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失踪した夫

作者: 束田慧

 夫が失踪してから、一月が過ぎようとしている。

 勝利至上主義だった彼を恨む者は多い。警察は怨恨絡みの事件を疑っているようだが、私のこともかなり調べているようだ。

 確かに、夫には多額の保険金を掛けているが、お金に困ったことも、夫婦生活に不満を持ったこともない。

 度重なる警察の聴取とご近所の冷たい視線に晒されて、どうにかなりそうだ。夜家にいても誰かに見られているような気がして、ぐっすり寝ることもできない。


 このままでは私の心は壊れてしまう。そうなる前に自分で夫を見付けようと、私はある人物を頼ることにした。

 調べ物中に見付けた『捜し物承ります』と銘打たれた、メールフォームしか置かれていないサイト。普通なら誰も相手にしなそうな謎の管理人に何故か惹かれた私は、迷わずメールを送った。


 ただ一言、夫を捜してほしい、と。


 返信を確認したのは翌朝。私が寝ている間に返ってきていたようだ。何となく予想はしていたが、超能力を使って捜すらしい。胡散臭さは増したが、今は藁にもすがりたい。

 一つ、最後に『後悔しないか?』と書かれていたのが気になったが、捜索を依頼することにした。

 こうしている間にも、私の精神はどんどん蝕まれている。なるべく早くとお願いしておいたが、はたして何日かかるだろうか。

 そんなことを考えながら、いつも以上に寝苦しい夜を過ごした。


 翌朝、重たい目を何とか開いてメールボックスを確認する。


 新着あり。


 その文字を見た瞬間、私の脳は一気に覚醒した。

 メールの内容はこうだ。『ポストに手紙を入れておいたから、それを持って警察に行きなさい。中身は絶対に見ないように』

 間違いなく超能力者からのメールだが、不可解な内容だ。

 絶対に見るなと言われると見たくなるものだが、今は彼(?)に従うしかない。

 ポストを確認すると、確かに差出人不明の手紙が入っていた。住所なんて教えていないのに、さすがは超能力者と言ったところか。

 百パーセントとは言わないまでも信用度は上がった。手紙を未開封のままポケットに入れ、行きたくもない警察署に向かう。


 その結果…………


 私は、逮捕された。

 手紙の内容は分からないが、私が夫を殺した、ということらしい。

 容疑を否認した私に、警察はカウンセラーをあてがった。確かに精神的に参ってはいるが、一体どういうつもりなのか。


 半強制的な検査の末、とんでもない事実が判明した。

 どうやら私は多重人格――いや、今は解離性同一性障害と言うんだったか――らしい。

 そして、他の人格が夫を殺したのだと。

 超能力者が言っていた後悔とはこのことだったのか。確かに、他人格とは言え、自分の手で夫を殺してしまったことを知ってショックは大きかった。

 この時はそう思っていたが……本当のショックは後に待っていた。


 私の人格は三つ。

 超能力者と殺人者、そして今の人格。

 寝不足の原因が超能力者にあったことは理解したが、もう一つの事実は理解したくなかった。


 私ではなく、殺人者こそが本物の人格だったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんわ。 ホラーの要素も感じてしまいますね。 あれこれ想像させれれて楽しめました。
[一言] 星新一先生などのショートショートの匂いのする作品。 語らないが故に現実と違う常識の存在する世界であることを感じさせてもらえました。 良作です。
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