試験
この街はガラード王国という国の東端にある辺境だ。また近くにダンジョンがあり、魔物のレベルも高く冒険者の街と言われている。
この街を治めているのはリグルンド・レイダス伯爵だ。
この街は国とは別に独立した街として認められている。ダンジョンが近くにある街だから重要なのだ。またそれを目的に強い冒険者が集まる。つまりガラード王国が程度の権力をリグルンド伯爵に与えているのはここがそれだけの場所ということになる。
俺の正面に座るこのオッサン、リグルンド・レイダス伯爵は大物なのだ。
「何故こうなった…………」
俺が伯爵に会うことになる理由は少しの時間遡る。
波での疲れで休憩室にいた俺にギエルが言った『領主が呼んでいる』つまりリグルンドが呼んでいると知った俺は、
「っえ、何やだ面倒い」
だってよく考えろ、街に来たばっかの弱小冒険者(自称)を呼ぶということ自体が何かあると思わせるには十分じゃないだろうか。
「礼儀とか知らんし…」
ぼやいた俺にギエルが余計な助けを入れる。
「あの人はそんなの気にしないぞ、てかあの人自体が礼儀があまり得意じゃないし」
「ミュウはどうするんだよ?」
ミュウには悪いが盾に使わせてもらう!
「同行OKだ」
何だと、
「俺も付いてくからな、ほら行くぞ」
止めてぇぇーやだぁぁぁぁぁあああ!
という訳である。ちなみに同行者グレン、ギエル、ミュウである。
「初めましてだな、リュートくん?」
「初めましてリグルンド伯爵」
つうか何故に俺の名前?有名なのか?
「君の名前は有名だよ、ランクS魔物を連れていて更には波の緊急クエストで活躍、知らない方が可笑しいと思うが?」
心の疑問に答えてくれた。すげぇ
「そう…そうですね」
つい普段の癖で言葉遣いが……
「ワハハ、言葉遣いなど気にせんでいいよ、なぁグレン?」
「そうだぞ、リュート。コイツに礼儀なんていらん」
グレンさんもすげぇ皆分かる?この街治めてるオッサンにタメ口だぜ!
「そんなら遠慮せず、伯爵とギルマスはどういう関係で?」
少し前から気になっていた。ギエルがココについてきたのは分かる。しかしギルマスのグレンが付いてくる理由が分からなかった。
「俺とリグルンドはガキの頃からの仲だからな」
伯爵とガキの仲とは……
「それは置いといて本題に入ろう。君のランクを一気にBに上げたいんがその話をね」
「条件は?」
「そこのギエルとの模擬戦による試験」
「俺が受けることのメリットとあんたのメリットは?」
「君のメリットは俺の後ろ盾が出来るのと、指名依頼が受けられるようになる」
なるほど冒険者として特殊な依頼を受けられるようになるのと、伯爵という後ろ盾が出来ることか
対して伯爵のメリットは俺という戦力の保護と依頼についてか…
「伯爵も俺という戦力が欲しいという事ですか?」
「…鋭いな。まぁそういう事だ」
俺にデメリットがある訳では無いが、
「俺は旅に出るからここにとどまる期間は長くないぞ?」
「構わんさ」
「分かった、その話受けよう」
「良かった、ではギエルとギルドの訓練場で模擬戦をするから向かってくれ」
っあ!わ・す・れ・て・た
という訳である、訓練場でーす。ちなみにミュウも先の話でランクCにはなるそうでーす。本人も了承している。
「審判は俺が行う」
ギルマス直々に審判とは。
「リュート本気で来いよ!1度戦ってみてぇと思ってたんだ!」
面倒臭い…
「程々にがんば「リュートさーん頑張ってくださーい!」全力出すか」
ミュウが外から応援している。頑張る理由?そんなのミュウの応援で充分。
「では、始め!」
審判の声と同時に雷神の斧を振りかざしながら、迫ってくる。
「おうりやぃやぁぁあ!」
雄叫びと共に振り下ろされる斧を刀のセブンズ・ソードで受けるが、凄まじい威力にふっとばされる。
「げっ」
どんな腕力してやがる。ギエルのステータスを覗く。
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ギエル 男
人間
レベル55
冒険者ランクA
HP 4000
MP 2000
力 5000
速 1000
戦闘スキル
斧術Lv6
装備
雷神の斧
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パワー俺より上じゃねぇかよ!
「おいおい、そんなもんか?」
上等じゃねぇか、見せてやるよ。体中に魔力で身体強化を施し、セブンズ・ソードの能力を使う。
刀だった物が徐々にでかくなっていき、大剣となる。
「マジか!」
ギエルが驚いているが無視。大剣を片手で構えて一気に踏み込み接近して大剣を両手で振り下ろす。ギエルはギリギリで向かいうつが、今度はギエルが吹き飛ぶ。
「仕返しだぜ!」
「やるじゃねえか!」
吹き飛んだギエルが戻って来て、再び切りかかってくる。今度は両者吹き飛ぶことなく切り結んでいる。なぎ払われる、斧を大剣を縦にしてガードそこから上に切り上げるが斧に向かい打たれる。
「拉致があがねぇー!」
全くそのとおりだ。
「次で終わりだ!」
2人が全力の一撃を振り下ろした衝撃で両者に距離が開く。
「これが防げたら合格だ!」
斧を振り上げて構えるギエル。斧に魔力が集まっていき、雷神の斧の名に恥じない雷を纏う。
「防げるか?!」
ギエルの腕力をもとに振り下ろされた斧の一撃は雷を纏い地面を裂きながら迫る。
リュートは当たる直前に振り上げておいた大剣を全力強化した両手で魔力を込めて振り下ろす。
「上等だー!うおぉぉぉぉぉりゃぁぁあ!」
ギエルとリュートの一撃が衝突した時、爆発が起きた。
煙が晴れると、無傷のリュート。
「止めッ!」
どうやらほんとにさっきのを防いだら、←合格だったらしい。
「お前ら少し本気になり過ぎだ!周りを見てみろ!」
グレンに言われて周りを見る。訓練場の地面がえぐれている。2人の最後の一撃が衝突した場所だ。
「とりあえす、合格だよな」
「………ああ、合格だ。冒険者カードを受付で更新してこい」
「分かった」
こうして俺は余裕でランクBになった。
この後ギルド職員に訓練場がここまでなった責任を取らされてひとりで整備するグレンをリュート達は知らない。