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はじめの0歩

ハメで書いてたのそのまま持ってきました。

 「どこ見てんだ! こっちだバーーカ!」

 俺は自室のパソコンの前でゲーミングチェアに座りコントローラーを握りながら対戦相手を小馬鹿にしたような言葉を吐く。

 そしてゲーム内のキャラを操作しAR(アサルトライフル)から弾を連射、見当違いの方向を向いていた相手のキャラはなす術なく倒される。

 『ナイスソラ!』

 『さっすがぁ!』

 『やるねぇ!』

 「へへーん、残り2人も俺がキルして終わりだぜ」

 その直後にヘッドホンから仲間から賞賛の言葉が聞こえ得意げに鼻を鳴らす。

 殺した敵の死体の周りを動き回り近くに潜んでいるであろう残りの敵を索敵する。

 ─バンバンバン!

 するとヘッドホンから銃撃の音が聞こえ咄嗟にキャラを後ろに振り向かせる。壁の隙間にマズルフラッシュの光を確認、このままARで撃ち合っても先手を取られていては撃ち負けるため武器を片方のSR(スナイパーライフル)に変更そのままスコープを覗き込み弾丸を撃ちだす。

 「ヘッショもらいぃ!!」

 甲高い音と共に撃ちだされたSRの弾丸は相手の頭を撃ち抜き相手のキャラは即死、俺のキャラは防具を着込んでいたおかげでなんとか生き延びた。

 「あと一人!」

 『見つけた!東方向』

 『しゃあっ!ラスキルもらい!!』

 『あー!!ラスキル取られたぁ!』

 最後の敵は味方が見つけてくれたらしい。少し遠くでARを連射する音が聞こえるとそのまま画面に"友軍が敵を撃破しました"と文字が表示される。これで最後の敵を撃破、俺達の勝利だ。

 「よーし勝った勝った!」

 「これで3連勝〜」

 「今日は調子いいねぇ」

 昨日の対戦の勝率は6割くらいだったのに対して今日は9割近い勝率を出しているため皆機嫌が良さそうだ。かくいう俺も上機嫌だ。

 「今日はなんか調子いいしもう一戦いっとくか?」

 俺は笑いながら仲間にそう話しかけ、再戦する。を選択しようとする。

 今はまだ夜の9時だ。いつもは12時過ぎまでやっているしまだまだ続くだろうと思っていた。

 昨日はあまり勝率が良くなく萎え落ちといった形で10時半頃に終わってしまったが、今日は好調だからもしかしたら朝までやってるかもななんて考えていた。

 

 「あー、わりぃ明日日直だから遅刻できねえんだわ。今日は早めに寝ることにするわ!おやすみ!」

 が、メンバーの1人がそう言ってゲームからログアウトする。

 「そういや僕も明日日直なんだよねぇ、ぴーすけも落ちちゃったし僕も落ちる事にするよ。ソラまた明日ね」

 「ありゃ、2人とも落ちたのか。俺は別に遅刻したって構わないんだけど、流石に2人だと野良2人入れなきゃできねえし俺も落ちるわ〜」

 ぴーすけがログアウトするとそれに続いてあるふぁーもログアウト。そしてまたそれに続いてまぐまさんもログアウト。

 結局俺以外は全員落ちてしまったので俺も仕方なくこの【4to4(通称よんよん)】からログアウトする。

 そしてパソコンの電源を落とし、通話するため、ゲーム音漏れを防ぐために付けていたヘッドホンを外し、そのまますぐ横にあるベッドに飛び込む。

 周りを見渡せばカップ麺カップ焼きそばジュース缶のゴミが入ったゴミ袋が散乱しており。自らの不健康さがありありと見てとれる。

 不健康であると自覚しているにもかかわらず新たな缶ジュースを手に取り蓋を開け喉奥に流し込んでいく。

 「んぐっ……んぐっ…ぷはぁっ!」

 りんご味のジュースを飲み終え、空になったジュース缶をゴミ袋へ投げ入れる。

 ゴミ袋にまた新たなゴミが追加され袋がその分膨らむ。こんな部屋で生活をしていればいつか病気になって死んでしまうかもしれない、と思ってるし、むしろそうなればいいのにとまで思っていた。

 「寂しいなぁ……ちくしょー…」

 枕に顔を埋めて呟いた声はゲームをしていた時の声とは真逆と言っていいほどに高いソプラノボイスだった。

 それはそうだろう、さっきまでは自分のこの声を誤魔化すためにわざわざ買ったボイスチェンジャーを使っていたのだから。

 

 何もネナベをしているだとかそういうわけじゃないし、かと言って性同一性障害だという訳でもない。いや、今の現状を見ればそうなのかもしれないが元々俺は男だったのだ。

 何を馬鹿な事をと思うかもしれないし、ネナベをしていてこじらせたのか?と思うかもしれない。俺も他人がこんなこと言ってたらそう思う。

 だが、本当にそうではないのだ。

 性転換病、という病がある。社会の認識では単なる割と有名な都市伝説としか言われていないが、この読んで字のごとく性別が変わってしまう病気は実在する。それはこの俺が身をもって証明している。

 

 最初の症状は微熱だったり体のあちこちがチクチク痛んだりしただけだった。

 だから俺は風邪かなにかだろうと思って薬を飲んで寝ていた。

 しかし一向に症状は良くなる気配を見せず、それどころか熱は39度を超え、体は内側から破られるような痛みを感じた。

 流石にこれは風邪ではないと母さんが救急車を呼び、俺はそのまま病院へはこばれた。

 病院に運ばれた後、俺は痛みに耐えきれず気絶し。それから2日経ち、目を覚ますと女の身体になっていた。というわけだ。

 

 目が覚め、まだ頭が目の前の光景を受け入れることが出来ていない状態で俺はこの病気について、今後の対応について聞かされた。

 この病気の発症率は1000万人に1人と極めて低いこと。

 この病気の治療法は何もないということ。

 男から女に変わったことにより、別の戸籍が用意されたということ。

 そして男だった頃の俺は死亡扱いになる。ということ。

 この病気にかかった者は政府から多額の援助が得られる。ということを説明された。

 

 死亡扱いになった理由は、なんでもこの性転換病が世間に露呈すると面倒な事になる。俺が元男だとバレると今後の生活に支障をきたす場合がある。という理由から、政府から援助があるのはこの病気にかかったものは変わった身体になれるまでに大きな時間がかかるため、そしてこの病気を公にしないようにという口封じの意味も込められているらしい。

 

 言いたいことを言うだけ言ったスーツ姿の男達は、そそくさと出ていってしまい、病室には俺と母さんの2人だけが取り残された。

 その後俺の事を聞きつけた父さんが顔を真っ青にしながら病室に飛び込み、俺と母さんの説明を受けて泣きながら俺を抱きしめてくれた。

 

 それでもう俺は限界だった。いきなり身体が変わってしまったこと、男の俺が勝手に殺されてしまったこと、これからどうしたらいいのか、これからの事が不安になって怖くなって大泣きした。

 

 ふざけるな、なんで俺がこんな目に、と何度も思ったが、どれだけ叫ぼうが喚こうが身体が元に戻ることはなかった。

 

 それから3日ほど経ってようやく自体を全て呑み込むことができ、母さんから看護婦さんから女の身体、しくみについて教えられた。

 一番辛かったのはトイレの仕方だ。実の母親に15歲にもなってトイレを手伝ってもらうのは悶えるほど恥ずかしかった。あれ以上恥ずかしい経験はそうそうないだろう。

 

 それからまた1週間ほど経ち、ようやく俺は自分の身体に多少なりなれることが出来た。最初のうちは背が低くなりそれに合わせて手足も短くなっているため取ろうと思ったものが取れなかったり、うまく歩けず何もないところで転んだりして凄い苦労したが、慣れれば距離感を間違えることも何もないところで転ぶことはなくなった。

 

 身体が問題なく動くようになり、俺は退院を許可された。

 これでようやくくつろげる。と思ったが、まだ俺の葬式が残っており、否応なしに葬儀場へ連れていかれた。

 

 俺の葬式には結構な人数が来ており、親友の竜や数馬、浩介。3年生の時担任だった田中先生やよく買い物に行っていた肉屋のおばちゃんや八百屋のおじちゃんも来てくれていた。

 

 「高校で一緒にサッカーしようって言ったじゃねえかよ…!」

 「今度一緒に行くはずだったキャンプ、楽しみにしてたんだぞ…お前無しでどうやって楽しめっていうんだよ…!」

 「死ぬにはっ…早すぎるだろっ…! 早すぎるだろうが…!!」

 「橘ぁ…! 先生に子供見せてくれる約束だっただろうが…!」

 「空ちゃん…今度店に来た時はコロッケサービスしてあげるって言ったわよ…早く取りにこないとおばちゃん忘れちゃうよ…!」

 「空坊…俺はお前が買い物に来るのをよく楽しみにしてたんだぜ…楽しそうにいろんな話を聞かせてくれてなぁ…ホントに年寄りの少ない楽しみだったんだぜ…!」

 

 この時が生まれてから一番辛かった。親友との約束を破ってしまったこと、先生とした約束を果たせそうにないこと、おばちゃんやおじちゃんに悲しい思いをさせてしまったこと。

 皆が泣かないで済む方法があるのに、それを実行できないのがとても辛かった。

 この場で本当は生きていると、私が、俺が橘 空だと、そう言えればどれだけ良かっただろうか。でも言えないし言ったところで信じてもらえない。それが俺は一番辛かった。

 

 そして、葬式が終わった時、橘 空は死んだ。という事実が心の中にすとんと落ちてきた。そして怖くなった。

 俺が橘 空として築いてきた色んな人との関係が全てなくなってしまったからだ。

 もう竜達は友達じゃない。田中先生は俺の元担任ですらない。肉屋のおばちゃんも八百屋のおじちゃんももう俺の事を知らない。

 そう思うとひとりぼっちになったようで酷く怖かった。

 

 俺の葬式が終わったあとはもうすることはなくなり、俺は家でぼーっとすることが多くなった。

 偶に外に散歩に出かけるくらいでそれ以外はずっと家にいた。

 

 葬式から1ヶ月程経ち、俺は久しぶりに外へ出ることにした。家にずっと篭っていても気が滅入るだけだし、少しは気分転換でもしようということで、よく遊んでいた大きなグラウンドがある公園にサッカーボールを片手に向かった。

 

 小学校の頃父さんに買ってもらったお気に入りのサッカーボールを蹴り、グラウンドを走り回る。

 ドリブルやシュート、リフティングを終え、十分すぎるほどに汗をかいたのでそろそろ切り上げて別の場所へ行こうとしたんだ。

 

 すると、よく遊んでいた竜、数馬、浩介がサッカーボールを持ってグラウンドに入ってきた。

 俺は1ヶ月前に自分の葬式をしたことも忘れて、いつものように竜に話しかけてしまった。

 

 「竜、知り合いか?」

 「えーなになに、竜こんな可愛い子と知り合いだったの?」

 「いや…俺はこんな奴知らないけど…お前誰?」

 

 竜達の反応は当たり前の反応だった。

 でも、俺はそれを受け入れることができなかった。男の俺が死んだということをまだ受け入れることが出来ていなかったんだ。

 

 俺は竜達の反応に耐えきれなくなって、その場から走り出して逃げた。情けなく涙と鼻水を垂らして家の玄関に飛び込んだ。

 

 俺の居場所はとっくになくなってた。俺の事を知ってるやつは誰もいなくなっていた。

 俺は橘 空なのに橘 空じゃないんだ。

 でも、その事実を受け入れられるほど俺の心は丈夫ではなかった。

 

 それ以来俺は外に出ることが怖くなり、そのまま引きこもってしまった。

 政府からの援助金が俺の一生分の生活費を軽く超えていた事も俺の引きこもりに拍車をかけた。

 

 しかし、寂しがり屋と周りによく言われていた性格の俺がその生活をいつまでも続けられるわけもなく、1週間経たずしてネットのコミュニケーションツールに手を出した。

 そしてぴーすけ達と出会い、よくチャットでも話すようになり、仲良くなるにつれて通話もするようになった。

 ボイスチェンジャーを使えば男の声も出せるし、元より男だったのだから文章が女っぽくなることは無かった。

 だから皆俺を男と信じて疑わなかった。それが嬉しかった。

 ネットの中なら俺は男のままでいられる。ネットの中なら俺は橘 空のままでいられる。

 そうして俺はネットの世界にのめり込んでいき、今のような生活を半年続けている。

 

 「皆寝ちまったし、俺も寝よう…。」

 いっぱいになったゴミ袋をぎゅっと締め、部屋の隅に押し出して布団に潜り込む。

 そのまま目を瞑り眠りにつこうとしたが、枕の横に置いていたタブレット端末がピロンと通知音をたてる。

 「ん〜…誰だ? ってまぐまさんか。なんだいったい?」

 先程落ちたはずだが何か言い忘れたことでもあるのだろうか? そんな疑問を抱きつつも個別チャットの部屋に入り、メッセージを確認した。

 『今週末ぴーすけ、あるふぁ、俺でオフ会をやるんだがお前も来ないか? 』

 このメッセージが俺が変わるひとつのきっかけだったのかもしれない。


TSって最初はパニクると思うんですよね(自論)

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