締めた。彼女の指先は小刻みに震えている。


「雪也、どうするの……?」

「やることは変わらねぇさ。あいつは俺に"会いに来い"と言った。だったら、行ってやるまでだ」


 雪也は美咲の肩にそっと腕を回す。美咲もそれに応えるように、少年の胸元に身を預けた。


「もし……ダメだったら?」

「俺は試合の前から負けることは考えない」


 雪也は笑っていた。胸に抱く少女へ向けて微笑んでいた。

 いつもの明瞭な笑みでこそなかったが、それでも……美咲の心の支えとなるには十分だった。

 美咲の両目から涙が零れる。雪也のTシャツが徐々に湿り、胸の辺りに大きなシミが作られていく。

 美咲はなおも、Tシャツの中に顔を(うず)めていた。雪也の心臓の鼓動が耳を打つ。それは自分のものよりも、幾分か力強い気がした。

 こんな私のために、雪也は気丈に振る舞ってくれているんだ……そう考えると、どうしようもなく自分が情けなくなる。


「私……何もできなくて……ごめんね……」


 嗚咽を交えながら、美咲は短く言葉を紡ぐ。

 対して雪也は、撫でるような声で耳元に囁いた。


「何言ってんだよ、正念場はまだこれからだぜ?」

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