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6.謎の美女

シリアスが続きます。

翌日から、本格的にレイモンの孤児院生活は始まった。


もっともレイモンにしてみれば、普段から、例え雑用でもセリウスの元で仕事をして、他の時間は家庭教師付きの勉強や剣や魔法の鍛錬ばかりで、へとへとになる日々であったので、それに比べてこの孤児院での生活の方が気楽であった。

しかも、同世代もいる環境のため、同世代と過ごせることが楽しみでもあった。


この孤児院は、子供でも施設内の業務や内職仕事、自分達の食べる野菜の畑仕事などがあるが、1日中、働きづめではなく、子供達が遊べる時間などの自由時間もとってくれるため、レイモンは孤児院内の調査を密かにできた。翌日からすぐに、魔力の動きに不審な点がないかと、調査を進めること2週間。

正直、どこにも不振な点がみつからず、このまま3ヵ月をここでのんびり過ごすことになるのか~、でも、それもいいかなとも思い始めるレイモンであった。


自由時間に、「レイ~!あの木の上にある木の実、とれないかな?」と聞いてくるリーガンに、快く答えるレイモン。


「うん!まかせて!!」と言って、するする木に登り、危なげなく木の実を採取するレイモン。野猿な令嬢の息子『小猿』として、家でもよく木に登って遊んでいるので、本当に木登りは得意である。


そんなレイモンの登った木の下でレイモンのファンたちが騒ぐ。


「いやーん!レイ君って王子様みたいにかっこいいのに、木にも登れてワイルドかっこいいー!」


「本当よね~!普段はすっごく、紳士なのにかっこいいよね~!」ときゃあきゃあ騒ぐファンたち。ほとんどがこの孤児院の女の子であるが、1人、不審者も…。


「くっ、木の下から見ても美少年!白く輝く手足が眩しい!!

しかも、野猿のように俊敏なのに、美しいってどういうこと!?ぐふっ!」とやはり鼻血を巻き散らす、シスター・アリス。


木に登ったレイモンがふと一息ついた時であった。

木の高さのため、普段は中が見えない孤児院の窓が見えて、そこに院長の姿が見えた。

そこはどうやら、院長の私室のようで、着替えをしているようであった。


(まずい!着替えを覗いていると思われるのは困る!!)と思い、レイモンは急いで木から降りようとした。しかし、その時に見えた、院長が、鏡の前で、まるで恋する乙女のような様子で、院長の年齢なら絶対着ないようなピンクのイブニングドレスをあてている姿に、何か引っかかるものをレイモンは感じた。


(実は、あの院長がいまだにあんな若者向けのドレスを普段は来ているとか?

いや、あの真面目が服着たみたいな院長がまさかね。せいぜい昔の思い出の服を取り出して懐かしんでいただけだろうな。でも、あのドレス、全然古そうじゃなかったのが気になる…。)と悩むレイモン。


そのせいか、夜中にセリウスへ定期報告をした後も、なかなか寝付けず、ふらっと外へ散歩にでてみようとした。


すると、昼間、院長が持っていたピンクのイブニングドレスを着た女性が孤児院の裏口から出ていくところであった。


レイモンは初め、その女性がシスターのうちの誰かとも思ったが、既に全員のシスターの容姿を把握しているため、その女性の容姿が誰にも当てはまらないことを冷静に考えて気付いた。


いや、1人だけ当てはまる。あの髪色は、この孤児院のシスターで1人しかいない…。


レイモンはまさかと思ったが、夜の街に行くらしい彼女の後を見つからないようにそっと追ってみた。


ピンクのドレスの彼女は、街にある綺麗目の居酒屋に入っていった。

中をこっそり覗いてみると、その女性はデートの待ち合わせのようで、短髪黒髪で、いかにも男らしい体型の男性と会っていた。

その時、彼女の顔も見えたが、(美人だな…。)と思えた。

しかし、その顔のシスターを知らないが、その顔を老けさせた顔のシスターならよく知っている。


院長…。


何故、彼女があんなに若返っているのか。

化粧で若作りをしていると言っても皺のある院長の顔を修正するのにも限度がある。しかも、彼女の顔は厚化粧ではなく、口紅しかつけていない、ほぼナチュラルな顔なのに、皺ひとつなかった。


どういうことだ?

まさか、行方不明の子供達の若さでも吸い取ったのか?


そんな想像して、ぞっとするレイモン。

昔、本で読んだ若い乙女の生き血を浴びて、若さと美しさを保ったという悪い魔女の伝説を思い出した。でもあれは作り話だ。この件とは関係ないか。


じゃあ、彼女は何者だ。


ひとつの仮説として、彼女は院長の親戚で院長によく似ている人物とする。院長が可愛がっていて、あのピンクのドレスを彼女にプレゼントして、私室で着替えさせてあげた。

それなら、辻褄が合う。院長が今、孤児院にいるのなら。


もうひとつの仮説は、院長本人。彼女が何らかの手段で若返った。薬か魔法かわからないが、効き目は長くないから、夜だけ若返り、一夜だけの青春を取り戻している。

以前、エミールが性転換より、若返りの薬や魔法の方が魔力さえあれば簡単だと言っていたのを思い出した。院長が今、孤児院にいないのなら、その可能性も高くなる。

そして、もしその場合、行方不明の子供達との何らかの関連も否定できない。


レイモンがどちらなのか、隠れて悩んでいる間に、問題の彼女とのカップルは居酒屋で食事をとり終えたのか、仲睦まじい様子で出てきた。

その後をさらにレイモンが追うと、1件の家に入って行った。

どうやら、そこは男の家のようである。


男の家を把握したレイモンは、すぐに孤児院に戻り、院長が孤児院内にいるかどうかの確認に向かった。


まず、院長の部屋は当然、鍵がしまっていた。鍵穴から魔力を糸のように通して、中に人の気配があるか探る検索の魔法を使ってみたが、そこには誰の気配もなかった。

次に、院長が他に厨房等の孤児院のどこかに行っていないかの確認もしたが、見つけることができなかった。

最後に、孤児院の裏口でピンクのドレスの彼女が孤児院に戻ってくるか、待ち伏せをすることにして、裏口近くのどこに隠れようかと場所を探している、その時…。


ぽんっと肩を突然、叩かれた。

ビクッとして、振り返ると、心配そうなシスター・アリスがいた。

そして、レイモンに触れているのに、いつもだと出ている鼻血がでていない様子に、驚いた。


「レイ君。夜中にこんなところでどうしたの?眠れないの?」


「あ、あのシスター・アリス。そう、僕、眠れなくてちょっとお外へ散歩に行きたくて…」と言い訳をするレイモン。今のレイモンの恰好は寝間着ではなく、むしろ外着に近い恰好をしているため、眠れなくて院内をうろついていたという言い訳はできないので、とっさについた嘘である。


「そっか…。でもこんな夜中にお外は危ないから、院の中庭へ私と散歩しよう。よければ、眠れない訳も聞かせて?」といつもとは全然違うアリスの優しい感じに戸惑うレイモン。


偽物のシスター・アリスかと疑うくらい、今日の彼女は何だが悲しげであった。

結局、2人でしばらく中庭を散歩することになった。


「ふふふっ、ついに美少年と夜中のランデブーだわー!ひゃー!!グハッ」とか普段のアリスなら鼻血を噴きだして言いそうなのに、今日はむしろ力尽きたような感じである。まるで年老いたように…。

そのことに気付いたレイモンは彼女の異常な枯れ具合は、院長の若返りに関与しているのではないかと疑った。

じっとよくシスター・アリスを観察していると、彼女の方から話しかけられた。


「ねえ、レイ君。どうして今夜は眠れなかったの?」


「あ、うんと。たぶん昼寝をしたせいかと思います。今日は昼食当番がすごく早く終わって、時間が余ったから、自由時間に部屋でちょっとお昼寝しちゃって。」


「そっか。だから、午後は木登りしたり、木の実を集めたりして元気いっぱいだったのね。」


「はい…。」と答えつつ、レイモンは午後の行動を知っているのは、やっぱり本人だからかと考える。


「じゃあ、今度は私がレイ君に相談していい?」


「…僕でわかることなら。」


「…実は、恩のある人にあるお願いをされて、1回で良いからと言われたの。もちろん、私にできることだから一度だけという約束で叶えてあげたらね、次もって要求されちゃったの。事情をきくと叶えてあげたいと思えっちゃって。でも、ずっとそれを続けていくには犠牲が必要なの。

そういう場合はどうすればいいのかな?犠牲を払ってでも叶え続けるべき?

それとも、もう断るべきかな?でも、断ると、失いたくないと思うものを失くしてしまうの。

本当にどうすればいいかな?」


「…その犠牲って人の命に関わること?自分や誰かの命を犠牲にして奪うこと?」


「…自分の命は削ることになるかも。でも、レイ君、私は人の命を奪わないし、奪ったこともないよ。

ごめんね、こんな話をして。とりあえず、今の話は全部忘れて。お願い。」


「わかりました…。」


レイモンとアリスはそのまま夜の散歩を終えて、それぞれ自分の部屋に戻った。


翌朝、院長は生き生きとしているように見えて、一方でシスター・アリスは昨日からの疲れを引きずっているように見えた。


レイモンはまだ仮説の段階で、子供達の行方すら何もつかめておらず、何の証拠も詳細もまだ全然解明できていないが、今回の事件について、昨夜見聞きしたことの報告と推測を、いつもの定期報告とは別に緊急報告としてセリウスへ送り、その指示を待つことにした。


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