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6話 ゲームセンター

ハメでも出したのでこっちも

「うわ… ゲーセンなんて久しぶりだなぁ…」

 徒歩10分の時間をかけ、目的のゲームセンターに俺たちは辿り着いた。

 自動ドアを通り抜け中に入った瞬間、メダルゲームのメダルのジャラジャラという音や、格ゲーのボタンを叩く音、クレームゲームのアームが動く音、店内のBGMと遊んでいる人達の声が混ざり合い、凄まじい爆音を奏でる。

 「僕も半年くらい来てなかったけど、やっぱうるさいねぇ」

 優希が顔を顰めながら耳に手を当てる。

 「いつ来ても凄まじいよな」

 続けて一真も優希と同じように片手で耳を塞ぐ。

 幼馴染だからかどうかはわからないが二人の行動は結構似ているところがある。さっきもゲーセンに来る道を歩いているとき、二人とも左手を必ずズボンのポケットに突っ込んでたり、スマホはなぜか二人とも胸ポケットに入れていたりと、今日初めて会った俺がこれだけ気づくのだから、もっと似ているようなところはあるのだろう。

 「んー、俺は結構な頻度出来てるからなぁ、そこまで気にはならないな」

 どうやら俺達の中で平気なのは浩介さんだけのようだ。自分でこの場所を提案しておいてなんだが、俺は頭に地味な痛みがあると感じるほどにはうるさく感じてしまう。

 痛みといっても違和感を感じるくらいのもので大したことはないのだけれども。

 「まぁ、しばらく居ればこのうるささにも慣れるだろ」

 「そうだな、んじゃ、とりあえずなんか探すか」

 俺の言葉に一真が同意し、とりあえず遊びたいものを探そうとゲーセンの奥へ奥へ足を踏み入れていく。

 当然ながら、昔来た時とは内装もゲームも大きく変わっていて記憶はアテにならない。ゲーセンに来たら必ずやっていたガンシューティングゲームがあった場所に目を向けたが、撤去されてしまったのか、それとも別の場所に移されたのか無くなってしまっている。どうやら今は音楽ゲームのスペースになっているようだ。

 「お! YOURYTHEMじゃん!」

 「ん?一真知ってんの?」

 隣に居た一真が音楽ゲームの方に目を向け、声を上げた。

 「おう、なんか最近出来た音ゲーらしくてな、太鼓の鉄人みたいにバチとかの道具じゃなくてタップしたり、手を揺らしたりして遊ぶらしいぞ?」

 疑問形なのは一真もまだやったことがないゲームだからだろう。

 しかし、俺がやったことのある音ゲーは太鼓の鉄人(太鉄)だけだったから道具を使わないというのはちょっと新鮮だ。

 音ゲーは苦手なのだが、一真もやってみたそうにしているし挑戦してみるのもいいかもしれない。

 それに苦手だったのは昔の話で今やってみれば違う結果が得られるかもしれないからな。

 「空と一真はあれやるの?」

 「うん、どうにも新しいゲームに弱くて」

 そう、俺は新作という言葉に弱いのだ。今までクソゲーばかり作ると言われていた会社のの作品でも、新作と聞くと何故か買ってしまう程だ。

 まぁ、結局買ったはいいがつまらなくてすぐに売ってしまう事がほとんどなのだが。

 「ふーん、2人がやるなら僕もやってもようかなぁ、まぐまさんはどうする?」

 「あー、お前らがやんなら俺もやるわ。1人だけ別行動すんのも嫌だしな」

 俺と一真がやる。という事で優希も浩介さんもやる気になったらしい。

 俺達は全員財布から100円玉を取り出し、ゲーム機に向かう。

 『さぁ、あなたのリズムを奏でよう! 音楽の世界にようこそ! YOU RYTHEM!!』

 ゲーム機の前に立つとセンサーか何かが反応したのか、このゲームの謳い文句が可愛らしい声で聞こえてくる。

 『いらっしゃい! 今日はどこを旅しようか?』

 100円を入れると画面が切り替わり、モード選択の画面が映し出される。

 スタンダードモードとエキスパートモードの2つがあるらしく、難しい方のモードであろうエキスパートモードはちょっと黒いオーラが溢れている。

 さすがに初めてやるゲームだし、最初は簡単そうなスタンダードモードの方を選ぼう。

 俺は左側のセンサーをタップしてスタンダードモードを選択する。

 『曲を選択してね!』

 ここまで来れば曲選択の画面のようだ。

 曲は様々なジャンルに別れていて、アニソンやVOCALOID、JPOP、このゲームのオリジナルソングもあるみたいだ。

 「なー空、このゲーム対戦できるみたいだしやらねーか?」

 俺達がなんの曲で遊ぼうか迷っている時、横から一真がそう声をかけてきた。

 どうやらこのゲームは同じ店内で遊ぶ場合は、同じ曲でスコアを競う事ができるようだ。

 「へー、このゲーム対戦あんのか」

 「対戦すんのはいいけど、もう残り30秒しかないぞ?」

 しかし、対戦する場合は全員が同じ曲を選択しなければならない。残り30秒で全員が知ってる曲を選ぶのは、初めての音ゲーでは酷というものだろう。

 「それならこれでいいんじゃない?」

 「え?」

 3人で唸っていると横から割り込んできた優希がセンサーをタップして勝手に曲を選択した。

 優希が選んだ曲を確認すると、俺たちが3ヶ月前から通話を繋いで毎週欠かさず見ていた【孤独の聖女ロンリーガール】のオープニング曲、【黄昏の空へ】だった。

 「おぉ! この曲入ってんのか!?」

 お気に入りの曲があったことに気づいた一真は嬉しそうな声を上げる。かく言う俺もこのアニメは結構好きだったし、オープニングの歌詞やリズムも疾走感があって中々に気に入っていた。

 「じゃあ、初っ端1曲目はこれでいくか」

 残り10秒で俺と一真、浩介さんは優希と同じ曲を選択

 『じゃあいくよ! ミュージックスタート!』

 そして画面が切り替わり、ゲームのナビゲーターの掛け声と共に曲が始まった。

 

 ■  ■

 

 『────♪』

 全員でプレイを開始し、2分ちょっとも経てば選んだ一曲目はアニメで何度も聞いたリズムを奏でて終了となった。

 そして画面が切り替わりスコア画面が表示される。

 どうやらこのゲームにも太鼓の鉄人同様ノルマがあるらしく、その"ノルマスコアに達していれば"ゲームを続けて遊ぶことが出来るようだ。

 「ぶっ……だはは!! ソラめっちゃヘタじゃん!」

 ……そう、俺だけノルマスコアに達することは出来なかったのだ。やはり昔と同じく音ゲーは下手くそだった、見栄を張ってみんなと同じように難易度を難しくするのではなく、普通かかんたんを選択すべきだった。

 そうしておけば、音ゲーが苦手と思われることがあっても、こんな風に一真にバカにされて笑われることもなかっただろう。

 …というかこいつ笑いすぎじゃないか?マジでムカつくんだが?

 「もういっかいだ…!」

 このまま笑われただけで終われるのか?否、断じて否である。汚名返上名誉挽回、財布から100円玉を取り出し再びゲーム機に投入する。

 『どちらのモードで遊ぶ?』

 するとまた軽快な音楽と共にモード選択画面へと切り替わる。

 ゲームモードは先ほどと同じくスタンダートモードを選択、そのまま対戦モードに移ろうと思ったが、やり直すまでに時間を食ってしまったため対戦に混ざることは出来なかった。

 『この曲でいいの?』

 仕方がないので、自分の好きな曲を適当に探して練習する事にした、ジャンル分けされてある曲のプレイリストを眺めているとこの前発売したノベルゲーム【星空の夜で】のOPもあったのでそちらを選択。

 さっきのようにノルマ達成出来ないとまた100円を入れ直すことになるので、難易度は1段階下げて普通に変更、これなら問題なくクリアできるだろう。

 『じゃあ行くよ! ミュージックスタート!』

 ゲームパネルに触れれば、先程と同じセリフがゲーム内から流れ、そのまま曲が始まる。

 『───♪』

 やはりいつ聴いてもこの曲は良い。曲調はゆっくりとしているんだけど、どこか声に力強さを感じる。そんな優しくも力強い歌を耳に入れながら、パネルをタップしていく。

 難易度を下げたおかげか、さっきよりも断然やりやすくなっていてミスすることもなく順調に目標までのスコアを伸ばせている。

 『──♪────♪』

 「うわっ…!?」

 しかし、サビの部分に突入すると急に操作が増え、ミスが1つ、2つ、3つと増えていく。

 こういう時は1度落ち着いて、仕切り直して再開するのがいいのだが、初めてで慣れていないゲームということもあってそんなことには気が付かなかった。

 そのままスコアは全く伸びなくなり…

 『あららら…ノルマ失敗だね』

 …そのままさっきと同じようにノルマ達成まで辿り着くことは出来ずに曲が終わってしまい、なんとも残念な音楽と声が流れる。

 まさか難易度を"ふつう"まで下げてもクリア出来ないとは思わなかった。太鉄の方は普通までならギリギリとはいえクリア出来ていたのに…。

 「も、もういっかい…!」

 このままクリア出来ずに終わるのは悔しいし、一真にバカにされたまま終わるのはあまりにも嫌すぎる。幸いまだ一真達の方もまだゲームが続いているので連コインしても問題ないだろう。

 俺は再び財布から百円玉を取り出し、ゲーム機に投入。

 「いや、やめとけって」

 「へ?」

 そのまま慣れた手つきで曲選択へ移ろうとしたのだが、横から出てきた浩介さんの手によって、それは止められてしまった。

 モード選択を終えようとしていた俺の手は、掴まれたせいでパネルに触れる事はなく、空中で静止している。

 「こ、浩介さん…?」

 「悔しいのは分かるが、ちょっと熱くなりすぎ」

 「うっ…」

 そう言われると言葉が詰まる。確かに今の俺はゲーム程度に熱くなりすぎてた。元々楽しむためにお金を入れてゲームをしているんだから、こんな風になってまでやる必要はないだろう。バカにされたままなのはちょっと悔しいけども…

 「別に音ゲーだけがゲーセンのゲームじゃねえんだし、他のも沢山遊んでいこうぜ」

 「……そうだな」

 クリア出来なかった悔しさに後ろ髪を引かれるけれど、俺のわがままでいつまでも音ゲーコーナーに張り付いてる訳にもいかない。

 せっかく楽しい日になりそうなのだから、さっさと切り替えて次のゲームでも探しにいこう。

 「…よし! じゃあ浩介さん次はあっちに行こうぜ!」

 「っ!? お、おう」

 ちょうど一真達との対戦が終わった浩介さんの手を強引に引いて、クレジットが入ったままの筐体から離れていく。

 ちらりとゲーセン内を見渡し、興味のないメダルゲームのコーナーとは逆の方向に足を進めていく。

 「あっ! まだスコア見てねーのに!」

 「ちょっ、2人で先に行かないでよ!」

 プレイした音ゲーの合計スコアの表示を待っていた優希と一真の幼なじみ組は、既に音ゲーの筐体から離れた俺たちを慌てて追いかけてきた。

 勝負しようという事で始めた音ゲーだった事を思い出して、待ってやれば良かったなと思うものも、音ゲー下手を笑われた恨みがあるためその考えは捨て去ることにした。

 どうやら俺は割と根に持つ方なのかも知れない、なんて考えながら今度はクレーンゲームのコーナーに進んでいく。

 クレーンゲームコーナーには、遠目で見たときに俺たちが共通で知っているアニメやゲームの景品がいくつか転がっていたし、退屈することもないだろう。

 一真と優希が追いつけるように少し歩幅を縮めながら、なんの景品を取るか、なんてことを考えていた。

 

 

 ……別の場所で何が起きていたかも知らずに…

 

 *  *

 

 「空…! どこ…? どこにいるの…!?」

 「ダメだ! やっぱり携帯は繋がらん!」

 数時間前、空がいた自宅では、今現在、空の父と母が大慌てで空の居場所を探し回っていた。

 理由は至極単純で、いつも必ず家にいるはずの空が、家のどこにもいなかったからである。

 先に帰ってきた母のひなたが、いつもなら聞こえてくる、少しくぐもった空からの「おかえり」という声が聞こえず、不安になって空の部屋を覗いてみたら、空はそこには居なかった。

 パソコンを使って遊んでいるのか誰かと話しているときに座っている大きな椅子に腰かけているわけでもなければ、布団の中で猫のように蹲って寝ているわけでもない、なにより、いつも電源のついている大きなパソコンが全く音を立てず静まり返っている。それが空が今この家にいないことを物語っていた。

 最初は、もしかしたら、トイレにいるのかも?それとも早めにお風呂にでも入っているのかも?なんて考え、家の中を探してみたがやっぱり見当たらない。

 ジュースやお菓子を買うためにコンビニに行ったのかなんて甘い希望に縋ろうとしたが、この前の買い物でジュースやお菓子も大量にストックされているものがあるし、何より空はここ半年一度も外に出ていない。

 そもそもコンビニに行ったなんて考えて済むようならここまで慌ててはいないのだ。

 空が家にいないと分かると、すぐに持たせてある携帯に電話を掛けるが、小さな電子音が鳴り続けるだけで、空が通話に出てくれることはなかった。

 このまま一人でいると、ひなたは言い表せない不安で潰れてしまいそうだった。

 だから夫である太陽(ひかる)に電話をかけ、仕事の真っ最中にも拘らず、家に戻ってきてもらって今に至る。というわけだ。

 「もう一度だ……!」

 家中探しても見当たらなかった、電話は繋がらなかった、だからと言ってどこか探しに行けるあてがあるわけでもない。

 ただただ空が通話に出てくれることを願って、太陽は祈るように通話ボタンを押した。

 プルルルル…プルルルル…

 ひなたも太陽も、二人して黙りこくってしまったこの空間でその電子音だけが空気を震わせる。

 プルルルル…プルルルル…

 止むことのない電子音を聞きながら、二人に浮かんでくるのはもっと空と話しておけば、という後悔だった。

 

 半年前、相思相愛の夫婦とその一人息子のささやかながらも満ち足りていた幸せな生活は、空の急病で一変してしまった。

 性転換病、字の通り性別が変わってしまうふざけた病を患ってしまった息子は、昔、膝やひじに擦り傷を負いながらも笑ってサッカーをしていた頃とはまるで違う姿になってしまっていた。

 短かった髪の毛は肩を超すほどに伸び、母譲りの綺麗な黒髪も、脱色し真っ白に変わった。声変りが始まり、出てきていたはずの喉ぼとけはひっこみ、声は元よりも高くなった。

 そうして変わっていった息子の姿を見ていった二人は、空と同じくらいに困惑していてどう接したらいいのかが、まるで分らなかった。

 女の子になったのだからいろいろ教えてあげてくださいね、と医師の方に言われその通りに空に、トイレはどうするのか長い髪の毛の洗い方、そういったことをひなたは教えてきた。

 この病気は世間に公表できないため、空が死亡扱いになると宣言され、その代わりに政府からの金銭面での援助が入ると伝えられた。

 それに反発しようにも姿の変わった息子を支えるためにはおそらく多くのお金が必要となる。頭の冷静な部分がそう考えてしまって、歯を食いしばりながら生きているはずの息子の葬儀を太陽は執り行わされた。

 そうしてやらなければならない事を終えてしまった二人は、これからどうしていけばいいか分からなかった。

 急に失わされてしまった人間関係を戻してやることなんてできるはずもなく、寂しさから泣いている息子の声をただただ聴き続けることしかできず、時に空の自室から聞こえてくる「死んでしまいたい」なんて声にもお願いだから早まらないでくれと願うことしかできなかった。

 

 しかし最近、あの大きなパソコンを購入してから、空は少しずつ回復の兆しを見せていてこのまま回復すれば、昔のような明るい空に戻るかもしれないと考えていた矢先に今日の失踪だ。

 

 もしかしたら自分たちに心配させまいと明るく振舞っていただけなのかもしれない。本当はずっと苦しんでいて、今日限界を迎えてしまったのかもしれない。

 そんな最悪の予想が浮かんでしまう。

 ―プルルルル

 こうして電子音が鳴り続ける時間に比例して、二人の不安も徐々に膨らんでいく。

 「ダメだ…このまま待っていても仕方がない…」

 その音を聞いていられなくなった太陽は、通話終了のボタンを押し、今度は別の番号を入力していく。

 「警察に…お願いしよう…」

 そしてこの国で最も頼れる人たちへの応援要請を開始した。

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