1話
「私は『伝説の勇者』コリーナ·レーンだ!」
これには流石に集会所にいる今まで見ているだけだった冒険者さんたちもざわつき始めました。
おそらく、この集会所にいる冒険者さんたちの大半が初めて生の「称号持ち」を見たのでしょう。皆さんの視線がさっきから私たちの方に集中しているのが分かります。
一瞬、沈黙が訪れた後、女将さんがその沈黙を破りました。
「そんな事、あんたの装備を見ればわかるよ!あたしはあんたが『称号持ち』なぐらいでうちのランナを魔王だと決めつける事を許すと思ったのかい!?」
「なんだと、私は冒険者協会本部の人間であるし、私はナンラを直接見たことがあるんだ、私が正しいに決まっているだろうが!さっさとナンラを渡せ女将」
「それにしては、お付の人もいないし、前魔王を捕まえるにしたって、捕まえる兵隊なんか連れてきてやしてないじゃないの」
「それは、そんな大事は必要ないと私が思ったからだ、お前みたいな最弱魔王は私ひとりで充分だとな」
彼女は私を指さしました。篭手に守られた右手の人差し指が私を貫くようでした。
その時です。集会所に1人の冒険者さんが飛び込んできました。
「大変だ!ウルム街道の3里目付近ににエルダースライムマンが現れたんだ!もう二人も溶かされた!」
飛び込んできた冒険者さんの足の装備が溶かされて足が見えていました。
「緊急クエストだ!目標はエルダースライムマン!ここいらに出るようなスライムマンの親玉みたいなもんだ!ここいらを根城にしてる冒険者は文献でしか知らないだろうが、スライムマンと行動パターンは近似しているモンスターだ!でも、強さは桁違いだよ!粘液の酸性も強い!さぁ、腕自慢はいないのかい!」
誰も手を上げる冒険者さんはいらっしゃいませんでした。それもそのはずです。この街の集会所の平均レベルは約17で、エルダースライムマンの下位互換であるスライムマンでさえしっかりと準備して、綿密な計画を立て、6人がかりでようやく倒せるようなモンスターなのです、その上位互換のエルダースライムマンなんて無理だと思われる冒険者さんは多くいらっしゃるでしょう。
「なんだい!みんな意気地無しかい!いいかい!よく聞きな!エルダースライムマンを倒せば冒険者協会本部からクエストに参加した人数に関わらず1人10万ダールが一律に与えられるんだ!ここにいる冒険者全員で行って協力し合えば倒せない敵じゃない!戦おう!」
女将さんは冒険者さんたちを奮い立たせようとしますが、沈黙が続きます。冒険者さんたちも人なのでお金より命の方が大切なようです。
「なら私が行こう。」
私は、隣で立って、私を指さしていたレーンさんがこの集会所の冒険者さんたちに苛立っているように感じました。
「おや、あんたはランナを取っ捕まえるのが目的じゃなかったのかい」
女将さんは皮肉っぽく言いました。
「エルダースライムマンは本部指定の有害種だ、私は本部の人間だから、これ以上の被害が出る前に討伐する義務がある」
「じゃあ、ここの腑抜けた冒険者より肝の座ってるあんたに任せようか、あんたなら1人でも倒せそうだしな」
女将さんは集会所の冒険者さんたちをわざと挑発するように発言しましたが、冒険者さんたちはただ俯いているだけで、誰も女将さんに意見できる方はいらっしゃいませんでした。
「しかし、ここに前魔王ナンラを置いて討伐に行って、逃げられでもしたら敵わないから、ナンラは連れていくぞ」
レーンさんは私の腕をしっかり掴んで私を引っ張って連れていこうとしました。
女将さんはそのレーンさんの腕を掴みました。
「あんた、うちのランナをそんな危険な場所に連れてってどうしようってんだい。もし傷ついたりしたらどうすんだい、責任取れるのかい!」
女将さんは物凄い剣幕と怒声でレーンさんを威圧しました。
「心配するな、私は強い、それに何があっても私は全ての責任を取る。もし本物の前魔王でないとすれば、彼女には相応の例もさせてもらうつもりだ、さぁ、離せ」
そう言って、レーンさんは女将さんの腕を振り払いました。
女将さんは怒った表情の中に心配そうな表情を隠しているようでした。