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7.魔女

情報省の長官セリウスの執務室にて。


セリウスは妻のリーリアが誰よりも大好きであるが、二人の間に生まれたレイモンも、もちろん大好きである。特にレイモンの成長する姿を楽しみにしている。

そのため、レイモンが初任務についてからは、レイモンの日常がわかる定期報告書を読むのが最近の楽しみで、昨夜、届いた定期報告書を微笑ましく思っていた。次にきた緊急報告書を読むまでは…。


レイモンからの緊急報告書を読んだセリウスは険しい表情で言い放つ。

「マルセル、すぐに魔法省のクリスを呼んでくれ。至急だ!」


呼び出されたクリス・カストーナは魔法省でも次期長官と言われ、魔法省でも上位の役職についている。彼はセリウスと幼馴染で同級生であり、ついでに色々と弱みをセリウスに握られた関係でもあった。


「朝早くから、何かありましたか?」


「朝早くから悪いね、クリス。

君の意見や知識がすぐに必要でね。

例のエリーダ街のキルシェ孤児院の件だ。」


「ああ、あの神隠しの孤児院ですね。何か進展が?」


「そう。どうやら、あの孤児院に魔法で若返る技術のある人物がいるらしい。そして、その若返りのために消えた子供の魔力を使ったんではないかと、潜入させた捜査官が言ってきたんだ。

そんなことはありえるかな?

あと、一晩だけでも30歳以上若返るのに必要な魔力ってどれくらいになる?」


「うーん…。確か、若返りの魔法は元年齢にもよりますが、5歳若返らせるだけでも、魔法省に入れるレベルなら30人、王族なら3人分の魔力がいるくらい膨大な量が必要なはずです。だから、若返りたい貴族女性でもなかなか手が出せない魔法です。一晩だけでも30歳以上も若返らせるなんて王族20人分くらい魔力が必要で、無理な話ですよ。」


「魔力の強い子供達を集めたら可能かな?」


「例え魔力が強くても、その子供達の魔力を使って、一晩に30歳も若返らせるには、普通なら子供の数がかなり必要になります。おそらく、100人以上は必要かも。行方不明の子は何人ですか?」


「4人だ。」


「うーん、ありえないですね。その中に通常の何倍もの魔力を持つ子でもいるなら、話が別ですが…。」


「その魔力が通常よりも多い可能性があるなら、ありえるのか。じゃあ、その4人の子の魔力を調べられる?」


「いや、無理ですよ。騎士とか学院に通っていて魔力測定したことがあるなら記録があるので確認できますが、孤児院の子の魔力は調べるのは難しいですね。」


「たぶん、彼らの亡くなった両親は魔力測定をしていると思うから、そこから推測はできないか?あるいは、もしかしたら行方不明の子の中に、他国の王族がいるのかも知れない。」


「いえ、例え仮に全員王族の子でも4人では、一晩でも30歳も若返らせるのに必要な魔力を供給するのは無理ですね。」


「…そうか。」


「…あと、もうひとつだけ可能性があります。でも、まだ生きていたのかな?」


「何?」


「『効率の魔女』はご存知ですか?」


「ああ。文献でしか知らないけどね。

確か、通常、魔力が大量にいる作業を、同レベルの作業を少量の魔力で行える魔力効率が異常に良い特異体質を持つ女性のことを『効率の魔女』と呼び、このランダード王国にはまれに生まれることあるとあったな。

それが今回の件と関連が?」


「おそらく。

『効率の魔女』は、歴代ですと、植物をすごい速さで成長させる『植物成長の効率の魔女』や、動物をすべて操れる『動物使いの効率の魔女』などが有名ですね。セリウス殿下と野猿を捕まえるために、まだその方が生きていないか一緒にその方のことについて調べたことがありましたね。」


「そうだな。まだ6歳の時に。」


「ここ最近では、数年前に『年齢操作の効率の魔女』が確認されていました。」


「ああ、そういえば。でも、とっくに亡くなったという報告を聞いたが。」


「そうなんです。もう亡くなっているはずです。

数年前に、少量の魔力で年齢を操れる魔法が使える少女が確認されて、その少女は自分の姿を年老いたり、若返ったり自由自在にできて、さらに、他人を一時的にですが、若返らせたり、年を取らせることもできる能力もありました。素晴らしい能力なのですが、全ての『効率の魔女』に共通する厄介なところは他人の魔力を好んで喰う性質をしているのです。

だから、私利私欲で他人の魔力を貪ったりさせないために、彼女も当然、歴代のように魔法省管轄で、管理をする予定でした。しかし、国が保護する前に、その少女を、若返りたい貴族が捕まえて監禁したあげく、死なせてしまったのです。その遺体を彼女の両親も確認しています。

でも、もし、その少女が本当は生きていたのならば、子供1人程度の魔力を喰って、一晩で30歳くらいは若返らせるのは可能です。もしかして、今までその孤児院で身を隠していたのかも知れませんね。」


「『効率の魔女』か…。

その事件の全貌と、少女の名前や素性はわかるかな?その容姿や実年齢などの詳細も知りたい。」


「はい。すぐに調べてみます。」


「至急で頼む。」とセリウスはクリスに依頼すると、今度は情報省の職員に指示を出す。

昨夜、レイモンが突き止めた男の家から男の素性を洗い、院長の素性も、その『効率の魔女』と関わりがあるか、例えば彼女を死なせたとされる貴族の親族ではないか等の視点での再調査をするように指示をだした。


その日のうちに、情報がすべて揃った。


『年齢操作の効率の魔女』

名前をアリスディン・オークルと言い、国から国へと旅する行商人の子として生まれた。両親の商売の関係で移住先を転々としていたため、なかなか居所がつかめす、保護が遅れて犯人の貴族に先を越された。そして、その貴族は予想通り、院長の親族であった。おそらく、院長自ら、彼女を助け、今まで匿っていたのだろうと予想された。

その髪色や瞳の色、実年齢から該当する人物は1人。


レイモンの報告書にあった「シスター・アリス」である。


それがわかるやいなや、セリウスはすぐにレイモンにその孤児院から撤退する緊急時指示をだし、部下たちにはシスター・アリスと院長の拘束を命じた。

ただ、子供達の居場所がわからないため、このまま潜入捜査を続け探ることも検討されたが、王家の血を引き、魔力の高いレイモンが次のターゲットになる可能性はかなり高く、レイモンの安全のための緊急措置でもあった。

この命令はセリウスが速やかに下したため、その実行も最短で行われた。

しかも、レイモンに撤退の緊急時指示は半日もかからずに届けた。


それなのに、時はすでに遅く、レイモンは既にシスター・アリスに捕まってしまった後であった。



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