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Re:"r"EKI  作者: Cr.M=かにかま
序章
1/21

ベンチに少女

黄土色の雲が流れる灰色の空の下で汽車が汽笛を鳴らす。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、と車輪と線路の接触する音が無人の駅のBGMとして奏でられる。


暇そうに欠伸をする駅員と存在を誇張している時刻表、駅の周辺にはカキツバタの花が所々に咲いており、駅の入り口には三人掛けのベンチが二つ並んでいるだけの小さな小さな駅だ。もういつ撤去され、その役割を終えるかわからないくらいの過疎具合であるにも関わらず汽車は止まり続ける。

その一つの要因としては駅のベンチに腰掛けるりんごを持った少女の姿があるからだと思われる。もう常連のようなものであり、少女の姿が目撃されるのはこれが初めてではない。

黒に近い紫色のボブショートの上にぴょこっと耳のようなリボン付きのカチューシャを組み合わせている。

藍色を基調とし細部に黒と白のラインがデザインされたゴシックドレスはどこか哀愁にも似た暗い雰囲気を漂わせる。少女の美しい碧色の瞳は駅、否、目の前の景色に目もくれることなく、その先をじっと見つめているようだった。

汽車の発車した勢いでリボンとスカートが風に揺られ、カキツバタの花も合わせるように同じ方向に揺れる。巻き上がった土埃と汽車から出た蒸気の凄まじさに少女は思わず片目を閉じてしまう。


駅の名をシャルル。

汽車から降りてくる人は今日もいない。もう寂れ廃れてしまったこの土地を訪れた奇特な物好きは三年前が最後である。少なくとも少女が確認し、記憶している中では、の話だが。

隣の駅から先程の汽車の汽笛が聞こえてくる。少女の視力があれば目視で確認することも容易い。

少女は片手に持ったりんごを宙に向かって投げては手に取り、投げては手に取りを繰り返しながら、ぼんやりとした表情で遠い世界を見つめている様だ。その瞳の先には何を映し出しているのかは定かではない。


短いスカートの下から覗く、黒いブーツを履いた華奢でどこか筋肉の付いた両足をプラプラさせながら、りんごを手に取りシャリッ、と一口齧る。

溢れんばかりに口内から滴る果汁を左手の指で拭い、口の中に入れたりんごを噛み切ってから小さく呟く。


–––早く、速く、夙く、会いたい、愛たい、逢いたいよ。

–––お父さん。


少女はベンチから立ち上がることも汽車に乗る様子もなく、ただベンチに座わっている。シャリッ、とりんごが芯だけになるまでりんごを齧り続けた。


まるで何かを待ち続けるかのように、ただそこにじっと座りながら。

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