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こころがわり?

遅れたのは古戦場のせい。

 「はひー…さっぱりした…」

 風呂から出た俺は、髪と顔と体を拭き、湿ったバスタオルを洗濯機の中に放り投げる。

 今の季節は秋に近づいてきている9月頃ということもあって少し肌寒い。いつまでもこんな素っ裸の格好でいては風邪を引いてしまうので、そそくさと棚から自分のパンツとシャツを取り出す。

 最近は長袖を着ることが多いのだが、今日は妙に身体が熱く感じるため半袖に変更。

 「ん…しょっ…と…うへ、やっぱぶっかぶかだこれ」

 男だった頃に着ていたシャツなのでだいぶ今着てみると大分ぶかぶかだ。少し掴んで伸ばせば膝まで隠れてしまうかもしれない。

 まるで父さんのシャツを借りてるみたいだなと苦笑いしながら、持っていたトランクスタイプのパンツを履き、横のハンガーにかけてあった短パンを装着。

 一応の着替えが終了すれば、次はドライヤーをあてる作業に移る。

 「コレもめんどくさいよなぁ」

 そうぼやきながら、ブオオオオオという音を立てるドライヤーを手に取り、髪に温風をあてていく。

 半年前なら自然乾燥でなんの問題もなかったのだが、今は放っておくと服に湿った髪が当たって濡れて気持ち悪くなるし、髪が目に見えて傷んでくるので、めんどくさいのを我慢してドライヤーをあてる。

 水気の残っている髪の毛を手に取り、温風をぶつけ続ける。

 本当は、ある程度水気が抜けるまでバスタオルかなにかで髪を纏める、包んでおくといいらしいのだが、あいにく俺はそんな高等な技能は持っていない。母さんに聞けば多分教えてくれるだろうが、別にそこまで自分の髪にこだわりもないので放置している。むしろサラサラしすぎていると余計に女みたいになって嫌だった。

 

 ─ピンポーン

 

 そうこうしていると、どうやら出前が来たみたいだ。まだ少し水気が残っているが、待たせるのは届けてくれた人に悪いと思い。ドライヤーのコンセントを引っこ抜いて玄関へ財布を持ってダッシュ。

 一応除き口から宅配かどうかしっかりと確認して、ドアを開ける。

 「あ、お好み焼き屋のヒロシマで……す…!?」

 「あ、はい。ありがとうございます。おいくらですか?」

 ぱっとサンダルを履いて受け取りに出たのだが、何故か宅配の人が固まってしまった。どうかしたのだろうか?まさか、量を間違えたとかそういう訳でもあるまい。

 「あの…どうかしました?」

 「あっ…!ああ!いえ!なんでもないです!! お好み焼き1人前で750円です」

 「はい、750円丁度です。確認お願いしますね」

 値段はチラシの方で確認していたので、財布からサッと丁度の金額を取り出し手渡す。

 「で、では確認させていただきますね。 いちにーさんしーごーろくなな…はい、ちょ、丁度750円ですね、ありがとうございました」

 「ご苦労様です」

 俺は小銭と引き換えにお好み焼きの入った袋を受け取る。

 「あ、あの。失礼ですけど…そんな格好で外に出られるのはやめた方がいい…ですよ…? 変な人に襲われでもしたら大変ですから」

 宅配の人はお金を受け取ると、チラチラと俺を、正確には俺の足を見る。

 なるほど、この人もしかして俺が下に何も履いてないと思ったのか、確かに今の格好は上のシャツがデカいせいで下の短パンは隠れてしまうから見方によってはそう見えてしまうのかもしれない。

 確かに下に何も履いてない人がいきなり出てきたら困惑するだろうし、この人が少し固まってしまうのも仕方がないだろう。

 「あはは、大丈夫ですよ。ちゃんと下は短パン履いてますもん」

 流石にノーパンやパンイチで外に出るほど俺も馬鹿じゃない、クスリと笑いながら下の短パンを見せつけるようにチラリと服をめくる。

 「っ!?」

 「ね? 何も問題ないでしょう?」

 「あは、あはは…そうですね。ありがとうございました!またよろしくお願いします!」

 どうやら、分かってくれたのか宅配の人は頭を下げて走り去っていった。チラッと見た顔が真っ赤だったけど風邪でもひいていたのだろうか? ちょっとだけさっきの人を心配をしながら、俺はお好み焼きを持って家の中に戻る。

 「変な人。ま、いいや腹も減ったしさっさと食べよう」

 ボケっとしててお好み焼きが冷めたら最悪だからな。

 ドアを閉め、鍵をかけてリビングの方へ戻る。

 テーブルにさっき受け取った袋を置き、その中からお好み焼きの入った容器と割り箸を取り出す。

 ソースとマヨネーズ、青のりの匂いがいい感じに食欲をそそる。

 「いただきます」

 今だけはお金をくれている政府の方々へ感謝し、お好み焼きをつついていく。箸で一口サイズに切り分け口の中へ運ぶ。

 熱くて口の中をやけどしそうになるが、それでも水で流し込むようなことはせず、咀嚼して飲み込む。

 肉、野菜、麺が綺麗に合わさった味がたまらなく美味しい。本当にこの料理を考えた人は天才だと思う。味もいい上に栄養バランスも悪くない、それがひとつの皿で出てくるんだから脱帽ものだ。

 「ふぃー…おなかいっぱいだ…」

 1人前のお好み焼きを平らげ、少し膨らんだお腹をポンと叩く。満腹感が凄く、少し動きづらいがさっさと片付けてゲームをプレイしたいので勢いをつけて立ち上がる。

 プラスチック製の容器は水で洗い流し割り箸の袋と共にゴミ袋へ入れ、袋も同様にプラゴミの袋へぶち込む。

 片付けを終えた俺は、再び2階へ戻りゲームをプレイするためにパソコンを立ちあげようとする。

 「げっ! そういやお好み焼き食ったらこうなるの忘れてた…」

 が、ディスプレイに写る歯に青のりが引っ付いている自分の姿を見て、ダッシュで洗面所へ駆け込み、歯ブラシを手に取る。

 虫歯になった経験がある俺は、二度とあんな痛みは味わいたくないので丁寧に歯を磨いていく。

 磨き方は昔学校や子供向けの番組で教わったやり方だ。

 シャコシャコと音を立てながらの歯磨きが終わり、再び自室のゲーミングチェアに座り込む。

 パソコンの電源がつくあいだにヘッドホンを装着する。

 そして、いつものように4to4を立ち上げ、チームバトルではなくランダムマッチングを選択。

 いつもはぴーすけ達、固定メンバーとやるのでチームバトルを選択するのだが、今は残念ながらぴーすけ達は学校にいる。

 そのため仕方なく今4to4にログインしているユーザーとランダムにチームを組みバトルするランダムマッチングを選択。

 他のユーザーを探している間に、ヘッドホンをもう一度被り直し、コントローラーを強く握る。

 「さぁ、いっちょ派手に暴れてやろうぜ」

 最近見たアニメの気に入ったセリフを吐きながら、俺はゲームを開始した。

 

 ■ ■

 

 「…多分隠れるとしたらここしかないだろう…っと! いたいた」

 ゲームのキャラを動かし、フィールド内のオブジェクトの裏側に回り込むと、予想通り銃を構えていた敵を発見。

 コントローラーのボタンを押し込みAR(アサルトライフル)を射出。ガガガガッと音を立て弾が敵を貫き血飛沫が舞う。

 敵の体力が0になり、"ソラがガンマを撃破しました"と画面に表示され、リザルト画面へ移る。

 「よっしゃ、勝ちだ勝ち」

 この試合の戦績は2キル0デス、残り友軍は1、まずまずの戦績だ。

 ランダムマッチングということもあり、連携が全く取れていない相手も多かったのでなんの自慢にもならないが、それを差し引いても今日の戦績は中々に良かった。

 「そろそろ疲れたし、一旦やめるか」

 お昼にお好み焼きを食べてからずっと4to4をプレイしていたらいつの間にか既に時計は17:00を指していた。

 日はもう沈みかけており、鮮やかな茜色が空を覆う。

 窓からチラリと外を眺めると、学校帰りの高校生や中学生が歩いていたり、自転車を漕いでいるのが見える。

 こんな病気にさえかからなければ、俺も竜達と一緒に居られたんだろうか。なんて事を考えて少し心が沈む。

 俺の友達も知り合いも、みんな進学して新しい生活を楽しんでいる。そろそろ体育祭が始まる時期でもあるので、きっと汗だくになった高校生達が帰る姿を目撃することも多くなるだろう。

 「俺だって……なぁ……」

 俺だって、その先の言葉は出てこなかった。

 横目でさっきまで付けていたパソコン、さっきまで座っていたゲーミングチェアを眺め、フッと自らを嘲笑する。

 

 何が俺だって、だ。俺は逃げただけじゃないか。

 体は変わってしまったけど、健康体ではある。戸籍は男の頃のものはなくなってしまったけど、それでも女としての戸籍はちゃんと作られている。お金だってあるんだからどんな学校にだって行ける。勉強はちゃんとしていたんだから、編入試験でもなんでも受けることだって出来たはずだ。

 何だってできた筈なのに、逃げて、ぐずって。そのくせ今楽しんでいるやつを羨ましがる。

 そんな自分の醜さに嫌気がさすくせに、外に出ようという気にもならず、ただ延々と同じような時を過ごしている。

 

 父さんや母さんだって、今の俺の現状を良くは思っていないだろう。できれば学校にだって行ってほしいだろうし、そうでなくても「偶には外に行かない?」とよく聞かれるので、外に出てみてほしい気持ちはあるはずだ。

 「ホント…なにやってんだろな…俺」

 何かを言い訳にして、怖いものから逃げて、誰を羨ましがって、吹っ切れることも出来ずにただ自己嫌悪に浸る。

 ゴロリとベッドに転がり、布団を抱きしめるようにして中へ潜り込む。

 布団の中で顔を歪め、声を押し殺して涙を流す。

 声を出さなかったのは自分の中に残っていた、最低限のプライド、男心だったのかもしれない。

 

 ─ピロン

 「……?」

 その時1件の通知が入る。通知音が鳴りタブレットの画面がつく。

 もぞもぞと布団の中から手を出して、タブレットを手に取り確認する。どうやらまぐまさんからのチャット通知だったらしい。

 俺の朝送ったチャットに返信がきたのだろう。俺はチャットアプリを開いてまぐまさんからの返信を確認する。

 『了解。都合が合わないのなら仕方ないよな。また次やる時にでも来てくれ。』

 『ありがとう、行けなくてごめん』

 『いいって。でも、もし当日予定が変わってこれるようなら是非来てくれよな。ぴーすけの奴お前がこないって聞いたらすげーガッカリしてたから』

 俺が打ち込んだチャットに対して、まぐまさんがそうチャットを打ち込み。週末オフ会で集まるであろう場所を教えてくれる。

 俺の家からだとバスで20分くらいのところにあるファミレスみたいだ。

 『うん、もし当日予定が変われば行ってみるよ。本当にありがとうな』

 俺はもう一度まぐまさんにありがとうと打ち込み、チャットアプリを閉じる。

 ああは言ったが行くつもりなんて全くと言っていいほど無い。

 今まで男として接してきたし、まぐまさん達も俺がこんな姿だとは夢にも思わないだろう。

 騙していたことがバレればきっと一緒に遊んでくれることもなくなるだろうし、こんなふうにチャットでのやりとりすらできなくなってしまうかもしれない。

 そうでなくとも、女だとバレれば態度の一つや二つは変わるだろうし、変によそよそしくされるのは嫌だった。

 「でも……もしも…」

 それでも、もしも、万が一、あいつらが俺が女だと分かっても今まで通りに接してくれる。変わらずゲーム仲間として遊んでくれるというのなら…。

 「なんてな…そんな事あるわけないのに……」

 ぶんぶんと頭を振り、ありえない妄想を振り払う。

 そして、俺はもう一度深く布団を被り直した。


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