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彼らの日常(カフェ編)

作者: ウミネコ

一月末。

真冬にしては珍しく寒さの緩んだある日の午後。

僕と祐二は大学近くのカフェにいた。

生憎店内は満席で外の席に座っていたのだけど、風もなく日差しが暖かくてちょうどいい。

もうしばらくしたら将雄も合流してごはんを食べに行くことになっているので、それまでの時間潰しのつもりでこのカフェに入ったのだ。

これは何時ものパターンで、三人で行動する時には大抵このカフェが待ち合わせ場所になっていた。

だから特に何を言わなくてもみんなここに集まる。

そして時間の潰し方もそれぞれで、他のメンバーがいてもそれは変わらない。


祐二の場合は、文庫本を読みながらコーヒーを飲む。

話し掛ければ応えるけど自分からは特に口を開かない。

本を読みながら時折コーヒーに手をのばすその姿は同性の僕からみてもとても様になっている。

店員のお姉さま方が、誰がオーダーを取りにいくかでいつも揉めてるだなんて本人は知らないだろうな。

知ってても関心なさそうだけど…。


将雄の場合は、携帯を絶対に手離さない。

いつもメールを打っていて、その送り先のほとんどは女性だ。

返事がまともに返ってきてるのはあまりみたことがないけどね。


そして僕の場合は…


「お待たせしました」

そういって店員が僕の前においた注文の品。

純白が眩しいクリームに、その中央に座してまるでルビーのように存在を見せつける大ぶりの苺。

皿の上には僕の大好きなケーキが乗っていた。

「いただきます」

フォークを手に取り、形を壊さないよう慎重に突き立てた。

土台のスポンジは抵抗なくフォークを受け入れてくれる。

すくいあげた一口大のケーキを口に含めば、最初に広がるのはクリームのなめらかな甘み。

次にとけるほどにふわふわと柔らかいスポンジ。

最後は甘さに緩んだ舌を引き締めるイチゴの酸味。

これぞまさしく人類が作り出した至福の逸品である。

「しあわせ…」

思わずそう呟いていた。

「それはよかったな」

応えが返ってくるとは思わなかった僕は向かいに座る祐二に視線を向けた。

祐二の手にはコーヒーカップしか握られていない。

先ほどまでの文庫本は読み終わったようで、すでに鞄の中に仕舞われている。

「もう終わり?珍しいね。いつもはもう一、二冊は持ってきてなかった?」

活字中毒の祐二にしては珍しい。つねに二冊以上はカバンに本を入れているのに。

僕の言葉にイヤなことでも思い出したのか、祐二の周りの空気が一気に下がったような気がする。

周囲に影響を与えるんじゃなくて表情で表現してほしい…。

「…バカに持ってかれた」

…バカ…将雄か。

だけど祐二の読む本は将雄の興味対象外だったはずた。

「何があったの?」

「しらん。少し目を離した隙にふざけた置き残して持っていきやがった」

そう言ってズボンのポケットから取り出したのは、クシャクシャになったメモ書きだった。

将雄が残した書き置きだろう。


【祐二へ

 すまん、ちと借りる。

  理由は聞いてくれるな。男には譲れない時があるんだ!

                                    将雄 】


「どんな時だよ…」

思わずメモに向かって突っ込んでしまった。

そして紙がクシャクシャな理由が何となくわかった。

読み上げた瞬間、祐二が怒りに任せて握り潰したんだろう。

「…いい度胸だ。あの野郎」

祐二が不穏な空気を撒き散らしている。

それにしても、将雄は相変わらず学習能力がない。

前にも似たような行動を起こして痛い目に合ったはずなのに。

あの時のお仕置きは確か……「人間の限界シリーズ 海水浴編」だったかな?


「玲」

将雄が受けたお仕置きを思い出していたら、唐突に名前を呼ばれる。

「なに?」

「何が食べたい?」

祐二が僕の後ろに視線を向けたまま聞いてきた。僕は何となく事情を察する。

後ろを振り返ると、そこには案の定将雄がいた。

隣の女の子と楽しそうに会話をしながら歩いてくる。

セミロングの髪にノンフレームのメガネ。

アイボリーのダッフルコート、膝丈のスカートとショートブーツ。

胸元には大事そうに本を抱えている。

大人しい印象の娘だけど、遠目に見ても可愛いことがわかる。

僕たちに気付いた将雄がその女の子と二、三言葉を交わしてからそこで別れ、こちらに走ってくる。

近づくにつれて弛んだ将雄の表情がはっきり見てとれた。

「わりぃ。待たせた!!」

満面の笑みが気持ち悪いよ将雄。

「聞いてくれよ!さっきの娘からようやくメアドゲットしたんだ!いやもう大変だったなぁ…。趣味が読書だっていうから今読みたがってる本を探したりしたんだけと人気の作品なのか、なかなか見つかんなくってさ。だけど祐二がたまたま持ってて助かったよ!ありがとなっ!!」

持ち主の了承もないまま持ち去ったはずなのに、ここまで言える将雄はある意味凄い。

そしてやっぱり学習能力が欠落したおバカさんだ…。

「…で、何がいい?」

「…生のお魚って…最近食べてないよねぇ?」

「奇遇だな。俺もだ」

これで今日の夕飯は決定した。お寿司なんて久しぶりだなぁ。

「えっ?何の話してんだ?」

訳がわからない将雄は頭に?マークを飛ばしている。

「将雄に奢ってもらうご飯の話」

「へ?…え?って、なんでぇ?!」

「自業自得、問答無用」


ほんと懲りないヤツだ。

初投稿作品です。

時期はずれの1月設定…。

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