2話
私は今、レーンさんに縛られています。手首を柔らかい布で結んだ後、固定魔法で布が解けないようにしてしまったようです。私が力を加えても、布は解ける気配がありませんでした。レーンさんは固まった布にロープを結んで私を引っ張っていくようです。
「ところでウルム街道はどこから繋がっている街道なんだ」
「フリードの街の南西にあります、あ、そこの角を右手方向に進んでください」
「ああ、わかった。あと、頻繁に確認されるモンスターを教えろ」
「ウルム街道の1里目~5里目までにはフリードの街のエレメントに影響を受けた水属性のプリスライムが頻出しますが、レーンさんの実力でしたらなんの脅威にもならないと思います。ですがたまに、プリスライムの様子を確認しにスライムマンが現れます。ウルム街道が繋がっている先の街のチューンの街のエレメントが土のため、確認されるスライムマンの大半の属性は土のようです。」
「では、エルダースライムマンの属性は土の可能性が高いということか」
「そう推測出来ますね」
「そうか……なら、道具屋の場所を教えろ、買いたいものがある」
「分かりました。でしたら次の角を左手にまっすぐ進んでください」
アケルの道具屋に入ると店主のアケルさんは心地よく挨拶して下さいましたが、私が縛られているのを見ると何かおかしいことがあったのかと警戒する目になりました。
レーンさんはそんな視線を気にもとめずに土と水のお守りと中和剤と何やら怪しげな二種類の粉を買うようでした。
「レーンさん、それは?」
「凝固剤と火薬だ」
「何でそんなものが必要なんですか?」
「最悪の事態に備えてだ」
「最悪の事態って?」
「今はそんな質問に回答する猶予はない、急ごう」
気がつけばレーンさんは買い物を済ませていました。私はレーンさんに引っ張られて店を出ました。アケルさんは心配そうな顔で店内から私を見られていました。
レーンさんは教えた道通りにウルム街道の方へ足を勧めました。酷く早足だったので、私は何度もつまづきそうになりましたが、レーンさんはお構い無しでした。
街道の入り口に到着すると入り口は傷ついた冒険者さんたちでごった返していました。びしょ濡れになった方、スライムの粘液が付着している方、打撲傷の多い方、切り傷の多い方など、様々な怪我を負った方が約100人程倒れ込んでいて、冒険者さんたちが倒れ込んでいる間を縫って、お医者さんや看護師さんたちが処置を行っていました。びしょ濡れの方はスライムに不意をつかれたようで、陸上で窒息死しかけたのでしょうか、心臓マッサージを受けると咳き込みながら水を吐き出していました。スライムの粘液が付着している方には、看護師さんたちが中和剤を冒険者さんの全身にかけていました。打撲傷、切り傷の方々は包帯を巻かれたりしていました。皆さんの装備がところどころ溶けていたり、負傷者の数が多いのを見るとエルダースライムマンの強さが伺えます。
しかし、私は冒険者さんたちを見て何か不自然だと感じました。何が不自然かと指摘は出来ないのですが、何かおかしいと思いました。
「やはりそうだったか」
そう言うと、リーンさんは走り始めました。リーンさんはその不自然さの理由が分かっているようでした。
私はリーンさんに引っ張られてウルム街道に入ってしまいました。