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Re:"r"EKI  作者: Cr.M=かにかま
一章 〜異ナル世界〜
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8.陽動


検査は無事終わり、二人共問題なしと判断された。

バサシに出口まで案内されたる途中、ホークアイが呼び止め、バツの悪そうな顔をして頭を下げた。


「.....調査のためとはいえ、疑ってしまって申し訳ない。 あと、睨んだことと、言及しすぎたことも謝罪させてらいたい」


その様子に一番驚いたのはバサシだ。

まさか、あのホークアイが他人に対して頭を下げるなんて思いもしなかったのだ。

蓮見と夜々はきょとんとした様子で呆然とする、最初に口を開いたのは蓮見だ。


「いえ、そちらも仕事でやったことなんだ。 俺たちにも疑わしいことがあったのは事実だし、仕方ない」

「そう言っていただけると助かる」


もし、蓮見がホークアイと同じ立場であったら容赦なく疑ったであろう。

軍警団は仕事柄、他人を救うと同時に他人に疑われることを生業としている。

警察組織と同じで火曜サスペンスを欠かさず視聴していた蓮見はそのことをしっかりと理解していた。 但し、フィクションにおける知識なのでどこまで通用するかは些か不安なところはあったようだが。


「また、何かあれば力になろう。 部下の親友でもあるんだ、気兼ねなく軍警団を頼りにしてほしい」

「是非、そうさせてもらいますよ」


蓮見と夜々が解放された時刻は16時、もうすぐカフェ[蜘蛛の巣]も業務が終了する時間帯である。

買い出しに出かけてから、二時間弱が経過してしまっていた。


蓮見と夜々は急ぎ足で店へと戻る、買い出した品も心配だが、自分たちのせいで店の経営が回らなくなってしまっていては申し訳が立たない。

小坂の途中にある路地を曲がり、従業員が使用する裏口に回り夜々が勢いよく扉を開ける。


「あ、夜々。 と、蓮見はんも遅かったんやねぇ」

「.....ハァ、ハァ、す、すみません、ごしゅ、ご主人様、ぁ。 お、思わぬとら、ブルで帰りが、遅くなってしまい、マシタ」

「ええんよ、ええんよ。 無事帰ってきてくれただけでも一安心や」


ふらふらになった夜々の体を優しく蝶々が抱くように受けとめる。

夜々は顔を赤らめ、目を細めたかと思えばツーっと鼻血という名の愛が溢れ、蝶々の豊満な胸に垂れる。

蝶々はそのことに気づく様子はない。


「それで蓮見はん、一体何があったん?」

「実は–––」


その部屋にいた「蜘蛛の巣」の従業員達に囲まれながら、蓮見は商店街でまず【骸】の持つ毒で骨なし死体の第一目撃者となったことから話し始める。


–––そういえば、あの人物の身元は判明したのだろうか。

もし、あそこで蓮見が見つけていなかったら、どこかの誰かが見つけることになっていたのだろうか。

一緒にいた夜々が気づいただろうか、あの発見に何か意味があったのだろうか。

そんなことをつい考えてしまう、悪い癖だ。 蓮見はポケットに入れてあるダイスを握りながら手の中でコロコロと転がしていた。


「なるほど、さね。 だから軍警団の連中が騒ぎよったんやね。 とにかく無事で何よりどす、お二人さん」

「店の仕事ができずに申し訳ない、今日の分の給料は引いといてください」

「蓮見はん、前も言ったけどそう言うんはなしや。 あんさんの働き具合はうちが保証するし、そないなことであんさんの評価が下がるはずもなし、働いてもらった見返りはしっかりと返す、増やすならともかく、減らすなんてありえへんよ」

「店長.....」


蝶々は笑みを崩さずにカップに口をつける。 淹れたての珈琲は湯気が立っており、蓮見の前にも同じようにして置かれる。


「そら、とりあえずこれ飲んで落ち着きな。 あんま心配させんじゃねぇ」

「キリアス」

「.....人手不足だったのは事実だ、けど、それだけで機能が停滞するほどこの店は柔じゃねぇよ」


踵を返し、厨房の方へとキリアスは戻って行ってしまった。

顔を見ることはできなかったが、声色からして疲れていることが伝わってきた、蓮見が知る由もないが本人は隠しているつもりである。


「照れ屋」

「.....うっせ」


厨房から何やら聞こえてきた。


「まぁ、そないなわけやし、今日は早う店を閉めることにしたんや。 客も少なこうたし、ええやろ」


蝶々は、はだけた着物を直しながら、寝てしまった夜々を抱き上げる。

腕が四本ある蝶々ならではの仕草である、スヤスヤと寝息を立てる夜々は起きる様子はない。


蓮見はホールの掃除を済ませ、薪を何本か割ってから着替えを済ませ帰ることにした。




その頃、軍警団の方ではある人物の調査が行われていた。


–––曰く、その人物は蓮見征史と夜々が【骸】の毒によって死亡した者を発見した際に近くを観察するように歩いていたとか。


–––曰く、その人物はあの悲劇を巻き起こした頃、いや、もっと前から【骸】を売り捌いている疑いが掛けられているとか。


–––曰く、その人物は背が低く、猫背で頭にまでフードを被っている老婆と思われる容姿をしているとか。


「間違いないんだな、ケルベロス」

「えぇ、三年前捕らえきれずに逃してしまい、今の今まで音沙汰のなく死んだと思われていました。 一週間前までは半信半疑でしたが、確信に変わりました、団長!」

「.....[魔女]ッ!!」


–––りんごに似た毒の果実【骸】を売り捌く様子から、童話『白雪姫』からなぞらえ、人々は[魔女]と呼んでいた。


「最後に目撃されたのは、ジャンヌのクソアマが言ってたケルトとヌンクの街道、だったはずッ!」

「待て、まさか一人で行くつもりか?」

「善は急げです!! 奴が遠くに行く前に息の根を止めてやるのが筋でしょうがッ!」

「–––だからこそ待てと言っている、お前みたいな優秀な部下を易々と失うわけにはいかない、市民のために奔走している我々が冷静を欠いてどうする? 焦る気持ちはわかる、たしかに急ぐべきだが、こういう時こそ落ち着いて点ではなく面で場面を見なければならない!」


桃太郎は咥えた葉巻を灰皿にグリグリと押し潰しながら、ケルベロスを諌める。

間違いなく事態は進んでいる、桃太郎達にとって、悪い方向にも良い方向にもだ。

だが、情報が圧倒的に足りていないというのも事実。 一度取り逃がした相手となるとそれ相応の人手も準備も必要となってくる。


「まず、我々が考えるべきことは大きく分けて三つだ。

–––第一にその[魔女]と思しき人物は本当に【骸】を売り捌いているのか、それがりんごの見間違いではないか。

–––二つ目、何故[魔女]なる人物はこのヌンクに姿を現したのか

–––三つ、[魔女]の活動範囲の特定だ。」


「–––いくらなんでも、呑気すぎないか団長? もう犠牲者は出てる、そんなこと考えてる間に次々に犠牲者が出る可能性だってある!」

「ならば、そちらに人員を多く割けば良いだけの話だ。 ケルベロス、お前はこのヤマたった一人で解決しようとしてないか? それは違うぞ、我々は個に非ず『軍』を成している」


適材適所。

捜索が苦手な人間に捜索を任せても、成長や発見はあるかもしれないが進展が疎かになってしまう。

逆に捜索が得意な人間に捜索を任せると事態は進む、一歩先にも二歩先にも進むことだってある。

当たり前のことだ。 冷静でいられない時ほど当たり前のことができないようになっているのが人間だ。


「–––ケルベロス、お前はジャンヌを入れた五人一組で[魔女]の捜索に当たれ、捜索範囲はケルトからフィガロの間。 お前はその司令塔だ」

「.....あの女、ジャンヌとは、どうしても、組まないといけません、か?」

「嫌そうだな」

「嫌なんですよ」


ジャンヌとケルベロスの不仲に関しては軍警団の誰もが知ってることだ。

喧嘩をすれば両者一歩も引こうとはせず、己が正しいと相手に認めさせるまで一時的な熱が冷めても冷戦状態へと持ち込まれることだってある。


–––だが、それで良かった。

むしろ、それこそが桃太郎の狙いであるということにケルベロスは気付くことはないだろう。


「ま、そう言うな。 一応あいつが最近の発見者で接触した数少ない奴なんだ、次も向こうから現れる可能性だってある」

「目撃者が少ないことをこれだけ悔やんだのも久々ですよ、畜生め」

「なかよくなー」


ケルベロスの鬱憤は募る。

桃太郎は若干後悔しているが仕方ない、二人の仲を少しでも良くしなければ今後の仕事に支障をきたす。

団員からもあの二人に関しては多く相談を受けていた。


(まぁ、なんとかなるだろう!)


後悔は一瞬にして消える、桃太郎は軍警団一前向きな性格をしているのだ。


廊下をズカズカと歩くケルベロスはホークアイ班の活動している部屋の前にまで辿り着くと、ノックをせずにそのまま扉を開け、運悪く居合わせたホークアイによって箒で頭を殴られることになったのは別の話である。


「ノックをせんか、それでも貴様一部隊の班長か? 最低限の礼儀は弁えてもらおう」

「机に座って、部屋に入ってくるやつの頭を箒でブッ叩く女に礼儀がどうこう言われたかねぇよ!」


ケルベロスとジャンヌ程ではないが、ケルベロスとホークアイの組み合わせも相当相性が悪い。


「それで、何か進展があったのか?」

「.....[魔女]の目撃情報があった、そして正体に目星がついた」

「!」

「それで再度調査を行う、ジャンヌはいるか? 団長の指示であいつと組むことになった」

「ジャンヌならもう既に帰ったぞ」

「呼び戻せ!! 今すぐにだ!!」

「誰に向かって、口利いてんだ、犬畜生!!」


部屋の入り口で睨み合う警部二人。

ホークアイ班の面々は慣れた様子で周囲に被害が及ばなさそうなことを確認し、作業に戻った。




少し時間を遡り、今日の14時と半刻。

蓮見と夜々がまだ軍警団に軟禁されてた時間である。

ヌンクとフィガロの間で二人の人物が会話をしている様子が目撃されている。 目撃したのは軍警団下っ端の団員、しかし、報告は本部には届くことはなかった。


「–––今日も売れた売れた、ニョホホホホホ」


–––笑う老婆の側には籠に入った三個のりんご、売れ残りが収められていた。


「これで奴が、この世界から消えれば全て解決も同然。 ワシの人生が報われる」

「.....あんま目立つ行動はよしてくれよ婆さん。 口止めだって大変なんだから」

「そう言うな、ワシとお前さんの仲じゃろ」

「何事も程々にね、ホント、お願いだから。 私もまだバレたくないんだから」


–––老婆の隣に立つ黒いゴシックドレスを着た少女はシャリっとりんごを一口齧った。

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