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4話 おふかいっ!

今回は難産。何回も書き直しました…。

 「うぅ……」

 ぴーすけの手を振り切って逃げようと思ったのだが、咄嗟に手を掴まれ、「とりあえず、中……行こうぜ……?」という言葉に頷くしかなく、そのままなし崩しでファミレスの中に戻ってきてしまった。

 戻ってきた俺は店員さんからお釣りの200円を強制的に受け取らされ、手付かずのハンバーグランチとメロンクリームソーダが置いてある席に戻ることになった。

 クリームソーダのアイスは少し溶けかかっていたので、気まずい雰囲気の中アイスをつついていく。バニラアイスの甘みが俺の緊張をほぐしてくれ、なんとか平静を保つことが出来ている。

 「それで…お前…本当にソラなのか…?」

 「ひゃい!?」

 いきなりからまぐまさんと思わしき人から話しかけられ素っ頓狂な声を上げる。

 「呟いたーのアカウントがソラのだったから多分間違いないと思う…」

 「本当かぴーすけ? 見間違いとかじゃないの?」

 それにぴーすけが答えあるふぁーと思わしき人が首を傾げる。

 いつも通話で聞いている声だから間違えようがないが、もしかしたら別の人かもと願わずにはいられなかった。

 「間違ってたら悪いから、少しだけ呟いたーのアカウント、見せてもらってもいいかな?」

 そう言われて嫌ですなんて言えるわけないじゃないか、嫌だと言えば俺がソラであると暗に認めることになるだろうし、見せたら見せたで俺がソラというのは分かってしまう。

 「わかった…」

 結局俺はこれ以上印象を悪くしないように素直にスマホを見せることしかできなかった。

 アイスをつつく手を止め、ポケットからスマホを取り出して呟いたーを起動。その画面を3人に確認させる。

 「マジか」

 「わーお」

 1度見ていたぴーすけは何も言わなかったが、まぐまさんとあるふぁーは驚いた。というような表情をしていた。

 気まずくなった俺はストローを咥えてメロンソーダを飲む。

 「……」

 全員何を話していいのか思いつかないのだろう、このテーブル席は酷く静かで、俺がストローをすするチューという音だけが聞こえる。

 「あ、あのさ」

 その沈黙を破ったのはぴーすけだった。

 苦笑いを浮かべながら、俺の顔を覗き込み声をかける。それに対して俺は俯くことしか出来ず、キュッと口を締める。

 こんな事になるなら最初から外になんか来るんじゃなかった。皆が楽しみにしてたはずのオフ会が俺のせいで台無しになってしまった。

 自らの自分勝手さに嫌気が指す。

 「その、なんで男のフリなんかしてたんだ…? 悪いとかじゃなくて単純に気になってさ…」

 ぴーすけは俺を気遣ってくれてるのだろう。

 だが、今はその優しさが、気遣いが逆に辛かった。

 俺が悪いのに、俺が来なければこんな雰囲気にはならなかったのに、ただオフ会を楽しみに来たぴーすけに気を使わせていることが情けなくて涙が出てくる。

 「ごめんっ…! 俺……お前らをっ…騙してた……!」

 嗚咽混じりにそう言葉を絞り出す。

 限界だった。この空気に、視線に耐えきれなくなって懺悔するように言葉を吐き出す。

 1度吐き出してしまえばもう止めることは出来ない。もう騙し続けるのは辛い、嘘を吐き続けるのも辛い、自分を偽ったままこいつらと関わり続けるのが辛い。

 辛いことから逃げたい、もうすべて話して楽になりたい一心で、俺は次々に言葉を吐き出し続ける。

 自分の居場所がなくなったこと、居場所をネットの中に求めたこと、男として扱われたくて性別を偽っていたこと、お前らと同じように学校に行っているなんてまるっきり嘘だということ、本当はオフ会なんて行くつもりがなかったことも全部、全部話した。

 流石に性別が変わってしまったことについては口止めされているため、本当のことは言えなかったが、ある意味性同一性障害のようなものであるのでそう伝えた。

 「これで全部だよ……。最低だろ…、俺ずっとお前らを騙してたんだぜ…?」

 終わった。そう思った。

 もうこれで完全に嫌われただろう。もう一緒にゲームすることも話すこともないだろう。

 バレてしまえばそうなるのは分かっていたはずなのに、改めてそう理解するのは大分堪える。

 こいつらは今どんな顔をしているのだろうか。怒りの表情だろうか? 侮蔑の表情だろうか?

 俯いているから分からないが、まぁ、いい顔をしていないことだけは確かだろう。

 「いや、別に?」

 「気にしねーよそんなこと」

 嫌われるのも、怒声を浴びせられるのも覚悟していただけに。そんな風に軽い言葉をかけられて困惑してしまった。

 「えっ…?」

 気にしてないわけがない。だったらさっきまでの反応はなんだったのだ。

 そう思う反面、今のこいつらが俺を気遣って嘘を吐いてるようには思えなかった。

 「な、なんでだよ!?」

 「なんでって…そりゃ誰にだって隠し事ぐらいあるだろ。俺だって年齢1歳偽ってたし」

 「え!?まぐまさんまさかの年下!?」

 「中坊なわけねえだろ! お前らの一個上だ!」

 「あだだだだだ!!」

 まぐまさんを一個下だと勘違いしたあるふぁーが大きな拳で頭をグリグリされている。

 拳がめり込んでいるようにも見える。なんというか凄い痛そうだ。

 「そうだな…俺だって優希……あるふぁーと中学校一緒だったこと言ってなかったしな」

 「えっ、それ言うの!? 中学生にもなってドラ○もんの映画で号泣した一真くん!」

 「それは今関係ないだろ!?」

 そういや通話始めたばかりの頃はぴーすけとあるふぁーは互いに遠慮がないような感じがしてたけど、そういう理由があったのか。

 というかこいつらサラッと本名言ってるけど大丈夫なのか…。

 「僕は今でも覚えてるよ、『ぴーずげぇぇぇぇぇ!!!』なーんて叫んでびっくりしたご近所さんが飛んできた事も」

 「ぶっ!」

 「やめろぉ!やめろぉ!」

 あるふぁーが更に続けてぴーすけの黒歴史を暴露する。まぐまさんは吹き出し、ぴーすけは顔を真っ赤にしてあるふぁーに掴みかかる。

 揺すられて頭がぐわんぐわんと動き、あるふぁーが目を回し、笑いながらテーブルに突っ伏す。

 「もしかしてぴーすけって…」

 「そう! 多分ソラの思ってる通り、ド○えもんの映画に出てきた恐竜だよ。ぴーすけってあだ名は一真の黒歴史から来てるのさ」

 「ぶはっ!あははは!」

 「まぐまさん笑わないでくれよ!」

 我慢出来なくなったまぐまさんが盛大に笑い出す。腹を抑え目に涙を浮かべながら大口を開けている。

 ぴーすけは余程恥ずかしいのか赤く染まった顔を手で隠す。

 「ふふっ……あは、あははは!」

 俺は今の自分の状況を忘れて笑い出してしまった。

 映画で号泣して近所の人が飛んでくるって…恥ずかしすぎるだろ。確かにあの映画は泣けたしいい内容だったけど、中学生にもなって大声を上げて泣くというのは少し可笑しくて笑ってしまう。

 心の中でぴーすけに申し訳ないなと思いながらも笑いをこらえることが出来なかった。

 「おお……」

 するとさっきまで爆笑していたまぐまさんが俺を見て驚いたような表情を浮かべ、それにつられてあるふぁー、ぴーすけもこちらを向く。

 「あっ…!その…」

 思わずつられて笑っていたが、今の俺の状況を思い出して再び口を噤んでしまう。

 やってしまった。いくらあいつらが笑っているからって、こいつらを騙してた俺が笑っていいわけがないだろ。さっきよりもずっと印象が悪くなったかもしれないと頭を抱える。

 「笑ってた方がいいな…」

 「え?」

 ぴーすけがいきなりそんな事を呟く。

 「うん、僕も笑ってるソラの方が好きかな」

 「同感だわ」

 あるふぁーとまぐまさんはぴーすけの言葉に同意するようにうんうんと頷く。

 何故かは分からないが、俺が笑ったことに対して負の感情は抱いていないようだ。

 いや、何故かは分かっているのかもしれないが、ありえない選択肢だからと自ら除外していたのかもしれない。

 「まさか……本当に怒ってないのか……?」

 「当たり前じゃん、気にしねーって言っただろ?」

 「そうそう、僕達だって隠し事してたんだし」

 まぐまさんとあるふぁーが呆れたような笑いを浮かべる。

 「じゃ、じゃあなんで最初あんな空気だったんだよ!」

 気にしてない、嫌われていないと言うのなら、最初のあの沈黙はあの視線はなんだったのだと問う。

 気にしていないのであれば、最初のあの空気に説明がつかない。

 「あー…いや、男だと思ってたら、びっくりするくらい可愛くて固まってたんだよ」

 「は…!?」

 ぴーすけが頭をかき、気まずそうに目をそらしながらそう言葉を漏らす。

 それに対して俺は一瞬思考が停止して固まってしまう。

 「分かる。僕も最初フィリアちゃんが2次元から飛び出してきたのかと思ったし」

 そして、あるふぁーがぴーすけの言葉にそう付け足す。

 その言葉でようやく理解した。

 こいつらはただ、俺の姿が予想していたものと大きく違ったから困惑していただけなのだ。

 確かに俺も男だと思っていた人が実は女の人だったらびっくりするだろうし、戸惑ったりもするだろう。しかもこんな真っ白な髪の毛をしていたら尚更だ。

 つまり、最初のこいつらの反応や空気は俺に対して怒っていたというわけじゃなかったのだ。

 「はは…マジかよ…」

 それを理解すると今まで力んでいた体の力が抜けていく。

  絶対に嫌われると思っていた。バレたらもう遊べないと思っていた。

 でも、それは全て俺の杞憂だった。

 こいつらはこんな俺でも受け入れてくれるくらい優しかったんだ。それなのに勝手に怖がって勝手に勘違いして、自分のアホらしさに笑ってしまう。

 「…オフ会ホントは来るつもりなんてなかったのも怒ってない…?」

 「そういう事情があったんだし怒らねーよ」

 「ネナベしてたのも気にしてない…?」

 「気にしてねーって、何度も言ってるだろ? まぁ、ちょっとびっくりはしたけどな」

 「女のくせに男みたいに扱って欲しいとか気持ち悪くない…?」

 「大丈夫だよ! 今までと同じの方が話しやすいし、気持ち悪がったりなんて絶対しないよ!」

 1つずつ確認するように質問を投げ続ける。ぴーすけもまぐまさんもあるふぁーも全部俺の欲しい答えを言ってくれる。

 悩んでいたことが、不安が1つずつ解消されて、心が軽くなってくる。

 そして、最後に1番聞きたかった質問をカラカラになった喉から絞り出した。

 「こっ…これからもっ…!同じように遊んでくれまずがっ…!?」

 「「「もちろん!」」」

 「…ありが…とぉ…!」

 限界だった。ずっと騙し続けていることが辛かった、全て話した時嫌われるんじゃないかと思って怖かった、もう一緒に遊べないかもしれないと不安になった。

 その全てから解放されて、安心して、視界が滲む。

 「あー、泣くな泣くな」

 「ちがっ! 泣いてねえよ!」

 「そーだよ、ソラはドラえ○んで大泣きした一真とは違うのさ」

 「いつまでそのネタ引っ張んだよ!?」

 泣いてない、なんて口では言ってるけど、俺の目からはボロボロと涙が溢れ出し、頬を伝ってテーブルや床を濡らしていく。

 きっと今の俺の顔は酷いことになっているだろう。

 「ぐしょぐしょじゃねえか、ほらティッシュ」

 「あり…がと….」

 まぐまさんが押し付けるようにして俺にポケットティッシュを手渡す。

 ありがたくそれを受け取り、涙や鼻水を拭っていく。

 辛いから、苦しいから、悲しいから泣くものだと思っていたが、人間は嬉しくても涙が出るみたいだ。ここしばらくこんな泣き方していなかったからすっかり忘れていた。

 「あーあ、話してたら大分時間すぎてんじゃん」

 「ホントだ、もう1時」

 「1時って聞くとめっちゃお腹すいてきた」

 ぴーすけか腹を擦りながら、メニュー表を眺め出す。あるふぁーもその横から覗き込むようにして眺めている。一方まぐまさんは別のメニュー表を手に取って眺めている。

 3人とも1分くらい悩んで決まったのか、ボタンを押して店員を呼びつけた。

 「俺、このステーキセットお願いします」

 「じゃあ僕はこのミートソースパスタで」

 「オムライス1つ」

 各々が自分の食べたいものを注文する。もう出来合いがあったのかそれとも急いで作ったのかは分からないが頼んだものはすぐに届けられた。

 「ソラは頼まなくて良かったのか?」

 鉄板からジュージューと音を立てているステーキを切り分けながらぴーすけがそんな事を聞いてきた。

 綺麗に切り分けているのに、その目はしっかりと俺の方を向いていて器用だなぁと感心してしまう。

 「うん、俺はまだこれ食べ切ってないから」

 俺は自分の前に置かれている冷めたハンバーグランチを指さす。香ばしい匂いを発していたハンバーグは見る影もなく、ライスの方も冷えて少し固くなってしまっている。

 どう考えてもあまり美味しくはないだろう。

 「でもそれ冷めきってるぞ」

 「僕のパスタちょっと食べる?」

 「大丈夫だって」

 あるふぁーの申し出をやんわりと断り、冷えたハンバーグを一口サイズに切って口に運んでいく。

 思った通り冷えていて、微妙な、なんとも言えない味が口の中に広がる。やっぱハンバーグは暖かいうちに食べるのが1番だ。なんて考えながらまた新しく切り分けたハンバーグを口の中に運ぶ。

 「うん、美味しい!」

 でも、何故かその冷えきったハンバーグは、この半年間の中で食べたどの食べ物よりも美味しく感じた。

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